特集 1999.5/vol.2-No.2

改正男女雇用機会均等法とこれからの企業のあり方
 「改正男女雇用機会均等法」は、企業の根幹である人事・労務制度の見直しを迫る法律である。また、「女性のみの募集・採用は禁止」という一項は、これまでの観念を打ち破るものだった。広告・マーケティングの世界では、その動向をつかまえなければ市場が読めないと言われて久しい女性の存在だが、「改正均等法」によりビジネスの現場はどう変わるのか。
 今回の特集では、「改正均等法」とは何か。それが企業社会にどのような影響を及ぼすのかについて探った。
改正均等法の背景と課題
 
 四月一日「改正男女雇用機会均等法」が施行された。今回の改正では一九八五年の「男女雇用機会均等法」から一歩踏み込んで、これまで努力義務だった募集・採用、配置・昇進についての女性に対する差別は「禁止」となった。これに伴い労働基準法に基づく「女性の時間外・休日労働、深夜業」の規制は解消されたが、育児・介護休業法が同日施行され男女ともに職業、家庭生活を両立できる条件が整備されたとしている。

混乱を招いた募集・採用の禁止

 今回論議を呼んだのは同法第五条の求人募集及び採用についてで、原則として男性のみ、女性のみの求人募集・採用が禁止され、それにともなって募集広告の掲載も禁止、これまで慣例だった職業に関する呼称も、どちらかの性を象徴するものは改めなければならないとされたことである。施行前夜、均等法の論議はこの点に集中した。
 スチュワーデスはフライトアテンダント、保母は保育士、セールスレディーはセールススタッフ、営業マン・カメラマンは必ず男女と入れる、看護婦は看護婦・看護士と併記するとする一方、神父、巫女(みこ)、ホスト、ホステス、女優は例外として女性のみ、男性のみの募集も可ということが伝わるにつれ、均等法本来の論議よりもこの不可解な行政の介入と“話題”に論点がズレていき、現場の混乱を招いた。
 この事態が象徴するように抽出された職業のジャンルは様々である。男女を問わず仕事はその立場立場で、働く形態も選ぶ職種も生活の中に占める割合も違っている。また、企業にとってもその活用の仕方は様々であろう。

国際婦人年から四半世紀

●改正男女雇用機会均等法までの国内外の動き
1975 ○国際婦人年世界会議[第1回]
婦人問題企画推進本部設置
1977 「国内行動計画」計画期間:今後10年間(1977〜1986)
1979 ○国連第34回総会「女子差別撤廃条約」採択
1980 ○「国連婦人の10年」中間年世界会議[第2 回]
1985 ○「国連婦人の10年」ナイロビ世界会議[第3回]
「男女雇用機会均等法」の公布/「女子差別撤廃条約」批准
1987 「西暦2000年に向けての新国内行動計画」策定
1991 「西暦2000年に向けての新国内行動計画(第1次改定)
一男女共同参画型社会の形成を目指す一」策定
1992 「育児休業法」の施行
○第4回世界女性会議「北京宣言及び行動綱領」(〜2000年)
1995 「育児休業法」の改正(介護休業制度の法制化)
1996 「男女共同参画2000年プラン」策定
1999 「改正男女雇用機会均等法」施行

(○印は国連の動き)

 一九七五年の「国際婦人年」から四半世紀、一九八五年の「男女雇用機会均等法」を経て、世論は一貫して女性差別撤廃から女性を積極的に活用する方向で動いてきた。各企業においてもバブル期には特に女性の戦力化が言われ、女性活用の成功事例が数多く登場した。あわせて子育てを終えて働く主婦も増加し、バブル期の労働市場を下支えしてきたともいえる。それが昨今の経済環境の悪化とともに女性、とくに大卒女子に対する門戸は狭くなっていった。「このような経済環境のもとで、募集まで規制されるのはいかがなものか」という当初の企業側の当惑と、労基法による保護規定が解消されることに難色を示す労働側の議論の経過が見えてこなかったことも、唐突な感じを与えた一因といえるかもしれない。
 しかしながら、「改正均等法」の背景には少子・高齢化社会の到来による労働力不足の時代がまもなくやってくるという認識がある。雇用の現場の四〇%を占める女性の労働力を活用できなければ企業は生き残れないのではないか、あわせてこれまでの日本企業を支えてきた終身雇用、年功序列型賃金体系も高齢化時代の到来によって見直さなければならなくなってきた。企業が年功型賃金を見直し、能力給を導入し始めた動きと無縁ではない。そこには男性だから女性だからといった従来の固定観念に基づいた職種・職域の配分を優先させていたのでは、国際競争に勝ち抜いていくことはできないという認識もある。当初から言われてきた、性差ではなく個人差によってその能力を活用、評価されなければならないという、いわば当たり前のことが今改めて語られはじめたのだといえよう。

セクハラとポジティブアクション

 国際化時代を迎えて企業の活動は国内のみにとどまらず海外へと進出していくケースが増えている。九六年の米国三菱自動車製造が訴えられたセクハラ事件のように、欧米では一般化している「差別禁止法」を理解していないと思わぬところに危機が待ち受けている。今回の改正均等法ではこのセクシュアルハラスメントについても事業主の配慮が義務付けられた。さらに訴訟・調停に際してもこれまでは双方の同意が条件であったのに対し、一方の申請で受理されることとなった。
 雇用における男女の実質的な平等を確保するために、主として女性を対象にした積極的措置・施策、いわゆるポジティブアクションが導入されたが、これは実際の職場で事実上の格差をもたらし、そのために男女の均等な機会と待遇の確保に障害になっている状況を解消するためのもので、事業主が自主的に講じる場合には国が相談、そのほかの援助を行う規定も盛り込まれた。このポジティブアクションの規定は職場の男女比率が極端にどちらかに偏っている場合にその偏りを解消するための男女別の募集・採用は認めている。
 労働基準法の改正による女性の時間外・休日労働、深夜業の規制は解消されたが、母性の健康管理は事業主に義務付けられ、育児・介護休業法も四月一日から施行された。差別禁止に違反した企業名の公表という制裁措置もまた同時に動きだしている。

問われる男女の職域

 男女がどのような形で社会に参画していくのかというテーマは、法律が施行されたからといって即変化するものではないだろう。そこには、根強い男女の役割分担意識や歴史的な背景、生活感覚ともいうべきものがあり、一朝一夕には変化しない部分も当然含まれる。平等の名の基に労働強化が行われるのではないか、男女別募集の禁止は逆に女性の選択肢を狭め、幻想を抱かせるだけではないのか、男女従業員の比率は五分五分になどというのは、自由な企業活動を妨げるものではないのかなどなど依然継続して論議されなければならない課題は残る。

雇用者数の推移

 雇用の現場や求職者は今回の「改正均等法」をどう受け止めているのだろう。「女性のみの募集は禁止」に異議を申し立ててきた日本新聞協会広告委員会は昨年十一月読者と広告主を対象にアンケートを行った(読者1,146通、広告主1,016社の有効回答を集計)。
 読者(求職者)で改正均等法を知っていたのは全体の約半数、女性とくに若年層で低かった。改正法により新聞等の求人広告で女性、男性に特定した表現ができなくなることについては、求人広告の表現規制のみで男女差別の実態はなくならないとする回答が68.8%と最も多く、女性に限ると72.6%にも上った。また職を探す上でも不便になるとの回答も50.3%あり、実態として差別はなくならず、しかも不便になるとの声が女性層で多く、女性の雇用機会が減少するという懸念も三割近くあった。
 職を探す際の方法は、新聞広告を見る人が76.6%と圧倒的に多く、次いで公共職業安定所、求人雑誌、折り込みチラシの順。新聞広告で職を探す理由は掲載企業の多さが評価されているほか、一覧性や信頼性が高く評価されている。

広告主の対応にも温度差

 広告主企業では八割以上が改正均等法について知っているものの従業員規模が小さいほど認知率が低下している。知っていると答えた企業のうち67.1%が新聞、テレビなど報道を通じて知ったとしており、労働省からの広報との回答は30.2%だった。従業員規模別に見ると小規模の企業ほど労働省による広報の割合が低下しており、規模の大小で格差が生じていることがうかがえる。
 改正法の具体的な内容で最も認知率が高かったのは「募集・採用にかかわる女性差別の禁止」で93.8%に達した。このほかには、「配置・昇進にかかわる女性差別の禁止」「女性のみ、女性優遇の原則禁止」「セクシュアルハラスメント防止の配慮」の順。
 改正法により新聞の求人広告で採用表現が制限されることについては、89.2%が制限されることを知っていたが、「読者(求職者)へのサービス低下になり反対」とする回答が全体の40.5%あり、企業規模が小さくなるほど反対意見が多かった。
 求人広告の表現規制が実務上に及ぼす影響については、「仕事によっては性別の向き、不向きがあるのに不都合」との回答が57.4%で最も多く、次いで「募集・採用時の対応に手間がかかる」「求人の際の広告表現が難しくなる」などだった。「特に影響はない」は14.0%で、多くの広告主は実務に影響が及ぶと懸念している。
 募集・採用、配置・昇進における男女平等体制については、そうした体制を整えていると回答した企業は65.4%で、残り34.6%はまだ整備されていないと答えている。特に従業員規模十人以下では55.1%にも上り規模の大小で整備の格差が生じている実態がうかがえる。体制が整っていない企業に四月以降体制を整える用意があるか聞いたところ、用意があると答えたのは38.6%にとどまり、用意が出来ないとの回答が過半数を占めた。

改正均等法の積み残した問題

 今回の改正均等法は派遣社員やパートの社員については議論されていない。派遣やパートで働く人々は景気の波に左右されやすく、流動的な雇用環境の中で働かざるを得ない状況下にある。日常的に求人広告を見て求職活動をするのもこの層の人々である。さらに、これらの人材に頼らざるを得ない企業の中には、従業員数の少ない中・小規模の企業があることも事実である。前述のアンケート結果を見ても分かるように、これらの企業の中には改正均等法の精神を理解しつつも設備や経費の関係で対応しきれない所も出てくるであろう。
 改正均等法が施行されて一か月余。新聞の案内広告から「女子募集」の欄柱が消えた。女性のみを募集することが禁止されたことに伴い媒体各社がその精神を順守した結果である。しかしながら現在に至る経済活動を下支えしてきたのは「求人広告」を頼りに人材を求め、職を求めてきた人々であることもまた否定出来ない。この部分をどのように救済していくのかについての回答はまだ見えてこない。

疑問が残る 行政指導


 ホスト、ホステスは○、ウエーター、ウエートレスは×、仲居さんも×……。改正均等法の施行にあたって、労働省が示した募集広告の指導細則だ。なぜ、ホステスはよくて、ウエートレスはダメなのか。男女どちらでも務まる仕事か否か、が判断の分かれ目ということなのだろうが、そうなると、労働省は「仲居さんは男でもできる」と考えていることになる。
 現実の<職種と性>の関係は「男女ともにできるはず」といった潤いのない考え方では律し得ないものがある。とくにサービス業は、明らかに女性向き、男性向きの職種が数多く存在する。雇用主がある職種を想定し「女性(男性)が欲しい」と考えたとしても、それは決して<差別>ではない。しかし今回、労働省は性を特定した募集は、均等法違反だという。度重なれば「企業名の公表」も辞さないらしい。
 喫茶店の店主はウエートレスが欲しいのに、その募集ができないから「喫茶店従業員募集」と広告せざるを得ない。この不況下だ。当然、男性も多数応募してくるだろう。しかし、この店主はもともと男を採る気はないのだから、面接する前から応募してきた男たちの「不採用」は決まっている。国民経済の壮大な無駄としかいいようがない。
 新聞広告の男女別の欄柱。これも同じ理由から使ってはいけないという。が、もともとこの欄柱、読者の便宜のために設けたものだ。いわば「適職に早く出合うため」のインデックスなのである。先の新聞協会アンケートでも、それがなくなることは、72.6%の女性が「まことに不便」と答えている。とにかく、法律は施行された。しかし、募集の上での男女差をなくし、職種の呼称を変えただけでは真に均等な雇用は確保されない。今後とも指導細則の見直しを含めた労働省の柔軟姿勢を期待したい。

(読売新聞社 広告第五部長 梅山英次郎)




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