特集 1999.3/vol.12

広告会社新しい流れ
デジタルに特化した明日の広告会社をめざして
 ここ数年、インターネットが広告媒体として注目されるようになってきたが、多メディア化、デジタル化という時代の流れは、これまでの広告会社の業務をも大きく変えようとしている。そんな中で、いち早くデジタル時代への対応を打ち出しているのが、一昨年四月にソニーグループの広告会社として再スタートしたインタービジョンだ。四媒体は“今日のご飯”、デジタルは“明日のご飯”と語るインタービジョン社長、安藤孝四郎氏に、今後の方針と抱負を聞いた。
安藤孝四郎氏
 
――ソニーの全面的な資本参加で新しい広告会社としての期待が高まっていると思いますが、インタービジョンをどのような広告会社と位置づけていますか。
 ソニーが東急電鉄から94%の資本を取得し、東急エージェンシー・インターナショナルからインタービジョンになったのは、一昨年、一九九七年の四月二十八日です。ですから、再スタートして間もなく丸二年になります。
 お陰様で九八年度四月〜十二月は売上高が一一四%になっています。一〜三月は各広告会社とも前年割れで苦労していますが当社も同じです。それを含めても九八年度は110%でいける見通しです。 
 広告会社としての位置づけということですが、いま、すごい勢いでメディアが変わりつつあります。デジタルという一つのキーワードで全部が動き出しています。マスメディアの時代からインタラクティブなメディアの時代に突入しつつある。その変化の最中にインタービジョンは生まれました。これが当社の生きる道を象徴的に指し示しているように思います。
 ソニーにも同じ考え方がありますが、どこの会社にも“今日のご飯”と“明日のご飯”があります。今日、ご飯を食べていくためにやらなければいけない
ことと、明日のご飯をおいしく食べる方法、両方同時並行でや
らなければならない。今日のご飯はいわゆる四媒体を中心とする既存の広告会社のあり方です。新聞、テレビ、ラジオ、雑誌の扱いを強化充実していくのは、広告会社がよってたつ基盤ですので、これは他の広告会社と同じように私どもも一生懸命努力をしている。
 問題は、広告会社の明日のご飯をどこで得るかです。冒頭お話ししたように、どうしてもわれわれはデジタルがもたらす新しい広告ビジネスに片足を置かざるを得ません。
 たとえば、米国では昨年、インターネットの広告扱い高が二千億円を超えています。日本は統計によってまちまちですが、百億円ぐらい。まだまだ未成熟、今後もどこまで行くか未知数です。しかし、米国を見ても新しい広告のビジネスチャンスはサイバービジネスに求めるのが第一です。米国ではインタラクティブ・エージェンシーという新しい広告会社が既に誕生しています。
 これからは、テレビのようにブロードに向けたブロードキャストがどんどん狭くなってきて、最後は一対一の電話まで、いわゆるナローキャストになっていきます。ワントゥーワンの世界の広告チャンスが生まれつつあります。ソニーには「ミディアムメディア」という言葉がありますが、ワントゥーワンより少し広い世界、インターネット広告はそういう形でとらえられると思います。これからの日本の広告会社も大きい小さいに関係なく、メディアの大きな変化の中で生きていかなければいけない。そういう時代が来ています。
 インタービジョンはソニーがバックということもあり、デジタル化された分野に事業を特化していきたいし、また何かやってくれるんじゃないかという周囲の期待も大きい。そういうわけで、いま、いろいろと作業を進めている最中です。
 広告が大きく変わってきているのは、出張で米国に行ったりするとよく感じます。テレビCMに「必ずここへ問い合わせてください」と、フリーダイヤルやホームページのURLが出ます。米国の82%ぐらいのテレビCMがそうなっている。日本のテレビCMでは16%ぐらいだそうですが、それでも増えてきたということです。
 新聞広告にも、ホームページのURLを掲載する企業が多くなりました。インタラクティブ性が新聞にも及んできたということだと思います。新聞広告が一種の情報の入り口になる。広告を見せて終わりではなくて、さらにアクセスするための情報がそこに載るようになってきた。これは、広告の大きな変化だと思います。そのことにまだみんなあまり気付いていないけれども、これから、それがどんどん増えていく。
 広告会社は企業とメディアと消費者の間に立ってコミュニケーションの仲介役を担っていたわけですが、インターネットが発達すると企業と消費者が直接アクセスする可能性も出てきます。企業の情報に消費者が直接アクセスする時代になります。
 そうなると、広告会社はいらなくなると短絡した話をする人もいるのですが、私はまったく逆で、広告会社の役割は増えてくると思っています。というのは、何百万人という消費者からの線が一企業に集中したら収拾がつかなくなるのは目に見えているからです。ですから、そこを仲介する一種の翻訳機能が必要になってくる。広告会社にはプロとしての正しい情報の出し方、情報処理機能の役割が出てくると思っています。
 従来の発想の延長線上で続くものもありますが、広告クリエーティブを含め、ほとんどは大きく変わらなければいけない時期にきている。それに対して広告会社はどう機能するか。メディアと一緒になってどんな働きができるかが、これから大事になってくると思います。

――今後、デジタル化された分野に事業を特化していきたいということですが、具体的なプロジェクトや組織は、すでに動いているのですか。
 一昨年、全社的な戦略を考える部署としてデジタルドリーム戦略室を発足させ、この二月十五日には、よりメディア寄りのところで新しいものを作っていくデジタルメディアセンターも開設しています。
 デジタル時代に対応した新しい広告分野の一つは、やはりインターネットです。バナー広告は単なる入り口ですから、その先にあるものをどう作っていくか。具体的な話になってしまいますが、先ほどの新聞広告にURLを掲載した場合のホームページに対するアクセス数ですけれども、新聞広告掲載日にはビジター数で二倍、全体のアクセス数が三倍になるというデータも出ています。新聞広告一回で終わるのではなくて、ホームページとリンクさせてより戦略的な広告展開ができないかということも研究しています。
 一つ例として挙げたいのは、ソニーが進めているPAWを使ったソサエティー型ホームページの提案です。PAWはインターネット上に一つの仮想世界を作ってそこで遊んでもらう三次元のバーチャル・ソサエティーです。アクセスした人は十六種類用意された「アバタ」というキャラクターから自分の分身を選んで、PAWの四つの島で自由に遊べます。ソネットのポストペットにちょっと近いものがあって、ペットもいます。そこでは、ほかのアバタとチャットを楽しむこともできます。
 いま私どもで考えているのは、そこにクライアントのブランドワールドを築くことです。例えば、○○ブランドワールドのようなタイトルをトップページに設け、そこをクリックすると自分の分身がショールームを歩く感じで探索できるというものです。顧客との関係性を強化することでブランドのファンとして囲い込むことが可能ですし、また、メールアドレスやブランドワールド内での滞留履歴を基にデータベースを構築すれば、効率的なダイレクトマーケティングの展開が可能になるはずです。まだトライアルの段階ですが、四月には媒体説明会をさせていただこうと思っています。
 また、データベースを活用したダイレクトマーケティングの新しい手法の開発にも取り組んでいます。インターネットなどデジタルメディアでその人の視聴パターンを読み取りながら、好みを特定するなど、マイニング技術を取り入れたデータベースも研究しています。
 デジタルに特化した取り組みとしては、もう一つ、衛星放送があります。将来、地上波もデジタルになりますが、BS放送、CSデジタル放送合わせて三百ぐらいのチャンネル数になります。従来のテレビはテレビ局が編成権を持っていて、ニュース、お笑い、歌、ドラマ、スポーツと朝から晩までやっていました。しかし、これからは視聴者自身が編成局長になって、曜日ごとの自分の好きな番組を独自にセッティングして見るという時代になります。そうなると広告の打ち方も一つの広告をみんなに流すマスではなくて、それぞれの視聴者の嗜好(しこう)に合ったチャンネル志向の広告を打っていかないと企業は満足しないということなる。そのためには視聴状況や視聴者の特性をしっかり分析して、それをクライアントに提供できないと商売にならない。これについては、どこの広告会社もみな手探り状態です。
 当社は放送機器の分野でも高いシェアを持つソニー圏に入っているので、その技術を使って視聴状況を把握・分析して効果的に広告を入れていく。これは、インタービジョンならではの作業になるだろうと思います。この視聴データは、インタービジョンの一つのテーマとして取り組んでいます。
 ただ、これは難しい。チャンネル数が多いのと、すごい数の時間帯ですから簡単にはいかない。プラットホームや委託放送事業者の合意も必要ですし、具体的な取り組みはこれからという段階です。
 広告会社が、なぜこうした視聴データベースを持とうとしているのかといえば、広告料金を正当にルール化しなければならないと考えるからです。これは広告会社がやらなければいけない問題だと思います。
 また、放送関連ではもう一つ、IBC、インタラクティブ・ブロードキャスティング・コミュニケーションがこの二月に設立されました。CSデジタル放送におけるデータ・インタラクティブ放送サービスの企画会社で、ソニーが44%、電通、フジテレビなど六社が出資しています。双方向放送では、これまで一方通行だったコマーシャルを対話型にすることができるようになります。すでにクリエーティブ局ではテスト的にですが、制作を始めています。

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PAW(Personal Agent World)は、南の海に浮かぶ不思議な島にある街。インターネット上につくられた3Dの仮想の街である。アバタという自分の分身を選び、ペットと一緒に街を自由に歩くことができる。

――広告業界の環境も大きく変わっています。現在の広告会社や広告状況をどのようにとらえていますか。併せて、今後のインタービジョンの抱負もお聞かせください。
 外資系がすごい勢いで入ってきていますが、日本の広告会社は、大きく分けると三つのパターンに分けられると思っています。
 一つは日本流のメガ・エージェンシーを目指して世界に打って出ることができる上位三社。電通、博報堂、それとアサツーディ・ケイ。この三社は人的インフラも財務的インフラも十分ある。 
 中堅の広告会社は、専門特化した部分を中心に広告業を営んでいく。新聞社系の広告会社もこの中に入ります。代表例はJR東日本企画です。JRという大きな交通媒体を持っていて、それをバックに広告会社が成り立っている。他の広告会社は、手が出せません。
 専門分野のない広告会社はこれから本当の意味でも合従連衡や独特の生き方、武器をどこに求めるかをやっていかないと淘汰されていくと思います。
 メディアが変化していく中で、広告会社はどうやって生きていくか。そういう意味で、インタービジョンもソニーグループに入った広告会社の特色をデジタル分野に見いださないと、生きていけないと思っています。
 新聞広告も変わり目に来ていると思いますが、新聞はやはり活字メディアであり、日本語に一番近いところにいるメディアです。新聞広告のこれからのあり方もクリエーティブにかかっていると信じて疑わないんです。言葉の力をしっかり生かした、インタラクティブ性を生かした新しいクリエーティブをこれから提案していきたいと思っています。
 また、これだけ新しいメディアが増えると全体を見渡せる新聞の一覧性が貴重になります。画面をクリックすれば見たい情報がどんどん出てくる時代になりましたが、やはり、映像画面です。断片的な情報はいいのですが、活字として読ませる媒体ではありません。
 今後も、既存のビジネスを伸ばすためには、この新聞広告をはじめとする四媒体の扱いの新規開拓は欠かせません。しかし、新規開拓のツールがいままでなかった。それが、サイバービジネス関係を提案することで新しいお得意ができる好循環が生まれつつあります。最初に今年度は10%の伸びといいましたが、既存ビジネスの大型広告主が開拓できたからそこまでいったのです。
 日本の広告会社は媒体からの手数料で成り立っています。欧米のようなフィー制にはなっていません。ところが、日本のメディアバイイングというのは欧米と違ってまだルール化されていません。理想的なメディアプランニングをしたとして、いざ買い取りに入ったらあちこち買えない。それを二回やったらクライアントは信じません。だから、メディアバイイングはそれだけ取り出すと大きな問題には見えないけれど、広告会社にとって本当はすごく大事な部分です。電通がどうして強いかといえば、やはり強力なメディアバイイング力があるからです。媒体とのコミュニケーションが深くて、その結びつきが資産になっている。それを自分たちのクライアントのために提供できるから強力なんです。これは一つのスケールメリットです。
 電通に四十年いましたが、ここに来て電通の姿がよく分かります。だから、うちの強みも見えてきます。ソニーの出井社長とも話しているのですが、インタービジョンだからできるというビジネスを起こしていこうと思っています。ソニーの期待も大きいですし、いろんなものを二〇〇〇年までには立ち上げていくつもりでいます。
 ヤフーの株の時価総額がソニーを超えたという話がありますが、デジタルの世界では従来の広告ビジネスでは考えられないそういう成長カーブがあり得るのです。



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