特集 1999.3/vol.12

広告会社の新しい流れ  外資系広告会社と日本の広告会社のビジネスルールの違いや多メディア化によるメディアの役割の変化が、広告会社を大きく変えようとしている。それは、メディアと広告会社のあり方にも新しい問題を提起している。昨年の広告会社再編の中心となったアサツー ディ・ケイと新しいメディアへの取り組みに積極的なインタービジョンへのインタビューから、広告会社の新しい流れを探る。
これからの広告会社とメディアとの関係
辻氏   中嶋氏
 
WPPグループとの提携の経緯

――WPPグループとの提携、旭通信社と第一企画との合併と昨年は大変革の年だったと思いますが、まず、WPPグループとの提携の意図からお聞かせください。
  昨年六月末までオムニコムグループのBBDOと提携していましたが、I&Sの株式を20%取得する意向を伝えてきました。株式を取得された会社が国内にある以上、提携を続けるわけにはいかない。それで、急きょ新しい提携先を模索した。
 実は十五年以上前、BBDOと提携する以前から、WPPグループから会長の稲垣には接触がありました。ただ、BBDOとの提携が決まったため、それが実現しないまま今日に至っていたわけです。その提携が消えたことで、こちらからもWPPグループに積極的にアプローチして、とんとん拍子で話がまとまった。
 今、世界の広告会社で生き残れるのはトップのオムニコムグループ、WPPグループ、インターパブリック・グループ、それから電通の四グループしかないと言われているなかで、当社もグローバルスタンダードに対応するという考えの下に、今回の提携を実現したというのが事の経緯です。
 これまでは広告会社も横並び思想が非常に強く、他社のいい面を取り入れて国内だけで効率化を図っていく、そういう考え方で結果的には成功した企業が多かったわけですが、今は環境が変わり、やはりグローバルな対応をしていかないとお取引いただいているお客様のニーズに対応しきれない。世界に打って出ないと取り残されてしまうという危機感に近いものも社内にはありました。
 BBDOとの提携は、日本に現地法人のないグループとの提携でしたから、BBDOが本国で担当しているアカウントの日本での対応を協力するというものでした。しかし、WPPグループの場合はオグルヴィ&メイザー・ジャパンとJ・W・トンプソン・ジャパンの二社が国内にあります。言ってみれば競合他社になるわけですが、それぞれ内容が違いますので、同じグループの中で三社が協力しあってお互いに伸びていこうという発想が非常に強い。提携直後から大体毎月一回、それぞれとミーティングを持って、実際の仕事も動きはじめています。従来の提携とは違った形で伸びていけるという実感を得ています。

――提携については、とりあえず新しいフレームができたという段階ですね。
 辻 これからお互いに何か新しいものを作り出していく段階です。確かにBBDOもそうでしたがマーケティングではかなり進んだものをもっていますので、WPPグループのいろいろなノウハウは吸収しなければいけない。それを日本流に作りなおしてアサツー ディ・ケイの一つの武器にしていく。そういった面では前回の提携と同じですが、提携することによって何か新しいメリットを生み出して行こうという面は違います。ただ、提携したからお互いにメリットが生まれるんじゃなくて、新しいものを求めてアクティブに対応していくのが一番大切なことだと感じています。
クライアント競合問題とメディア

――今回の合併でカンパニー制を導入されましたが、その意図は?
 辻 期せずして、電通、博報堂、それから当社が、それぞれ考え方は違いますが、カンパニー制的な動きを始めています。
 当社の場合は、現在は法律上の規制で実現しませんが、将来的には持ち株会社方式によるグループ強化が目的です。やはり、旭通信社と第一企画との合併で規模が大きくなったといっても、スケールの点で上位二社の広告会社とはまだ大きな開きがあります。こうした強い力に対抗するためには、ある程度のグループ化を図って、スケールの面で近づいていっておかないと、なかなかビジネスがうまくいかない。そういうことを前提としたカンパニー制です。
 しかし、この一年はまだ模索している段階で、多分二年か三年かかって初めて体制ができると思います。 
 もちろん、お客様のニーズにタイムリーに、質的にも高度な内容で対応するためにはどうしたらいいのかということが、カンパニー制をとった一番の理由ではあるわけですが。

――合併・提携によるコンフリクト、競合問題も出てきているのでしょうか。
 辻 WPPグループではありませんが、旧旭通信社と第一企画のクライアントで競合するところがあり、いろいろご指摘を受けています。

――その問題には、どのように対応されているのでしょうか。
 辻 機密の保持が一番ですから、完全に担当者は違えていますし、場合によっては場所も変える。そのために銀座オフィスと日比谷オフィスで分けている。それから別のビル、関係会社が借りているところにプロジェクトルームを置いて、完全に隔離された状態で対応していく施策は取っています。

――外資系広告会社が入ってきてから競合問題が言われるようになってきた。つまり、広告会社が広告主の方を向くようになって、競合問題が出てきたと言われていますが、そのへんはどうなのでしょうか。
 辻 ブランド競合では相当厳しい要請がありますが、メディアバイイングは、許される範囲が広い印象を受けています。メディアバイイングだけならやってもいいと。ただブランドを担当して、マーケティングからクリエーティブまでとなると、やはり競合商品は扱えない。それが実態のような感じがします。
  三十年前は、“メディア側の広告代理店”なのか、“クライアント側の広告代理店”なのかと議論がありましたが、お互いに協力して成り立っていたわけです。しかし、最近はクライアント側に立たないとビジネスが成り立たない。やはり、クライアントのパートナーとして対応していかないと生き残れないのが現実の世界ではないかと思うのです。それが結果的には、メディアサイドにも大きく貢献しているということに多分なると思います。

――先程メディアバイイングの競合は許される範囲が広いと指摘されましたが、国内企業もそうなってきたということですか。
 中嶋 外資系企業の事例がほとんどです。ただ、最近では国内の広告主でもコスト効率のために一社にまかせる動きが出てきています。

――外資系広告会社はメディアの口座がないところもあるわけで、それで国内の有力な広告会社との業務提携がある。その場合、メディアの指定はプランを立てている広告会社から来るわけですか。
 辻 はい。ただ、口座を持ってやっている外資系広告会社もあります。たとえば、トンプソンは日本にメディアの口座があることを非常に誇りにしていると聞いています。

――以前から日本に進出している外資系広告会社は、国内のやり方になじんでいる部分がある?
 辻 ただ、効率化ということについては外資系はシビアです。ブランドは担当するけれども、メディアバイイングは、しかるべきところにお願いしてという発想が非常に強いですね。

日本企業海外進出のサポート

――日本の企業の海外進出支援もアサツー ディ・ケイの大きな柱だそうですが。
 辻 ヨーロッパ、東南アジア、アメリカ、中国に拠点を持っています。ヨーロッパは非常に成績がいいのですが、東南アジアは厳しい。これは当社だけではないと思います。

――日本と海外では仕事のやり方は違うわけですか。
 辻 そんなに違いはありません。ただ、ヨーロッパはかなりメディアバイイングが進んでいますので、直でバイイングやる場合もありますし、専門会社に依頼する場合も現実には出てきています。東南アジアはWPPグループのマインドシェアというメディアバイイング会社がかなり実績を持っていますが、当社はまだ直にバイイングをやっています。

――その方針は、今後も変わらない?
 辻 いえ。国内はオグルヴィ&メイザーやJ・W・トンプソンなどWPPグループの会社が伸びるために協力する。海外では両社の力を借りていかに効率化を図るかという方向になると思います。例えば、マレーシアに現地法人がありますが、トンプソン、オグルヴィ&メイザーも進出している。当社がそこに単独の事務所を持つべきか、両社に協力してもらった方がいいのか、その土地土地の事情によってやり方が違ってくる。そういう交流がこれから随分進んでくると思います。

――アサツー ディ・ケイが海外に出ていく場合の方針をお聞かせください。
 辻 当社の海外進出は、国内クライアントの海外進出と一緒に出ていくという形でスタートしました。単独でということは、将来的にもあり得ないだろうと思います。

アサツー ディ・ケイ今後の戦略

――今回の合併は、広告会社の第三極を目指すということでも話題になりました。国内の今後の戦略をお聞かせください。
 辻 旧旭通信社時代に、七位から五位になったときに感じたのは、やはりお取引いただく世界が随分変わってくるということでした。五位から三位では、外部の受け止め方が違ってきたと感じました。ですが、今、我々が考えているのは、お得意様重視の考え方です。お客様にご満足いただくことが第一だと。順位は結果であって、それは目標にしないという考え方に立っています。
 それから、WPPグループのなかに、いろんな機能を持った会社がかなりあります。医薬品関係の専門会社、リサーチ、パブリシティー関係の会社もあります。そういうところのノウハウをどんどん吸収していって、今までにないサービスが日本で提供できればと心掛けています。だから、どの媒体がどうというようなことはあまり意識していません。

――マーケティングなどメディア以外の業務を拡大していくとうかがっていますが。
 辻 拡大するとかしないとかではなくて、マーケティングとクリエーティブが我々の企業の生命ですから、この部分を強化していくのは基本的な方針です。
 広告取引がプレゼンテーションに勝たないとどうにもならない時代になってきているということです。プレゼンテーションをやって仕事が決まるようなケースでないと、あまり大きな仕事はありません。
 やはり、そのためにはマーケティング、クリエーティブ、これがカギになります。これは絶えず強化していくということです。
 当社は旧旭通信社時代にセールスプロモーションを強化して、その実績に基づいてメディアに拡大していく戦略を数年にわたって取ってきました。この分野はかなりのスタッフもいますが、効率の悪い世界であることは確かです。今後は、もう少し戦略を変えなければいけないのかなという気がしています。
 ただ、WPPグループは、グループ会社がセールスプロモーション機能を持っていませんから、そういう点では当社がバックアップできる。また、旧第一企画もこの分野はあまり強くなかったわけで、一緒になったことによって、そういうものがまた生きてくると思います。

新聞広告に対するアドバイス

――新聞についてはどのような考えをお持ちですか。
 辻 電波はわりと自由に動き回れますが、新聞は保守的なところがあって、なかなか自由にならない。アサツー ディ・ケイ単独ではなくて、冒頭で出たグループ化を図って強力な体制にしていかないと、我々の要望に100%応じていただけないのかなという心配がある。そのためにも今がんばっているというようなところはあります。
 中嶋 新聞、雑誌しかない時代から多メディア時代になって、そのなかで競争していかなくてはいけない。昔は新聞間の競争でした。これからは、競合メディアがテレビやインターネットであったり、あるいはイベントであったりと、従来のメディアに代わる現象が増えてきています。
 そういう状況のなかで、新聞とは、新聞広告とはどうあるべきかというふうに考えていかなければいけないだろうと思います。多メディアとの比較の中で優位性を考えていく必要があります。
 新聞は一般には幅の広いメディアといわれています。しかし、主たる読者は四十代、五十代の熟年層です。最近の企業はターゲットをかなり限定して商品開発や販売戦略を立てていますので「幅広いメディア」がマイナスに作用するケースがあります。

――新聞の到達率の高さというのは、あまり意味を持たなくなったということですか。
 中嶋 必ずしもそうではなく、使い分けが必要です。例えば通販でリストの見直しが目的のときは当然部数の多い新聞が有利になりますし、そういうところはそれでいいんです。
 ところがある広告主のあるターゲットに対して何かを仕掛けるといったときに、○○新聞がいいですよとはなかなか言いにくい部分があるわけです。
 ターゲットに向けて、いろんな生活提案のようなことをしていく。例えば、住宅産業は新聞にとって非常に大事な広告主ですね。最近の三十代、四十代は、養育や教育にお金がかかり、なかなかターゲットになりにくい。むしろ二十代と五十代以上がターゲットとして有力視されています。だから、二十代のターゲットには家族の変化に応じて、転売可能な物件の提案をするとか、五十代以上に向けては、例えばバリアフリー住宅のように高齢者向きの工夫が紹介された記事とのタイアップを広告会社と一緒に提案していくことなど、掘り起こしができそうなターゲットに向けて一緒になって新しい生活提案をしていくというような発想を重ねていくと、新聞の多面的な機能や新しい可能性が生まれてくるんじゃないか。そんな気がするんです。

――外資系広告会社が国内の広告会社のメディアバイイング機能だけを利用することが増えてくると、そういった協力関係をつくることが今後は難しくなりませんか?
 中嶋 メディアバイイングの扱い量が増える傾向にあるのは事実です。ですから、ブランドエージェンシーと共同提案したり、直接広告主に対して提案活動をしていくことも十分考えられます。

これからの広告取引はどうあるべきか

――新聞社と広告会社の協力関係を深めていくことは、今後も十分可能だと……。
 中嶋 ただ、現場に話を聞くと、まだ場所取りなどの従来の仕事に時間がかかるという意見が多いのも事実です。電子取引とまではいわないけれど、むしろその時間を知恵の提案活動に使いたい。新聞社と広告会社とが組んで、広告主に対して提案をしていく時間が少ないのはマイナスだと思いますね。
 もう一つは、多メディア化の状況で、新聞のマージンは原則的に15%です。しかし、ほかのメディア、少なくとも四大メディアのうち三つは20%以上のマージンが入る。マージンでメディアの使い方を決めるわけではないのですが、広告会社のマージンが今過当競争で低くなっていることもあり、当社の営業からは「もう少し何とかならないか」という意見はあります。
 新聞のなかの戦いというより、ほかのメディアとのせめぎあいなんだということを前提にお考えいただくと、マージンも大きな問題提起になると思います。
 また、今の話とは矛盾するのですが、非常に低料金で一括買いを行うセントラルメディアバイイングの動きも一方にはある。そうした面からも、マージン問題は一つの大きな転換点になる気はします。

――これまでの広告取引を見直す時期になってきたということでしょうか。もちろん、よい面もあったと思うのですが?
 中嶋 例えば、長期契約広告主の扱いに他の広告会社が参入しようとするときにそれを媒体社が援護してくれるなど、それはそれでいいところもありますが、新規で広告主を獲得しようとしたり、新たに市場参入しようと思っている広告会社にとってはマイナス面でもある。競争原理に逆行している。非常に微妙な話ですが。

――営業や媒体担当の方の世代交代が進むと、これまでの広告取引はなじみにくい面も出てくる?
 中嶋 やはり競争原理がさらに働いていくような状況になると思います。新聞がだめならほかのメディアで稼ごうという動きになってくる。
 ただ、我々の部門は新聞社の広告局と非常に立場が似通っているわけです。ある意味では運命共同体です。
 ですから、やや我田引水になるかもしれませんが、広告会社の新聞部門を応援していただくような仕組みを作ることが、新聞の優勢につながっていくことになるんじゃないかと思います。
 辻 当社ぐらいのレベルのところがもっと力を付けてくれば、少しは媒体事情も変わってくるのかなという気がしています。そのためには我々も力を付けていかないとだめなんです。歴史的経緯もありますが、日本はやはり特定の広告会社が強いですから。
 中嶋 そういう広告会社が従来
型のルールのもとで強大なパワーを発揮しています。我々はそのルールに乗っかっているわけですが、今後市場の国際化にともなって、市場原理、競争原理によるメディア環境に変えてほしいという広告主の期待は大いに感じます。
 すべてのやり方が欧米流でいいのかどうかはわかりませんが、今まで通りが完全とはいえません。今後の課題は、欧米流の合理性、日本独特のやり方、それぞれいいところがたくさんあるわけで、そのへんをどう融合させるかということだろうと思います。


  新会社設立を記念し9紙にプレゼント広告を掲載 紙面
 平成11年1月1日のアサツー ディ・ケイのスタートを記念して、同社は1月初旬に「いいとし、いいもの新春BIGプレゼント」を全国紙、ブロック紙あわせて9紙に掲載した。賞品は乗用車、カーナビ、パソコン、引っ越し費用割引、冷凍冷蔵庫など7商品・サービス。キャンペーン期間の1月4日から18日に寄せられた応募総数は、1,262,011通にも達した。
 応募の内訳を新聞別に見ると、掲載日が他紙と1日遅れの4日であったにもかかわらず読売新聞がトップで、402,950通の応募があった。これは応募数全体の31.9%、3分の1に相当する。第2位の新聞の応募数は335,039通で、全体の26.5%だった。


(→デジタルに特化した明日の広告会社をめざして
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