特集 1998.12/vol.9

外資系広告会社のビジネスルール  外資系広告会社の動勢が注目されている。オムニコムやWPPなど世界No.1、No.2の広告会社グループと日本の広告会社の提携・再編も進行している。世界第2位の広告市場である日本に最近進出してきた外資系広告会社のねらいは何か。日本とのビジネスルールの違いはどこにあるのか。I&Sに資本参加したBBDOと、WPPグループの中核企業であるオグルヴィ&メイザーに聞いた。また、ワールドワイドな広告会社グループ誕生の経緯についても整理した。
ワールドワイドのリソースを日本の企業に I&S/BBDO 取締役本部長 ジェラルド・ジェンテマン
 
 BBDOは、世界最大の広告会社グループ米オムニコムグループ(ニューヨーク)の中核企業だ。現地の広告会社と組んだ世界展開を方針とし、日本のクライアント獲得にも強い意欲を見せる。関連するメディアバイイング会社OMDは、アメリカ全土、ヨーロッパ全域でトップの実績を持つ。

各国広告会社とのパートナーシップ

――BBDOは今回I&Sに資本参加したが、その意図をまずお聞かせください。
 これまで日本に進出してきた外資系広告会社は、どこも外資系広告会社流、ニューヨーク流を持ち込もうとしていた。これは私個人が、日本を含む世界のさまざまな地域の広告会社のクリエーティブとして過去十七年間働いてきた実感でもある。日本の広告会社が海外に進出した場合も、東京風の広告会社になっている。
 我々はこれまでの外資系広告会社とは違う道を目指している。BBDOのワールドワイドの方針は、現地のリソースに強い広告会社とパートナーシップを組むということだ。昨年まで十四年間旭通信社とパートナーシップを組んでいたが、残念ながら経営には参画していなかった。今回I&Sと組んだのは、真のパートナーシップを結び確固たる基盤を日本につくり、お互いの持つリソースを融合していくためだ。
 I&Sは日本テレビや読売新聞といった魅力的な媒体とのつながりも深い。取引先の広告主にI&Sの評価を聞いたが、長期にわたってクライアントとのつながりを大切にしている、プロとしての意識の高さ、ビジネスへの取り組み方のまじめさ、効果的なバイイングをしている点などが評価されている。また、日本のクライアントから世界に適応できるブランド構築をして欲しいという要請があったこともきっかけになっている。
 つまり、リソース力にすぐれた日本の広告会社と海外で力を持つ広告会社が協力して日本の企業にサービスを提供するという方針だ。

――BBDOは、日本に進出してきた外資系企業だけではなく、日本の国際企業に対してのサービス提供を目指しているということですか。
 先日、オムニコムグループとBBDOの会長兼CEOのアレン・ローゼンシャインが来日してスピーチを行ったが、「BBDOのワールドワイド・リソースのすべては、日本の企業に提供できる」と語っている。BBDOは世界各国で広告主のブランド資産の構築に貢献しているが、国際的に事業を展開する日本のクライアントにもこうしたワールドワイドなサービスを提供したいと考えている。そのために今後、I&SのスタッフをBBDOのキーとなる世界各国の拠点に置く考えだ。

――BBDOの海外拠点でのポジションを教えてください。
 BBDOはドイツ、イギリスなどナンバー1を誇る地域が世界に十か所ある。オーストラリアでもナンバー2の位置にある。また、メディア面でもOMDというメディアバイイング会社を持っている。ヨーロッパ全域とアメリカ全土ではナンバー1、アジアではナンバー2の実績だ。日本のクライアントの方にはいいニュースだと思うが、中国、香港ではまもなくナンバー1になる見込みだ。

ターゲットを絞り込んだピンポイントバイイング

――日本でBBDOがバイイング活動を行う予定はあるのですか。
 今のところはない。日本のメディアの背景は独特だ。アメリカやヨーロッパとは違い、日本では電通、博報堂に代表されるように広告会社の規模(サイズ)がバイイング力の大きな要因になっている。メディアと広告会社の結びつきも強い。しかし、メディアプランニングの面では、OMDのツール、プランニング力が大きな力になると考えている。

――メディアバイイング、プランニングでは、データが非常に重要だといわれていますが。
 日本のクライアントも最近は変わってきて、効果的なバイイング、ターゲットを絞り込んだバイイングを望んでいる。テレビの場合でいうと、我々も今までは番組ごと買うことが多かったが、ターゲットに絞り込むバイイングが欠如していたと考えている。たとえば、十八歳でチョコレートが好きな男の子の消費者、そこに絞り込んだメディアは何か。彼らは何時にどんな媒体を見ているのか。これを私は「ピンポイントバイイング」とあえて呼びたいが、そのようなバイイングが求められている。
 今後、衛星放送、ケーブルテレビ、インターネットなどメディアの多様化が期待されている中、コスト的に効果的なバイイングを行っていくためにも、このピンポイントバイイングがより重要性を増すと考えている。

――データは、独自に調査されているのですか。
 既存のリサーチデータと新しく独自に開発したものを使っている。OMDが世界で成功している理由がこの点にあると思っている。独自のデータを用意しているということは、クライアントの要望にあったテーラーメードのデータが出せるということだ。
 日本に限らず、アジアでは広告活動に必要なデータの数が限られている。OMDはここに着目して、独自に投資していく必要があると考えている。日本を除くアジアでは、ニールセンが行っているような日記形式の調査をはじめ、消費者パネルをつくりデータ収集を行っている。
 日本の場合は現在調査中という段階だが、I&Sへの出資会社であるセゾン・グループ、特にカード保有者のデータは消費者データとして非常に有効であり、将来メディアに関するデータとのリンクができれば、きわめて強力なツールになると考えている。

――国によって媒体事情は異なると思います。たとえばアメリカと日本の新聞を比較してもポジションは違うと思うのですが、メディアプランニングの場合、地域差は考慮しているのですか。
 アメリカと日本の違いを例に話せば、アメリカのテレビは細分化が進んでいる。新聞はローカルなメディアとしての機能を担当しているが、最近はインターネットが新聞を浸食しているという状況だ。日本の場合九割以上の家庭が新聞を購読しており、識字率も極めて高い。一千万部、八百万部という全国紙が存在していることも大きな違いだ。そういう意味では、新聞のポジションが違うと認識している。また、ローカル紙もテスト・マーケティングのメディアとして有効ではないかと考えている。

●BBDO制作の広告作品
ペプシコーラCF マスターフーズCF

BBDO独自のツールを持つ強み

――BBDOのブランド構築のノウハウについて、お話を伺いたいのですが。
 我々はワールドワイドな広告会社としてのノウハウ、ツールを持っている。成功するクリエーティブのためにも、ツールの開発は重要だ。I&Sのスタッフにもそれを学んでもらうつもりだ。先週も、営業チームをアメリカに派遣し研修に参加してもらい、VISAブランドのケーススタディーを学んでもらったばかりだ。

――ケーススタディーの内容を簡単にご紹介ください。
 カード市場は数年前までアメックスが飛び抜けたステータスを持っており、マスター、ダイナース、VISAは同じようなポジションにあった。はじめは三者の差別化がテーマだった。しかし、リレハンメル・オリンピックの公式スポンサーにVISAがなった時に新たなキャンペーンを行った。「○○○でアメックスは使えますか? 使えません」。カードの使われるさまざまな場所、店を題材に行われたキャンペーンは大きな成功を収め、現在ではアメックスとVISAの立場は逆転している。

――クリエーティブにもツールの開発は重要だということですが、BBDOのツールとはどのようなものですか。
 日本のクライアントの方から国内のブランド管理ができないか、日本の市場に適用できるツールはないかという問い合わせを受ける。我々は日本のクライアントの要望にもこたえられる多くのツールを持っている。「BBDOs proprietary strategic tools」と呼んでいるものだが、新商品の開発、現行商品の動向、競合ブランドの分析、広告効果の測定などツールは十を数える。これらの中には、コンピューターのソフトウエアもあるが、多くはメソッド、方法論と表現した方がいいものだ。また、その内容も固定的なものではなく、常に最新のものになっている。日本の市場にも十分適用できるツールだと、これまでの経験上確信している。

日本市場とグローバルスタンダード

――ワールドワイドで活躍している広告会社は、グローバルスタンダードを前提に日本に進出して来ていると考えられがちだが、今のお話から少し違う印象を受けるのですが。
 はじめに言ったように、我々は強いローカルパートナーを目指している。ブランド管理という面では確かにグローバルスタンダードは必要だが、ブラジルにはブラジルの、スペインにはスペインの、日本には日本の消費者特性、市場特性がある。広告表現は地域ごとにフレキシブルに変えていく必要があると考えている。そのいい例が、日本の「ペプシマン」の広告だ。

――クリエーティブはそうした面はあるかもしれません。しかし、広告取引ではグローバルスタンダードを強く求めていると聞いていますが。
 アメリカ、ヨーロッパでは、エビデンスが求められるなど広告取引の透明性が当たり前になっている。だが、これはフィーとマージンは別だという前提があるからだ。アメリカの場合は、決められたマージン以外のサービスはフィーで支払うということがはっきりしている。
 日本の広告会社は、一五%のマージンがあるからこそきめ細かなクライアントサービスが提供できている面もあるのではないか。マージンが下がれば従来のようなサービスは提供できなくなるおそれもある。国内の外資系企業も日本の広告会社に対して確かにエビデンスは求めるが、多くはネットパッケージの提示で妥協している。BBDOも日本に進出している外資系クライアントも、こうした日本の取引形態を今のところは理解している。


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