特集 1998.11vol.8

新聞広告とEDI
広告 EDI を前提とした社内体制づくり 博報堂 経営管理本部 デジタル・ソリューションセンター室長代理 柳瀬真
 
 博報堂は、デジタル送稿の社内横断的なプロジェクトチーム、デジタルネットワーク推進室を今年七月一日にスタートさせている。デジタル制作・送稿の本格化による業務の変化に、しっかりした体制で臨もうとしている。現在はまだグラフィック系に特化しているが、推進室の下ではデジタル制作の技術サポートを担当するパワーラボとデジタル制作の技術研究・ワークフローづくりを担当するパワーステーションが実稼働に入っている。

 博報堂のデジタル送稿の実験は、日産自動車の協力をいただきながら行うというケースが一番多かったが、一つの節目になったのが日経新聞夕刊の記事下広告を全部買い切って広告主十七社の広告原稿をデジタル送稿したことだった。掲載日は昨年十月二十日の「新聞広告の日」で、これがデジタル送稿に火がついた一つのきっかけだったのではないかと自負している。

デジタル環境のための組織づくり

アップル紙面 しかし、このころのデジタル送稿は、社内の各部門の協力でこなしてきたというのが実態だ。全工程のデジタル化を想定すると、デジタル送稿でも各部門が勝手なことをやっていては全体がうまく動かないということで、制作部門、システム部門、メディア部門が中心になって横断的なプロジェクトチームをつくることになった。それが今年七月一日にスタートしたデジタルネットワーク推進室だ。制作業務のデジタル化に向けての組織的な体制固めとしてはこれが一番大きい。
 ただし推進室はプロジェクトチームなので、各メンバーは自分の本来の部署にいながら推進室の仕事も兼務するという形になっている。私もシステム部門であるデジタル・ソリューションセンターに所属しながら推進室のサブリーダーをしているし、後で述べるパワーラボの担当責任者という立場でもある。
 推進室は、ネットワーク化されたデジタル環境では仕事がどう変化するのかというテーマの下に動いている。つまり、一つひとつの工程をデジタル化するのは当たり前だし、そういう機器や設備もあって、それなりの仕事をこなしてきているが、今度はそれらをネットワーク化するとどうなるのかということだ。DTPにEDIというデータのやりとりがくっつくという言い方もできるだろう。
 すでに実稼働のルーチンに入っていて、推進室の傘下にパワーステーションとパワーラボという二つの恒常的なユニットを設け、どちらも実際の運営は外部の専門家スタッフに任せている。
 パワーステーションの役割は、現業の制作部門のサポートセンターだ。マックが壊れた、アプリケーションの操作が分からないということからDTP操作や教育までデジタル制作のサポートを一貫して担当している。基本的には社内が対象だが、協力機関とのやりとりも発生するので、今後そこに対してサポートを行う場合もある。
 パワーラボのほうには二つのミッションがあって、一つが、デジタルを前提としてもろもろ解決しなければならない技術要素の研究。具体的には、ファイルフォーマット、カラーマネジメント、データベース、通信、フォントなどの個別のテーマごとに研究している。もう一つが、さらにそうした技術要素を使って実際の仕事の流れをどうしていくかという研究だ。要するに、工程設計あるいはワークフローづくりで、アナログからデジタルのワークフローに切り換えるための仮設ラインをつくってトライ・アンド・エラーを繰り返していく。
 ラボの研究から生まれた改善案はステーションを通じて現業へフィードバックし、ステーションの課題もラボに集約していくという関係で両者は運用されているが、現在はいずれもグラフィック系に特化している。

デジタル送稿に伴うワーク・フロー

“多能工化”する広告制作

 では、こうした体制でどんな形を目指すのかというと、今、目の前に二つヒントがある。
 推進室の外部協力機関に印刷を本業としている会社があるのだが、ここは工程をつくり直して、最初から最後まで完璧(かんぺき)にデジタルのフルラインで印刷物を手がけるように変えた。以前、デザイナー、コピーライター、ブラシ作業などという職種が分かれていたのを統合して“多能工化”したのだ。多能工化とは一つの作業を一人でやるのではなく複数の作業を一人でやるということで、これが一つのヒントになっている。
 広告制作の工程でも多能工化できるかどうか、まだきちんとした答えは出ていない。けれども、ある部分は間違いなくそうなるだろう。たとえば、普通のデザイナーの仕事と画像処理作業の一体化とか、写真撮影と後の画像処理作業の一体化で、二人分の仕事を一人で行うといったことだ。しかも、そのほうがはるかにクオリティーも生産性もアップする可能性が高い。
 もう一つのヒントは、博報堂と関係の深いアメリカのクリエーティブ・エージェンシーにあった。デジタル化が進んでいるこの会社では、制作の三職種の人間が一体となって仕事をこなしている。三職種とは、デジタル制作を前提にしたディレクションができるクリエーティブの「アートディレクター」、マックの「オペレーター」、そして、最終的にデータ処理、画像処理作業を行う、いわばデジタルの「製版担当」だ。レイアウト、写植、版下、製版など今までやっていたすべての制作の作業が、この三人で完結している。

デジタル化の優先課題はスピード

 デジタル化で何を優先するかについては、スピードが一つのポイントになる。入稿期間を短縮できれば、広告に最新のニュース、企業情報を盛り込むなど広告表現の幅が広がるに違いない。
 特にカラー原稿の入稿期間だと、雑誌の場合、アメリカは三日前に入稿すればいい運用が一部で実用化されているが、日本だとルールとしては四十日前だ。日本では新車の発売日にはとても間に合わないので、雑誌には載せられない。広告主も逃げていくし、それだけ媒体価値に影響するということだ。新聞のカラー原稿のほうも、アメリカは前日入稿だ。日本の新聞も同じようにできれば、ずいぶんいろいろな新しい展開ができるだろう。そうした意味では、デジタルは目的ではなく手段なのだ。

課題解決に向けてチームが発足

 現在のデジタル送稿では、バックアップのフィルムを取っている。従来のやり方よりもコストアップとなっているが、リスク回避という意味合いもあって、目下のところは実験費用だと割り切っている。
 現状は、新聞社ごとに版のサイズ、線数、RIP(リップ)の機械も違う。フォントのライセンスや送稿の通信手段を業界全体でどうするかという問題もある。また、今はカラーだと発行本社の数、あるいは輪転機の数だけフィルムも色校も出さなくてはいけないが、ゆくゆくはそれをやめる方向を目指している。
 こうした問題は一つずつ解決していかなければならない。広告業界では、デジタル送稿のルールも含めて各社の足並みを一つにしようと七月に広告会社十一社によるワーキングチームが立ち上がっている。実際に実験をやった広告会社がその結果を持ち寄ってたたき台をつくらなければいけないと思う。


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