特集 1998.11vol.8

新聞広告とEDI
多くの実証実験から得た可能性と課題 電通 新聞局企画開発部 菅琢磨
 
 カラー二連版を初めてデジタル送稿したメルセデス・ベンツ、デジタル送稿の特性を生かし読者特派員がワールドカップの前日のニュースを伝えるキヤノンのシリーズ広告、モノクロ二連版記事広告タイアップの大成建設、そして前述のトヨタ自動車のターセルの広告など、電通はこれまで新聞広告のデジタル送稿に、多くの実績を積んでいる。新聞局企画開発部の菅磨さんに、デジタル送稿に伴う業務の変化と今後の課題を聞いた。

 デジタル送稿も広告主からの出稿があってこそなので、できる限り広告主にメリットのある形で実現したいというのが、デジタル送稿に対する広告会社としての基本的なスタンスだ。
 メリットは、要約すると制作から送稿までのスピード化、効率化、それとコストダウンだと思う。

デジタル送稿の手順づくりが必要

富士ゼロックス紙面 実際にデジタル送稿に取り組んでまず苦労したのはワークフローをうまく動すすことだった。従来のワークフローは、社内の制作スタッフ、社外のプロダクション、製版会社などがバラバラに混在しているなかで成り立っている。そこにデジタル送稿をかぶせても、その制作や原稿管理のルールが定まっていないので、個別のデジタル送稿のためにその都度ルールを決めなければならない。
 デジタル送稿とはいってもまだフルデジタル化されていない。今は制作部分の版下がデジタルデータになっているだけで実際の製版は従来通りだから、我々がある広告をデジタル送稿するときには、新聞局や営業局の人間が中心になってスクラムミーティングを行うほか、制作スタッフを集めた会議で想定される手順を関係者全員に伝えるといった作業をいちいち行わなくてはならない。だから、まずその手順づくりが必要だと感じている。
 現状のデジタル送稿の役割分担を当社の組織面から言うと、全体の進行管理を営業局が行い、新聞社への対応は新聞局が受け持っている。デジタル原稿の制作や送稿は、社内のクリエーティブ統括局と電通TEC(デジタル送稿の専門スタッフがいる関係会社)が担当し、デジタル送稿に関する技術的な対応は社内の総合デジタルセンターが手がけている。

課題解決の糸口はルールづくり

キヤノン紙面 現在は従来通りのプロセスと並行して作業をしているめに、バックアップフィルムを焼いている。営業局では最初、何度かやればバックアップフィルムがなくてもデータだけで済むようになると考えていたが、新聞社からは「バックアップがほしい」と言われる。実験を始めたばかりなので我々も心配な部分があり並行作業にしているが、いずれフィルムはやめたい。確認のルールが決まれば可能だろうと思っている。
 各新聞社ごとに版のサイズが違うのも頭の痛い問題だが、技術をいかに使いこなしていくか、どんなルールを作るかで解決の糸口が見いだせるのではないだろうか。
 同様に色校も減らす方向でいきたい。
 ちなみに読売新聞にカラー広告を全国通しで掲載する場合には、各印刷工場向けに合計百三十枚くらい色校を刷っている。それが数社分だと何百枚ものオーダーになる。色校の数を減らすことができればそれだけコスト削減につながる。
 この解決にはリモートプルーフという考え方も出ている。つまり、広告主、広告会社、新聞社の印刷工場に同じプリンターを置いておき、それぞれに同じデジタルデータを通せば、まったく同じ品質のプリントが出てくるというものだ。色校をわざわざ運ばなくてもいいというメリットもあるし、何より製版することに比べれば非常にコスト削減になる。実際のやり方としては、たとえば、広告主が広告会社を通して一枚の色校を各工場にリモートプルーフし、その品質の反映には新聞社側が責任を持つ、そんな仕組みに変わるだけでも大分違うのではないかと思う。

校正については発想の転換も

 また、広告会社が出す色校正と新聞に掲載された時の色の違いは、現状でもよくある問題だ。広告会社の制作の立場だと、広告主には一番きれいな色校正を見せてオーケーを取りたい。その色校正がそのまま新聞掲載されたときの色として広告主に伝わるので、新聞社に対しても「同じ品質のものを出してください」という話になる。
 最終的に新聞用紙ではこうなると想定できる色校正で広告主にも納得してもらえればいい、と考えられるように広告会社内の意識も改革していく必要があるのではないかという気がしている。そういう意味では、色校正を新聞社が出すのも一つの解決策かもしれない。
 そうしたルールができれば、広告主の納得を得やすいだろう。ただ、新聞の印刷は工場の輪転機によっても違う。その場合は、新聞社の各工場間のクオリティーを均一にしてほしい。
 校正についての発想を転換することも必要かと思う。今は、紙で確認するというスキームだからそうするのであって、テレビではCMの素材フィルムが大量に出てきても、広告会社がそれをいちいち細かく見ているわけではない。同じ考え方に立てば、新聞広告の場合も、確認の責任分担をクリエーティブサイドに近づけるなどして、広告会社でデータを開いて見なくてもいいようなプロセスに変えるべきかもしれない。今後、デジタル送稿が増えてきたとき、広告会社が一つひとつ確認しているようでは、スピード化のメリットは半減する。

デジタル送稿で速報性を生かした広告

メルセデス・ベンツ紙面 デジタル送稿のメリットの一つ、速報性を生かした企画事例としては、長野オリンピックでの富士ゼロックス(二月八日読売新聞と朝日新聞に掲載・カラー十五段)、サッカーW杯でのキヤノン(六月二十二日〜七月一日読売新聞に掲載・カラー四段四分の一、五段)のシリーズ広告がある。このうち、キヤノンは、デジタルカメラでW杯の模様を写した画像をデジタル送稿してもらって日本で広告原稿を完成させた。これにはプルーフがつかず、確認はプリントアウトしたもので行い、読売新聞にはデジタルデータだけを渡して掲載した。通常のプロセスでは間に合わない、デジタルならではの広告だ。こうした速報性を生かしたイベント性のあるものについては広告主の評価も非常に高い。だから、広告会社としても広告主を説得しやすい。
 現在のところ、通常掲載分については、広告主、広告会社双方にデジタル送稿に切り換えていくメリットは見えにくい。メリットを生かすためには、以上述べてきたようなデジタル送稿の課題をクリアしなければならないが、新聞社からもメリットをどんどん主張していってもらいたい。
 今は広告会社がデジタル送稿の先導役になっているような感じがあるけれども、広告会社がいくら頑張っても、新聞社が受け入れてくれなければいかんともしがたい。双方が協力し合ってルールを作り、システム作りをしていきたいと考えている。
 まずはそうした新聞社側および広告会社の体制づくりが先決だと思っている。


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