特集 1998.11vol.8

新聞広告とEDI
時短と省コストがデジタル送稿のメリット トヨタ自動車 中西辰彦
 
 トヨタ自動車は、電通と共同で新聞広告のデジタル送稿プロジェクトを推進する一環として今年一月十日付の全国三十新聞社の紙面にデジタル送稿のモノクロ十五段広告を掲載した。デジタル送稿のメリットは、なにより時間の短縮と費用の低減に尽きるというのが、プロジェクトを担当した中西さんの意見だ。入稿日はたまたま大雪だったが、デジタル送稿は気象条件に左右されないことを改めて実証する結果にもなった。来年には、カラー広告による実証実験も予定している。

 世の中ではさまざまなものがデジタル化されてきて大きな効用をもたらしている。広告制作・送稿でもデジタル化のメリットは無視できない。広告主として積極的に対応したいと考えているが、デジタル送稿に期待するのは、何よりも時間の短縮と費用の低減だろう。自動車広告の場合、同一原稿で地域ごとにディーラー名だけを切り替えることが多い。しかも多数の新聞に出稿する。デジタル送稿によって製版フィルムや紙焼きがいらなくなるだけでも、確実に費用の低減につながる。
 広告制作のデジタル化は、すでにかなりすすんでいる。カンプが完成形に近くあがってくるため、早期のチェックが可能になっている。制作面での時間短縮があるとすれば、ディーラー切り替えの各版の制作をDTPとデータベースとの連動で行うことだろう。ディーラー名は現在、画面上ではり替えているが、全国通しの広告掲載ともなると数十版におよぶディーラー切り替えがあり、それを紙焼きで最終確認しているのが現状だ。DTPがデータベースと連動することで、こうした手間も省ける。

全国三十紙にデジタル送稿

ターセル紙面 一月に行ったデジタル送稿プロジェクトは、実際の作業の流れにそって説明すると、次のようになる。
 原稿は乗用車「ターセル」の全十五段モノクロ広告で、DTPのアプリケーションソフトであるイラストレーター、クォークエクスプレスで作成したものをEPS形式で送信した。また、新聞社側の内容確認用にデータ容量の軽いPDF形式の原稿も添付した。フォントは各新聞社で確実に用意されている基本五書体を使用し、その他の文字はアウトライン化した。
 ただし、このデジタル送稿では、事前のステップとして五十社五十六紙にMOでテストデータを渡して紙焼きを出してもらっている。それをチェックしたところ、三十五社四十一紙(六十五版)でデジタル送稿が可能だと判明し、最終的には、衛星通信、ISDN回線、MOなどでデジタル送稿して三十社三十五紙五十七版に掲載することができた。読売新聞と朝日新聞には衛星通信を使って送稿を行い、地方紙の多くはISDN回線を使用した。掲載原稿は、アナログ原稿と遜色ないレベルが実現できたというのが実感だ。
 今回、たまたま大雪が降って飛行機や新幹線などの長距離の輸送機関がとまったのだが、地方にはISDN回線で送信できたため、気象条件に左右されないというデジタル送稿の強みを図らずも実証する形となった。

実験から得たデジタル送稿のメリット

 従来のやり方のほうが費用もかからず品質も保証されているのならあえてデジタル送稿に変える必要はない、という考え方もあるが、実証実験から得た結果から考えても広告送稿のデジタル化がもたらす効果は大きい。それは「早い」「安い」に集約される。
 たとえば、同じ十五段でも新聞社間で微妙にサイズが違う。従来のアナログ制作では新聞社ごとに別々に版下をつくり製版する作業がともなったが、デジタルであれば版のサイズ変更も比較的容易だ。これは作業時間や工程の短縮、費用の低減につながると思う。
 デジタル原稿は直しも容易だ。新聞社側の紙面制作スケジュールや受け入れ態勢にもよるが、原稿を掲載日の前々日に送っておけば、前日のギリギリまでその直し(再送)ができる。
 今回は実証実験ということでデジタル原稿のほかに、従来の工程で制作したバックアップフィルムを用意したが、完全なデジタル送稿になれば現在、新聞広告の入稿に必要とされている製版フィルムや紙焼きの費用も不要になる。今すぐ全国の新聞社がデジタル送稿に対応することは難しいだろうが、仮に八割がデジタル送稿に対応すれば八割の製版費用が低減されることになる。今回のように全国の新聞に掲載する場合は、その効果はかなり大きい。
 製版費用に代表されるように、デジタル送稿では従来と工程や費用項目が違ってくる。これまでの広告制作料金から単に製版費用を引くという考え方ではなく、新しくかかる費用も含めたデジタル広告制作料金といったものを今後決めていく必要がある思う。

今回のプロジェクトの送稿形態

必要なカラー広告の標準色ルール

 今回の実証実験はモノクロ広告で行ったが、今後のデジタル送稿の課題の一つに挙げられるのがカラー広告の色校正だろう。実は、色校については今の新聞の広告原稿でも「標準色ルール」がないため、きちんとできているとは言えない。デジタル化は、これをつくるよい機会だと思う。
 たとえば、アメリカの新聞社(※)などは輪転機の色の標準値というものが設けられていて、新聞社は「この範囲の色なら保証します」とし、広告主のほうも「その範囲ならOKだ」という合意ができている。日本でも同じようにすれば、色校正をわざわざ広告主に見せなくてもかまわないという形にしていくことも可能だろう。
 そのためにもやはり色の標準値が日本でも必要だ。同じデータでも新聞各社の輪転機によって色にばらつきが出る。標準値を決めたうえで、デジタルデータの色校正については最終印刷物まで一貫して彩度、明度、色相などを数値で管理できるような仕組みを考えていくべきではないだろうか。

※ロサンゼルス・タイムズではデジタル広告サービスガイドを配布しており、受け付け可能なアプリケーションやディスクの種類などの情報を開示している

一対一対応で実施の精度を上げていく

 デジタル送稿が本格化するために解決しなければならない課題は少なくない。理想的には業界全体で協議して業界スタンダードを策定することだが、現状では全部の新聞社が足並みをそろえて一気に業界スタンダードを実現するというのは非常に難しいだろう。
 しかし、ある新聞社と広告主、広告会社がフォーマットやルールを決めて実施していくことはすぐにできると思う。広告主や広告会社が、たとえば読売新聞と組んでフォーマットやルールを決めて実施し、その間、さまざまなやりとりを行っていけば、だんだんと実施の精度を上げていくことができるのではないだろうか。その結果、読売新聞としても「この刷り上がりの範囲ならどの輪転機でも絶対に保証できますよ」ということになるはずだ。
 全部の新聞社が最初から一つの標準で進んでいくのではなく、それぞれの新聞社・広告主・広告会社のグループが努力していくという道筋をたどるほうが合理的だろう。結果的にも、新聞業界全体としてフォーマットやルールがそんなに大幅に違うことにはならないと思う。
 トヨタ自動車のデジタル送稿の実績は今のところは一月のターセルの広告だけだが、今後とも業界スタンダードの確立を目指してデジタル送稿の実験を続け、九九年にはカラー広告のデジタル送稿実験を行ってノウハウを蓄積していくつもりだ。
 さらに、二〇〇〇年には業界スタンダードを確立させ、それをマニュアル化してデジタル送稿を本格化させていきたい。そのためにもトヨタ自動車としては可能な限り新聞社や広告会社のデジタル送稿への取り組みに協力していきたいと考えている。


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