特集 1998.10/vol.7

顧客との関係づくり
顧客との対話から得るもの

 一人ひとりの顧客に対応し、サービスや商品を提供する――。言うはやすく、行うは難いことだ。顧客の声を聞くにも、売ることになれてしまっている営業マンでは対応できない。顧客との対話ができる人材やその教育が必要になる。ロット単位で商品を作っていたメーカーが顧客のニーズに一品一品対応していこうと思えば、生産ラインの大改革や新設も考えなければならない。
 しかし、顧客との新しい関係づくりを求めて、この困難な課題に取り組む企業が登場し始めている。
 「まだまだ赤字です」「マス・プロダクツより何倍も手間がかかります」そうした声も聞かれる。一方で、顧客との直接対話から得るものの大きさを指摘する声も、また各社共通するものだった。マス・プロダクツのアンテナとして、独立採算の事業としてと、取り組み方、形態はさまざまだが、顧客主導型の商品やサービスの提供を目指す四社に話を聞いた。
 
モデリスタ東京 日本の量販メーカーの雄、トヨタ自動車が個々の顧客に目を向けて設立したのがモデリスタ店。その一つがモデリスタ東京だが、ここはトヨタが八〇%、トヨタテクノクラフトが二〇%出資して昨年二月に設立、同七月から営業を開始したトヨタモデリスタインターナショナルの店舗だ。従業員は目下三十人で、専属のカーデザイナーも常駐している。なお、モデリスタ店には、ほかに出資形態が異なるモデリスタ神戸とモデリスタ福岡がある。
岸氏 中村氏
 モデリスタ店でも車は売るが、基本的にはカスタマイズ部分だけを販売するというシステムを取っている。カスタマイズのための車は、顧客自身が新車や中古車を購入して持ち込むか、同店がディーラーから車を仕入れて加装を施し、そのうえで顧客に売る。対象車はトヨタ製の車でなくてもいい。
 ともあれ、モデリスタ東京を中心とする当初の仕事は、オリジナルカスタマイズカー、カスタマイズ・サービス、フルオーダーカスタマイズが三本柱だった。このうち、まずオリジナルカスタマイズカーは、顧客一人ひとりの要望に応じて車をつくるというのではなく、店側でカスタマイズカーの事例としてあらかじめ用意しているものだ。ボディーの色やシートのチョイスなどの部分で、従来のトヨタ車よりも豊富な選択ができるようになっている。実際の販売では、モデリスタ店の商圏は百キロから二百キロくらいまでと広いため、直接売るのではなく、同店で加装の部分だけを担当し、各地域のディーラー経由で顧客に売っている。とはいえ、このカスタマイズカーの累計販売台数はまだ百台にも達していない。
グランビア 次のカスタマイズ・サービスは、従来のカーショップの部品販売と似ているが、大きな違いは、カーショップだと自分で勉強して買う部品を考えなくてはいけないのに対し、モデリスタ店だと、自分はこういう走りの車にしたいという顧客の悩み事相談に応じることができるという点にある。「車のカスタマイズやドレスアップの初心者に対して、部品情報を含め、適切なアドバイスをすることができますので、ご好評いただいているんです」と、モデリスタインターナショナル営業部チーフマネジャーの岸宏光さんは語る。
 デジタルカメラで顧客の車を撮影し、それを基にパソコンのモンタージュでカスタマイズしたイメージを顧客に見せて、改造の判断材料にしてもらうということも行っている。トヨタから出向で常駐しているデザイナーの中村一之さんは、こうした作業を通じて「トヨタ本体では車を発売した後でないとお客様の顔が見えないんですが、ここでは、逆に最初にお客さんの顔が見えるので、本当に面白くて勉強になります」と話す。
 このほか、左手が不自由になったからウエルキャブ(福祉車両)的な改造をしてほしいという高齢者からの切迫した相談もかなり増えてきたので、それにも柔軟に対応している。
モデリスタ東京店 最後が、顧客一人ひとりの要望に応じてつくるフルオーダーカスタマイズだが、なかなかこのニーズは少ない。ボディーの型までつくると億単位のコストがかかるという事情もあるようだが、岸さんは、むしろ日本人は本当に世界に一つしかない自分だけの物が欲しいのかどうかと疑問を持っている。「流行を自分だけがちょっと先取りしたいだけなんだと思いますね。流行しないものはいらない。車だと、たとえばビレットグリルはものすごく普及しているメジャーなものなんですが、スパシオのビレットグリル車がないので、それを最初に欲しい。そんな感じのニーズは確かに多いんですね」
 当初の三本柱が以上のような状況のなかで、最近、同店が手がけ始めたのが、個人の客向けではなくてディーラーや業者に向けたカスタマイズ車づくりだ。数も月に数百台単位ではけるし、売り上げ的にはすでにこれがメーンになっている。
 そこで今後はこのディーラー向けを拡充していくということに加え、「デザインニーズがもっとあると思っていたんですが、実際にはアームレストやヘッドレストを付けてほしいといった機能ニーズが意外に多いんです。モデリスタでのノウハウをもとに、ディーラーにカスタマイズコーナーをつくってもらい、新車販売時点で機能ニーズにこたえる部分も広げていきたい」(岸さん)。
 さらに、世界の優れた部品や素材をコーディネートするだけでもカスタマイズだという切り口から、この方法での個別カスタマイズカーづくりを年内にも立ち上げていきたい考えだ。

時計工房クリエーション シチズン時計が「時計工房マイクリエーション」を始めたのは九六年十月からだった。顧客自身が文字板や針、ケース、バンドなど各部品をデザインしたオリジナルの腕時計をオーダーメードで仕上げる。つまり、顧客一人ひとりにカスタマイズされた時計を販売するというものだ。
 カジュアルタイプとスポーツタイプがあって、価格は六千五百円から一万二千五百円。顧客はまずシチズンのインターネットホームページにアクセスし、そこでオリジナル時計をつくるためのソフトが入ったCD―ROMを申し込み、郵送してもらう。顧客はパソコンにそのCD―ROMを入れてオリジナル時計をつくるのだが、まずカジュアルタイプはシンプルなデザインのシティーウオッチだ。文字板、ケース、竜頭、バンド、針などの部品をソフト上でモンタージュして組み合わせながら選ぶことができる。ケースもカラフルなプラスチックか金属かを選択でき、バンドもウレタンバンドや革バンドが選べる。スポーツタイプは、十気圧防水のスポーツウオッチ。ケースには透明色も用意されている。

パンフレット

 いずれのタイプでも文字板は、CD―ROMに入っている既存の二百七十五種類のデザインから選べるほか、顧客自身がパソコンで描いた絵やデジタルカメラで撮った写真などを取り入れたオリジナルデザインを使うこともできる。実際には既存のデザインを使う顧客は三割ほどで、七割はオリジナルデザインだという。
堀氏 こうして決まった時計のデザインのデータをフロッピーディスクに収めてシチズンに郵送すると、約十日ほどで完成品のオリジナル時計が顧客の手元に届くことになっている。
 顧客の約七割が男性で、三十歳以上が多い。女性は二十二歳以上がほとんどだ。用途は自分で楽しむためやギフト用、記念品としてなどで、子供やペットの写真を文字板のオリジナルデザインに使うことが多く、一件あたり二個弱の注文。パソコンやインターネットになじんでいる必要があるので、市場としては狭いが深いといえる。
 きっかけについて、シチズン時計企画部メディア事業企画グループリーダーの堀明浩さんは、「時計のイメージは人によって全部違うので、最後は自分でつくるということに行き着いたんです。だから、サービス開始当初はワン・トゥ・ワンという意識はなかったですね」と打ち明ける。
 個別生産のラインを作るのにも苦労があった。もともと「記念発注」といって、千個単位で企業の要望に応じて文字板に文字や絵をいれるラインがあった。このラインを利用できないか思い立ち、はじめは百個、最終的には現在の一品生産の仕組みを作り上げた。
 しかし、「ワン・トゥ・ワンには、手間とコストがかかります」とも付言する。実際の製作はシチズンの東京・田無工場で行っているが、部品の数が多くて人手でピッキングしなければならないだけでなく、針を入れるのも技術を持った職人でないとできない。文字板の厚みがあるため、三本の針の透き間は二十ミクロンにしなければならないが、機械では五十ミクロンまでしかできない。そこで、六十歳を超えてリタイヤした熟練の時計職人に来てもらっている。
ホームページ また、シチズンに顧客からデータの入ったフロッピーが届いたときに「FDが届きましたよ」というメールを出すことから始まって、「今日出荷したので、明日届きます」というメールの送信、ホームページで製作の進捗(しんちょく)状況が顧客ごとに分かるようなシステムを作るなど、“顧客との対話”は結構しんどい。完成品を送った後も、文字板の色が思ったものと違うからやり直してくれなどといった要望があり、そうした細かいクレームにも対応しなければならない。シチズンと顧客とのメールのやりとりは、四、五回にもなるそうだ。
 年間販売台数は一万個弱。累計でも二万五千個ほどで、これだけ見れば赤字だ。しかし、もっと視野を広げると違ってくる。時計のベースには過去何十万個も売ったモデルを流用しているのだが、それに対するクレームが顧客からメールで続けて三通来たことがあった。そこで、他のすべての顧客にメールで同じ症状がないかと聞いたところ、百通もの「ある」というメールが返ってきた。
 普通の販売チャネルでは一万個販売して数件のクレームがあってもなかなかな製作部門にはフィードバックされない。それがメールというホットラインがあることで、フィードバックされて改善につながった。顧客との対話による製品の品質向上は、この方法ならでは大きなメリットだ。

作業1
作業2
説明


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