特集 1998.8/vol.5



視点2
吉田氏
 バナー広告がインターネット広告の主流になりつつあるが、その効果についてはまだ明確な評価基準(注1)がなく、広告出稿のネックになっている。こうした中で、日本広告主協会のディジタルメディア委員会(百七社)は作業部会(八社)を中心にインターネット上のバナー広告効果検証実験を行い、この六月、最終報告を発表した。バナー広告効果を定量的にとらえて分析を加えたものだが、こうした試みはおそらく日本でも初めてのことだ。実験結果だけでなく、広告主サイドからの提言という意味でも注目される検証実験だ。

(注1)ホームページの評価基準:
ヒット数、ページビュー、ビジット、ユーザー、アクセスなどホームページの効果を計る言葉の定義が未整理で、基準もまだあいまいな部分が多い。初期から使われているヒット数はユーザーの1回のリクエストで呼び出されるオブジェクト数(HTML文書、画像・音声ファイルなどもそれぞれ1ヒットと数える)。今回の実証実験ではページビューが使われているが、これはユーザーの1回のリクエストによってブラウザーに表示される1画面のこと。より正確には1HTML文書。複数の画面で構成されるホームページ(フレーム)も、1ページと数えることが望まれている。


あいまいな広告効果

 そもそもなぜ、このような実験を広告主協会が行ったのか。
 ディジタルメディア委員会委員でNEC宣伝企画室マネージャーの吉田達夫さんは、その前提についてこう話す。「広告主が、インターネット広告で一番不満を持っているのが広告効果が上がっているかどうかよく分からないという点です。つまり、媒体社からバナー広告の提案をもらっても、本当にそれだけお金をかけてやる価値があるのかどうか。従来、媒体社は、たとえば、ヒット数から類推してだいたい何十万人くらいがこのホームページに来ているだろうということで、それに相当する雑誌に準じて広告料金を決める傾向があった」
 そして、この前提に立って、「インターネットを使った広告はマスメディアの理論での料金設定や効果予測と同じでいいかどうか。この実験を広告主協会がまず行ったのも、媒体ではなく広告主協会自身が先導してそれをきっちり出していかなければならないと考えたからでした。インターネットは他のメディアと違って、広告主でありながら自分でもホームページを持つことができる。つまり、広告効果を広告主自身でも確かめることができるメディアだということです」と指摘する。

大きさ、形式で広告効果に違い

 実験は作業部会のうち、トヨタ自動車、資生堂、小学館、日本マクドナルド、NECの五社が共同で九七年十月から十二月にかけて実施された。インターネット上の検索サイト「インフォシーク・ジャパン」に五社がそれぞれ期間中の任意の一か月間バナー広告を掲載し、利用者がバナーをクリックする比率、クリックスルーレート(Ctr)などから効果を測定、分析した。
 この実験の結果を簡単にまとめると、まず広告に含まれる情報量が多いほどクリックスルーレートが上がるということが分かった。バナーの面積でレギュラーサイズを一とすると、レギュラーサイズの二分の一のときにはクイックスルーレートが約四分の三に減り、レギュラーサイズの二倍の場合は約1.6倍、レギュラーサイズの3倍の場合は約2.5倍へとそれぞれ増えた。同様に、静止GIFに対するファイル形式による効果を見ると、アニメーテッドGIF型(注2)では面積換算で1.5倍の効果があり、HTMLファイル型は同じく2倍以上の効果があった。
 また、広告出稿ページのセグメント化(絞り込み)(注3)が進むほどクリックスルーレートが上がることも分かった。視聴者のセグメント化による効果検証では対象ページビューが十分の一の場合は約2倍弱、対象ページビューが百分の一の場合は約3倍弱となった。
 ただ、これには注釈がついていて、パソコンや自動車など高額商品のバナーの場合は広告出稿ページによるセグメント効果が大きいが、ファストフードやコミックでは効果がそれほど大きくなかった。

(注2)静止GIF、アニメーテッドGIF:
GIF(ジフ)は、ホームページで使われる一般的な画像の形式。256色の範囲で色が使えるが、ユーザーの通信速度を考慮して、色数を減らしていかにデータ容量の少ないきれいなGIF画像を作るかは、クリエーターの腕にかかっている。動かないただの絵(あるいは写真)が静止GIF、アニメーションのように動くGIFが、アニメーテッドGIF(GIFアニメ)。


(注3)セグメント化:
ホームページの検索サイト(サーチエンジン)は、キーワードを入力して該当するホームページの一覧を表示したり、企業→自動車→自動車メーカーといった具合に、階層形式で該当するページを次々と表示するように作られている。バナー広告と表示内容がマッチしていればこうしたセグメントされたページほど、効果が高いと従来から言われていた。


実験をふまえた媒体側への提案

 こうした実験結果を踏まえて、ディジタルメディア委員会では、バナー広告について、(1)用語およびその定義の統一、(2)出稿規模による最大リーチの予測が可能な基礎データの公表、(3)クリックスルーレートの概況の公表、(4)各種データ、レポートの監査もしくは公査の検討、などを提案している。それぞれを細かく述べると、以下のようになる。

(1)用語およびその定義の統一
 クリックスルーレート(たとえば、実際の広告主サイトヘの誘導トラフィック数をベースにする)やバナー出稿回数(たとえば、サーバーからのバナーファイル送出完了をもってカウントする)、媒体ページビュー(たとえば、HTMLファイルのリクエスト数をベースにする)などについて用語及びその定義を明らかにする。

(2)出稿規模による最大リーチの予測が可能な基礎データの公表
 一つは「単位掲載期間における総ユニークユーザー(注4)数の公表」についてで、リーチがどれくらい獲得できるかということがわかるデータの公表を求めている。つまり、延べユーザー数ではなく重複のないユニークユーザーをどれくらい持っている広告サイトなのかという数字(データ)の公表である。
 もう一つは、「フリークエンシーコントロールの導入」ということで、ユニークユーザーが把握できなくても、ユーザーに対してバナー広告の閲覧をコントロールできる仕組みに対応することにより、同様の効果が期待できる。米国では、同一人物に三回以上、同じバナー広告を見せても効果がないという見解も出ている。

(注4)ユニークユーザー:
特定のサイトを訪問した個人は「1ユーザー」「1ビジター」と呼ぶのが一般的だが、ここでは個人を強調してユニークユーザーとよんでいる。


(3)クリックスルーレートの概況の公表
 広告主がこれからバナー広告を出稿する場合、そのクリックスルーレートが類推できるような信頼できるデータがほしい。

(4)各種データ、レポートの監査もしくは公査の検討
 「掲載報告を確認できる手段提供」もしくは「第三者による監査、公査の導入」が求められる。

NECパーソナルコンピュータ「PC98-NXシリーズ」発売キャンペーンの場合(一部)
●静止GIF 静止GIFを1倍とした場合の効果
NEC01 1倍
●アニメーテッドGIF
NEC02 1.5倍

NEC03
●HTMLバナー
NEC04 2倍
●ハーフサイズ
NEC05 3/4倍
 今回のバナー広告効果の検証実験はトヨタ自動車、資生堂、小学館、日本マクドナルド、NECの5社の共同で97年10月から12月にかけて実施されている。上は、NECが実験に使ったバナー広告の一部。紙面の都合で実際より縮小されている。また、静止GIFを1とした場合の倍率は、公表された数値(5社の平均)で、NECの数値ではない。

●静止GIF
基本となったバナー広告。天地60ピクセル×左右469ピクセルのバナー広告を今回はレギュラーサイズとした。

●アニメーテッドGIF
複数の画面が交互に表示される動くバナー広告。静止GIFより1.5倍の効果があった。

●HTMLバナー
「→製品を選択してください」の部分をクリックするとNXシリーズのリストが表示され、その中の項目を選ぶと該当のページが表示されるプルダウンメニュー付きのバナー広告。静止GIF、アニメーテッドGIFは全体が画像だが、プルダウンメニュー付きは、ホームページを記述しているHTML言語で記述して作られる。

●ハーフサイズバナー
上述の静止GIF、アニメーテッドGIF、HTMLバナーともサイズは同じだったが、これは左右が半分の長さのバナー。効果は静止GIFの4分の3だった。

マス効果とインタラクティブ効果

 さらに、最終報告書では検証結果に基づき、バナー広告の出稿内容を決定するための「期待効果モデル(概念モデル)」の提示にまで踏み込んでいる。「バナー広告の価値とは何か」をモデル化したものと見ることもできる。
 具体的な式の説明は省くが、バナー広告の価値=[マスメディアの価値]+[インタラクティブメディアの価値]という考え方が、モデルの基本になっている。バナー広告の価値には、マス四媒体と同じ認知促進効果(マスメディアの価値)と、自社サイトにユーザーを誘導しより詳しい情報提供や販売を促進させる効果(インタラクティブメディアの価値)の二つの価値があり、それを合わせたものが、バナー広告の価値だという考え方だ。どちらの効果に重点を置くかで重視する要因が違う。
 認知促進を目的とする場合は、バナー広告の大きさや形式と、どのページに置くか(セグメント)を重視する。
 より詳しい情報提供や説得、販売を促進させる効果を目的とする場合は、クリックスルーレートとバナーから誘導された利用者の行動が大事になる。ディジタルメディア委員会では後者をトラフィックバリューと呼んでいるが、要するにキャンペーン応募ならクリックスルーしてきた利用者の自社サイトでの応募率、詳しい情報伝達が必要なら利用者のページビューなどがこれにあたる。販売なのか、情報伝達なのか、説得なのか、利用者を誘導してきた後のサイトの目的でその基準は異なるわけだが、ディジタルメディア委員会では、すでにバナー広告を使ったキャンペーン応募の応募率調査を次期実験の候補として挙げている。

クリックスルー以外の調査も検討

 吉田さん自身は、今回の実験を振り返って、こう語る。「検索サービスやニュース、エンターテインメントに限らず、インターネットではやはりどのホームページもある程度セグメントされています。インターネットの利用者がパソコンが使え、比較的生活レベルが高く、意欲的でトレンドリーダーになり得る、といったことともあいまって、ターゲットを絞り込んだきめ細かい広告展開ができるという手ごたえを感じました」
 今回の実験は、クリックスルーレートを中心とした日本初といってもいいバナー広告効果の本格的なものだった。それだけに、今後の課題も明確になってきている。ディジタルメディア委員会では、先のキャンペーンの応募率のほかに、今後の課題として次のようなものを挙げている。
→バナー広告のマスメディアとしての効果を確認するために雑誌など従来のマス媒体と比較したバナー広告の広告認知率の評価
→プッシュ型(注5)や電子メール(注6)など他の形式のインターネット広告の評価
 発展途上であるインターネットには常に不確定要素がつきまとうが、日本広告主協会の今回の実証実験のような多くの積み重ねがなければ、広告媒体としてのインターネット広告、バナー広告を発展させることはできない。関連業界の実証実験の公表と議論が望まれている。

(注5)プッシュ型:
ニュースや映画、スポーツなど気に入った情報をあらかじめ選んでおくとそれに適合した情報が自動的に画面で見られるサービスを「プッシュ型情報発信サービス」という。自分で情報を選ぶのではなく、第三者から送られてくる点で、テレビやラジオに近いサービス。この画面にも広告欄が設けられている。これをプッシュ型と呼ぶが、バナー広告の一形態と見ていい。


(注6)メール広告:
電子メールを利用した広告サービス。ニュースや情報提供を目的として会員を集め、その対象者に送る情報の中に4〜5行程度の広告を挿入するものと、広告・プロモーション情報を前提として会員を募り、興味分野を登録してもらって、該当者に合った情報を送るものの2種類がある。情報が第三者から送られてくるという点では、プッシュ型広告。



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