特集 1998.8/vol.5



視点1
松尾氏
 最近、米国のインターネットユーザーは、バナー広告に少々食傷気味のようである。米国のサイトを見ると、一ページ当たり五、六個のバナーが現れることも珍しくない。一年半前には、バナー広告の平均クリック率は二%だったが、現在では、一%と半分の水準にまで落ち込んでいる。
 ただし、米国人がバナー広告に対して否定的な態度を取るようになったわけではないようだ。優れたコンテンツを無料(有料のところもあるが)で楽しめる代償として、広告の存在を認めてはいるものの、以前のように物珍しさだけでクリックしてみるということがなくなったということである。

中途半端なクリエーティブが通用しなくなる!

 日本のバナー広告は現時点ではまだまだ揺籃(ようらん)期であり、その存在も控えめの印象を受けるが、米国と同様、まもなくバナー広告があらゆるサイトにあふれ、日本のインターネットユーザーもバナー広告の存在意義を認めると同時に、逆にその存在自体に注意を払うことをあまりしなくなるだろう。
 そして、既に認知された他のマス媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等)と同様、もともと広告に対する関心が低い消費者に対して、乱立するバナー広告の中から自社のバナー広告を目立たせ、注目させたり、クリックさせたりするには、中途半端なクリエーティブでは通用しなくなるに違いない。

バナー広告のクリエーティブを考える際の二つの視点

 本論では、上記のような状況の中でも、効果を上げることのできるバナー広告のクリエーティブについて論じる。
 ただし、あらゆる状況において必ず効果を上げるようなクリエーティブは存在しない。そこで、1. バナー広告を通じて達成されるべきコミュニケーション目的、2. バナー効果を左右する様々な要因、の二つの視点を踏まえて、バナー広告クリエーティブのポイントを示す。

1. バナー広告を通じて達成されるべきコミュニケーション目的

 コミュニケーション目的とは、バナー広告を通じて「ターゲットとした消費者の態度・行動にどのような変化を起こさせるのか」ということである。バナー広告出稿によってこの目的が十分達成された時、効果を上げることができたということになる。
 ただ、目的が異なれば、効果を測定する尺度も異なる。ここで、バナー広告によって達成したいコミュニケーション目的を大きく二つに分け、それぞれの効果をどのような尺度で見るのかを示す。

(1)見込み客獲得(Lead Generation)/販売(Sales)
 バナー広告のリンク先が、例えば新製品の紹介や資料請求ページであり、その製品に関心を持った消費者は、資料請求のため、氏名や送付先などの個人情報を入力する。このようにして得られた個人情報は、その後の営業活動用の見込み客リストとして活用されることになる。この場合、バナー広告の効果は「合計何人の見込み客を獲得できたか」によって判断される。
 また、オンラインショップの場合、バナー広告によってサイトに呼び込むだけでなく、実際の購入につながることを目的とすることが多い。この時、バナー広告の効果は、「総額いくらの売り上げが、バナー広告によって獲得できたか」によって判断されることになる。
 そしてクリック率も、リンク先のサイトまでまず消費者を連れてこなければ、資料請求や購買という行動につなげることができないことから、広告の効果を測定する重要な尺度になる。

(2)ブランド構築(Branding)
 バナー広告を通じて、自社製品や会社に対する消費者の知名度、認知度を高めたり、好意的なイメージを定着させることを目的とするものである。これまでは、インターネットはマス媒体とは異なり、「企業と消費者をダイレクトに結ぶことができる」というメディア特性から、販売に直結するマーケティングへの活用が強調され、バナー広告が持つブランド構築効果についてはあまり注目されてこなかった。しかし、結局オンラインの世界でも、競争力を高め、高収益を上げるためには、ブランドパワーが必要であることが明らかになってきたため、ブランド構築を目的としたバナー広告出稿も増加している。この場合、バナー広告の効果は、製品や会社に対する知名度・認知度の向上度合い、好意的なブランドイメージの定着度合い、といったことで判断することになる。
 したがって、ブランド構築を目的とする場合、クリック率はあまり重要な尺度ではなくなる。なぜなら、見込み客獲得、販売を目的とする場合とは違い、即効的な効果を求めているものではないからである。

 なお、バナー広告は上記二つの目的を同時に持ちうるため、どちらをより重視するのか、どうバランスを取るのかということが重要になってくる。

2. 効果を左右する様々な要因

 前項で、バナー広告のコミュニケーション目的に応じた効果の評価尺度を示した。ただし、注意しなければならないのは、バナー広告の効果は、クリエーティブ自体の出来のみで決まるわけではないという点である。
 ここでは、クリエーティブ以外の効果を左右するさまざまな要因について整理してみる。これらはクリエーティブを検討する前提として考慮しておくべき点となる。

(1)オファー
 行動を誘因するインセンティブとして、プレゼント等のオファーを提示することによりクリック率は大きく伸びる。あるテストによれば、資料請求、クリック等のプロモーション反応行動を起こすかどうかの四〇%はオファーの有無が決めるという。すなわち、クリエーティブの出来いかんにかかわらず、オファーの有無がクリック率に大きな影響力を持っているのである。

(2)出稿サイト
 バナー広告の出稿先サイトを選択することは、どのようなターゲットに向けてバナー広告を掲示するのかということを決定することである。いうまでもないが、高い効果を上げるためには、バナー広告によって伝えようとするメッセージに対して、より反応しやすい消費者が訪れるサイトに出稿することが前提となる。

(3)リーチとフリークエンシー
 バナー広告には、Burnout(燃え尽き)現象があることが確認されている。同一ターゲットに対して、同じバナーを繰り返し掲示すると、急速にクリック率が低下するという現象である。
 したがって、見込み客獲得や販売を目的とするバナー出稿の場合、燃え尽き現象によるクリック率の低下を防ぐため、できるだけ多くの人に到達できるよう出稿計画を作成する。すなわちリーチを最大にするよう出稿サイトを選択するのである。
 逆に、新製品の知名度や認知度の向上のためには、同一のメッセージを繰り返し提示することが必要であるため、同一ターゲットに対し、同一のバナーを平均何回露出させるか、すなわちフリークエンシーが重要となる。
 フリークエンシーを増加させるとクリック率は低下していくため、このことからもブランド構築を目的とする場合には、クリック率を効果指標として重視するのはあまり適切ではないことがわかる。

(4)ターゲット
 バナー広告によって伝達されるメッセージが自分のニーズを満たしてくれるものであった場合、消費者がそのバナー広告に注目し、またクリックする可能性も高くなる。すなわち、ターゲットのニーズに対するバナー広告の合致度が効果を大きく左右する要因である。
 そして、もう一つ忘れてはならないのがバナー広告を目にした時のターゲットの心理状態(Mindset)である。簡単に言えば、「バナー広告が掲示された瞬間に、消費者がバナー広告を受け入れることのできる状態にあるかどうか」ということも、バナー広告の効果を左右していると考えられる。
 たとえば、サイトのあるコンテンツに熱中している時には、バナー広告を無視するが、コンテンツを十分堪能した後だとバナー広告にも目が行きやすいと考えられる。一般的には、バナー広告は画面一番上がもっとも注目率、クリック率が高いと言われてきたが、実は画面一番下の方が効果が高くなるサイトもあるかも知れない。なぜなら、一番下はその画面のコンテンツの終了点で、次のページやサイトに行く直前の段階、すなわち「次にどこに行こうかな」という探索モードに心理状態があるためである。

 バナー広告掲示時のターゲットの心理状態と広告効果との関係については、まだ確固とした研究成果がないが、今後様々な形で明らかにされていくであろう。

バナー広告クリエーティブのポイント

 前項で示した、効果を左右する要因について十分留意した上で効果的なクリエーティブを考えていくことになるが、コピーワーク、 ギミック(仕掛け)、デザインのそれぞれについてポイントを挙げていく。

●HTMLバナーもどき(プルダウンメニューはただの飾り)
バナー01

●HTMLバナー
バナー02
バナー03

1. コピーワーク
[クリック率向上のためには、ターゲットがクリックする意義を明確に伝え、かつ行動を率直に促す]


 米国のマーケティング会社“7am”が三種類のバナーをテストした。コピーはそれぞれ次のように表現されていた。

(1)当社の広告主のサイトをご覧ください。当サイトは広告収入で運営されています。
(2)当サイトの支持をお願いします。このバナーをクリックして下さい。
(3)広告収入によってこのサイトは運営されています。このバナー広告をクリックしてください。

 上記のうち、クリック率が最も高かったのは(3)であった(一〇%以上)。(3)は、クリックする意義を明確に伝えていると同時に、率直に「クリックしてください」と呼びかけている。「Call to Action」、つまり、何のために、どのような行動をすべきかを具体的に示すことが必要である。

2. ギミック(仕掛け)
[ブランドを損なわない、消費者にとってメリットのある仕掛けを用意する]

 クリックさせるギミックとして、例えば検索ワード入力のための窓が空いているバナー広告(前ページ参照)がある。これが単なる飾りであり、クリックさせるためだけのギミックの場合、クリック率は上がるかも知れないが、「だまされた」感を持つ消費者を生み出してしまうため、ブランドにとってマイナスに働いてしまうことになる。
 HTMLバナーのように、バナーの中にメニューがポップアップの形で現れ、好きなページにいけるような仕掛けは、消費者の利便性を高め、好印象を与えることができるので、クリック率と同時にブランド構築にも寄与する。

●ブランド構築に効果のあるバナー例
バナー04
バナー05

3. デザイン
[ブランド全体のイメージとの統一性を維持する]

 赤、青、黄といった原色系のデザインを採用することで確かに注目率は高まり、クリック率も向上する。しかし、ただデザインにひかれてクリックしたターゲットの中には、広告対象の製品やサービスに対する関心・ニーズが低く、最終的に購入することのない消費者が多く含まれる可能性が高い。このような場合、獲得した見込み客リストの価値は低く、また実際の購入率も低いものにとどまることになる。
 したがって、いたずらにクリック率の向上を目指すのではなく、早い段階で販売に結び付けようとする短期的な効果と、長期的なブランドロイヤルティーの確立を目指すブランド構築効果のバランスを考慮して、ブランドのイメージ、特徴的なカラー、スタイル、あるいはリンク先サイトのイメージとの統一性を重視したものとし、あまり奇をてらったデザインのためのデザインは避けるべきである。
 たとえ大きさや表現が限定されたバナー広告と言えども、広告対象とした製品のブランド戦略との一貫性を維持することにより、ブランドロイヤルティー向上に役立てることが可能である。


(→1998年8月号特集トップページへ
もどる