特集 1998.7/vol.4

外資系企業の広告とブランディング
外資系企業のブランド・キャンペーン

 金融ビッグバンで活躍し始めた海外の金融機関に代表されるように、元気のない邦人企業に代わり外資系企業の広告が最近目立つようになった。外資系企業では、実際にブランドをどのようにとらえているか。強力なブランド、魅力的なブランドをもつ外資系企業に、そのブランディングに対する考え方や日本市場での広告展開について聞いてみた。
メルセデス・ベンツ
田中氏
ベンツ紙面1 「メルセデス・ベンツ」のブランド力に、異論をさしはさむ人はいないだろう。しかし、そのブランド力は車づくりとコミュニケーション活動の革新によって常に支えられている。
 この車を生産するドイツのダイムラー・ベンツ社は九〇年代に入って、それまでのプロダクト・オリエンテッドからマーケット・オリエンテッドへと戦略を大きく転換させた。
 「いい商品をつくっていれば顧客は買ってくれる。マーケティングもいらないし、顧客の声も聞かなくていい」。いかにもクラフトマンシップらしいそれまでの発想から、「マーケティングを重視し、顧客の声を聞いて、顧客に望まれる商品をつくろう」という姿勢に180度方向転換した。
 「メルセデス・ベンツ」は、各国の現地法人がその国の事情に合わせて広告展開を行っているが、日本市場の広告展開は、メルセデス・ブランドの持つ従来のネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)することから始められた。
 九一年からの「メルセデスの嘘(うそ)」というキャンペーンがそれだ。「豪華な車が、高級車ですか?」「メルセデスは高すぎますか?」「もしも、私たちのテクノロジーは遅れていると考える人がいたら……」と、広告のなかで訴えていった。同時に商品ラインナップも一新し、その第一弾としてSクラスが投入された。
ベンツ紙面2 九三年からは「安全・環境・未来(耐久性)」をテーマにした一連の広告展開をスタートさせる。「人は誰(だれ)でもミスをする」「人間だけの幸福を考えない」「歳はゆっくりとればいい」といった一連の広告で、ポジティブなイメージの構築を図った。
 もともと安全と環境とはメルセデスの車づくりのキーコンセプトだ。キャンペーンでは、一九三〇年代から始めた安全対策や五〇年代から開始した環境対策についてそれぞれの歴史を語った。特に安全対策では、衝突実験だけではなく三千件に及ぶ実際の事故調査に基づいている。
 そして、今年からは自動車の未来を提案して、新しいブランド・イメージの構築をめざしている。これについて、メルセデス・ベンツ日本プロダクト・コミュニケーション部次長、田中孝明さんは「二十一世紀にかけて、車だけでなく将来のモビリティーや都市生活全般を考えて、未来の自動車もしくは交通システムを提案していこうということです」と説明する。
 商品面でも顧客層を拡大するため、ニューカテゴリーの車として位置づけるAクラス車を日本でもこの秋に発売する。二〇〇四年にはその車に環境に優しくコストも安い燃料電池を搭載できるように目下、研究開発を進めている。

ボルボ
宮川氏

ボルボ紙面1 ボルボは、環境と安全性に配慮した車というイメージがすっかり定着している。
 日本で独自制作した企業広告の第一弾は、九〇年に掲載した「私たちの製品は公害と騒音と廃棄物を生みだしています」というコピーだけの新聞広告だ。まさに衝撃的なコピーだが、マス広告という形で世に出たのは日本だけ。ボルボの環境対策を説明した英語版パンフレットでは、すでに使われていたコピーだった。
 第二弾は九五年の植物の葉に車の形をした虫食いが描いてある新聞広告。これにも「車が環境を破壊している」という強烈なコピーがあった。また、「九五年から世界最初の環境仕様書システムを導入」すると書き添えてあって、その後すぐに、車に使う地球資源の種類や塗装工程での有機溶剤の量などを明らかにした環境仕様書が発表された。
 第三弾が車の形をした安全ピンを描いただけの新聞広告だ。九六年に新聞出稿されたこの広告も日本だけだが、カンヌではプリント部門のグランプリを獲得し、スウェーデン・イエーテボリにある本社のビルボードにもなった。ボルボ・カーズ・ジャパンの宣伝販促・教育部部長の宮川晶晴さんはこう話す。「安全を訴えている広告だと気がついてもらえるかどうか心配でしたが、しかし、広告の裏を読めるような人たちだけに理解されて注目を浴びれば企業広告の役割は果たしている、との判断で実施したんです」
ボルボ紙面2 「環境や安全」というイメージが定着しているボルボだが、日本で実際に出稿した企業広告は以上の三つしかない。いずれも新聞を中心に展開された広告で、「環境や安全は新聞でないと細かく説明できないため、新聞を主体に考えている」(宮川さん)。
 ボルボの企業哲学は、安全性、品質、環境に関する配慮という三つだ。
 しかし、スウェーデンという国にあって、ボルボが特別に環境や安全性を重視する企業だというわけではない。むしろスウェーデンの国柄が企業の姿勢に強く反映していると言っていい。「スウェーデンは森と湖が多く豊かな自然環境に恵まれていて、もともと国民の環境への関心は非常に高い。また、日本の約1.2倍の国土に人口わずか880万人と人が少ないため、労働力である人が非常に大切にされ、それが安全性を重んじる風土につながっている」と宮川さんは語る。
 本国の企業理念を元に、広告表現は各国独自の展開をしてきたボルボだが、今後は、少なくとも新製品に関しては世界共通の広告展開をしていくという。これだけ世界が狭まったグローバライゼーションの時代になると、同じ商品についても、世界的な規模で同じコンセプトが使えるはずだという考えからだ。

アップルコンピュータ
河南氏

アップル紙面1 アップルコンピュータは、"Think different"(発想を変えよう)の企業広告によって、全世界で統一したイメージとメッセージを発信し始めた。これは、それまで各国の現地法人が自由に広告を展開していたのを見直してグローバルスタンダードなコミュニケーション展開に乗り出した最初のブランド・キャンペーンでもある。
0?  "Think different"がアメリカで始まったのは昨年九月。日本では今年一月からだ。創業者のスティーブ・ジョブズ氏が再びトップに復帰したことも一つのきっかけだが、加えて、日本法人のアップルコンピュータ、マーケティング本部部長、河南順一さんはこう話す。
 「アップルが持っていた優位性は何かと考えたときに、三つのポイントがあることに気が付いたんです。一つ目はユーザーインターフェースを重視したマッキントッシュ製品そのもの、二つ目はそれに思い入れを持っているユーザー、三つ目はアップルという特別なライフスタイルブランドです。それなのに、アップル自身、この三つをないがしろにしてきたのではないか。そんな反省に立って、Macintosh を世に送り出した時の情熱を呼び戻すために、"Think different"が生まれたわけです。当時、アップルの経営は厳しい状況でしたが、必ずユーザーが支援してくれるだろうと思いました」
アップル書籍1 このキャンペーンは、「世の中を変革し、よりよい世界にしようと情熱を抱くクリエーティブな人たち」をテーマに、ピカソやアインシュタインなど二十世紀を代表する人物の顔写真を使って発想やものの見方を変えることを訴える。八四年にマッキントッシュが登場したときに斬新(ざんしん)な広告でブランドイメージをつくり上げた米国の広告会社TBWAシャイアット/デイと今回再びパートナーを組んで制作した。
 統一スローガンの、"Think different"を翻訳せずそのまま日本でも使えるかなど、事前の調査も行ったが、問題はなかった。今年一月はじめ、渋谷パルコの壁画やポスター、テレビなどを通してキャンペーンはスタートした。印刷メディアは「海外では雑誌が中心だが、日本は全国をカバーしている全国紙が効率がいいため使った」(河南さん)。
 日本でキャンペーンを始めてすでに半年以上たった。河南さんは「アップルの業績も上昇傾向になってきています。この狙いは当たっているのではないでしょうか。"Think different"は少なくとも十年は続ける予定です」と語る。この夏には、斬新なデザインですでに話題のiMac(アイ・マック)も日本市場に登場する。

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 広告展開としてブランドを どう構築していくかは三社三様だが、自社の製品に対して絶対の自信を持っているという点では各社共通している。トップダウンのブランド管理もしっかりしている。時代の流れに合わせるのではなく、その企業の商品づくりの「考え方」や「姿勢」が、あくまで広告のベースにあり、それがブランドとしての資産価値を生みだしている。


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