特集 1998.4/vol.1

ニューシルバーの兆し
ニューシルバー登場の背景

 シルバー市場のとらえ方に変化が表れている。一つは健康な高齢者に目を向けようという動き、もう一つは五十歳以上を「シルバー」の視点からとらえ直そうという動きだ。戦後生まれの団塊の世代が五十代を迎え、高齢社会が現実のものとなってきたことが、その背景にある。
 一般に高齢者といえば六十五歳以上を指し、高齢世帯といえば世帯主が六十五歳以上で、配偶者が六十歳以上の世帯を指す。現在の高齢者向け商品は、住宅など一部を除けば、福祉・介護といったニーズをもとに市場が形成されている。年金支給年齢以降をシルバー市場ととらえるのではなく、前項で油谷氏が指摘しているように、五十歳からの三十年間を一つの市場としてとらえ直すことで、はじめて大きな市場が見えてくる。
 パソコンに挑戦する、仲間との旅行を楽しむ、オープンカレッジやカルチャースクールに通う、ファッションにも少々うるさい。最近言われているアクティブな高齢者像は、実はこれから高齢者になろうとするプレ高齢者に顕在化しつつある現象だ。「孫への買い物と庭いじりが楽しみ」というこれまでの高齢者のイメージはそこにはなく、自分志向の「ニューシルバー」と呼ぶべき層が、確実に誕生しつつある。

消費社会の洗礼を受けた世代

 これまでの高齢者とニューシルバーの大きな違いは、生活意識、価値観の違いだ。物心がついたときの豊かさの度合い、受けた教育、働きはじめたときの状況などの生活体験で、意識は形づくられる。
 今年高齢者の仲間入りをした六十五歳の人は、一九三三(昭和八)年に生まれている。戦時中に疎開を経験し、十二歳で終戦を迎え神聖とされていた教科書にスミをぬり、テレビ放送の開始された一九五三(昭和二十八)年に成人している。よく働き、六〇年代の高度成長と消費ブームを支え、まだ破たんしていない「年金」という形でこれから報われようとしている世代だ。
 一方のニューシルバーの端っこに控えるのが団塊の世代だ。団塊の世代のとらえ方には、一九四五年から四九年の五年間とする広義のとらえ方と、一九四七年から四九年の三年間とする説がある。ちなみに国民生活白書(平成七年版)では前者の見解をとっているが、一般的には後者。今年五十歳になるのは、この真ん中の一九四八年生まれである。
 この世代は、戦後の民主主義、男女共学、六・三・三制のなかで生まれ育ち、集団就職や受験競争を経験し、“全共闘運動”と呼ばれる学生運動の中心的役割を担った。自分たちの手で世の中が変えられると信じていた最後の世代である。
 日本が高齢社会を迎える前から人口ピラミッドの形を崩していたのもこの世代で、常に妙に目立つ出っ張りとして存在していた。ベビーブーマー、ハイティーン、ヤング、ニューファミリー。団塊の世代は、常に大量消費のメーンターゲットとされてきた層であり、テレビ、自動車、マンションを次々と購入し、消費者として日本の産業を支えてきた世代だ。
 彼らがこれからのシルバー、ニューシルバーを考える上での対象世代ということになる。一般的な意味での高齢者に到達した一九三三(昭和八)年生まれにしても戦後の消費ブームを支えてきた世代であり、団塊の世代が日本の消費の牽引(けんいん)役であったことは言うまでもない。彼らにとっては「消費が美徳」であり、「倹約は美徳」であったこれまでの高齢者と生活意識が大きく違う。

お金も時間も豊かな熟練消費者

 経済的な豊かさも、ニューシルバー登場の背景となっている。厚生白書によると、所得から税金や健康保険料などの支出を差し引いた一人あたりの可処分所得が最も多いのが、実はこの五十代、六十代だ。五十代で220万9千円、六十代が196万7千円、家のローンや子育てで家計が苦しい三十代の可処分所得は各世代で最も低く百五十六万円となっている。ついでながら、六十五歳以上の高齢者の一人あたりの可処分所得も172万7千円で四十代以下のどの世代よりも多い(平成八年調査)。しかも、六十歳定年制が定着し、それが六十五歳まで延びようとしている。今後は経済的にもゆとりのある世代がシルバー市場を形成していくことが予想される。
 今回の特集では、こうしたニューシルバーの兆しを感じさせるいくつかの事例を取材したが、全体を通して言えることは、豊かな時代を築いてきた彼らが、今度は自らの人生を大いにエンジョイするニューシルバーに生まれ変わろうとしている事実だ。マーケティング面で先行する米国では、すでに高齢者を「資金と時間が豊富な熟練消費者」ととらえ、多様なセグメンテーションを行っている。

加齢、社会、世代の三つの視点

 ニューシルバーをとらえる視点として意識変化と経済的豊かさを強調してきたが、商品開発やコミュニケーションに際しては、高齢者特性の理解も当然必要となる。昨年来、健康な高齢者に注目する動きが活発だが、そこで指摘されていることは、加齢特性、社会特性、世代特性の三つに集約される。
 まず、加齢に伴う身体的な変化「加齢特性」からのニーズ。高齢者は重い、見づらい、聴きづらいなどを嫌う傾向がある。段差のないバリアフリー住宅、文字の大きい本、操作ボタンの大きいシンプルな機能の家電製品などが、この例だ。
 次に、会社などそれまで所属していた組織からのリタイア、子どもの独立など「社会特性」からくる欲求の変化がある。長い間仕事中心で生活してきたサラリーマンには、いくら社会的制約から解放され、時間的ゆとりが得られたとしても、ただちに地域や趣味の世界で新しい人間関係を築くことは容易ではない。新しい社会的きずなを求める「仲間づくり志向」が極めて高くなる。五十歳以上を対象としたパソコン通信のフォーラムの盛況ぶりや同窓会など仲間との旅行の人気には、明らかにこうした志向が現れている。
 そして三つめが、これまで述べてきた「世代特性」からくる意識変化だ。ここでは孫への買い物ではなく、旅行やファッションなどで自らの人生を大いにエンジョイする、あるいは大学の市民講座、オープンカレッジに参加して自分を磨く「自分志向」が現れている。
 ニューシルバーの登場で、はじめてマーケティング可能なシルバー市場が誕生しようとしているのかもしれない。


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