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おお、紙よ!

多品種少量生産で人の感覚に訴える

株式会社竹尾

企画部 部長 青柳晃一

竹尾は、ファインペーパーと呼ばれる特殊印刷用紙の企画・販売を中心に活躍する紙の専門商社だ。新しい紙を世に送り出すだけでなく、紙をめぐるさまざまなテーマで紙の可能性を探る展示などにも積極的に取り組んでいる。企画部部長の青柳晃一氏に、紙の現状と感性素材としての紙の可能性を語ってもらった。

ファインペーパーの専門商社

── 竹尾さんはグラフィックデザイナー御用達の紙屋さんという認識なのですが。

それは、竹尾が「ファインペーパー」と呼ばれる特殊印刷用紙をメーンに扱う紙の専門商社だからだと思います。

紙業界というのは、メーカーがあって、一次店(代理店)があり、その下に「卸商」という二次店があるというのが流通の仕組みです。竹尾も、元々は東京の卸商として明治32年(1899年)に創業し、3代目の竹尾栄一のとき、グラフィックデザイナーの原弘様にご協力をいただき、ファインペーパーの開発をスタートさせました。ヨーロッパの手漉き紙や日本伝統の和紙のような風合いを持つ紙を、印刷技術にも対応したより汎用性の高い工業製品として市場に流通させることで、日本の出版文化に貢献したいという思いが、弊社がファインペーパーを開発したきっかけです。

── ファインペーパーというのは、どういうところに使われる紙ですか。

本の表紙や見返し、ポスター、高級感のあるカタログやカレンダーなどに使われる紙です。紙の種類について少し説明すると、大きく「紙」と段ボールなどの「板紙」に分かれます。「紙」の中でさらに印刷・情報用紙として、「塗工紙(アート紙やコート紙など)」、「非塗工紙(書籍用紙など)」など4つに分かれた中の「特殊印刷用紙」のさらに一部がファインペーパーです。

── 竹尾さんが扱っている紙は、紙市場全体からみたらごく一部ということですか。

そうです。例えばチラシを作るときは、「コート73キロ」「上質110キロ」(注)と言えば、メーカーを指定しなくても印刷会社が手配してくれます。コート紙や上質紙は複数の製紙メーカーが同等の品質で大量生産し、流通している紙だからです。

ところが、我々のファインペーパーは多品種少量生産で、「NTラシャ」「サガンGA」「マーメイド」といった名前が一つ一つ付いています。実際に我々から紙を購入するのは印刷会社や出版社、あるいは同業の紙卸商がほとんどですが、デザイナーやユーザーの皆さんにその紙を指定してもらわないとビジネスにならない。そういう商売なんです。

注)印刷用紙の厚さの単位は、重さ㎏で表される。紙の大きさには四六判・菊判などあるが、それが1000枚で何㎏あるかで大まかな厚さを表す。ちなみに一般の印刷用紙は重量単位で取引され、重さが軽いほど安くなる。

紙とデザインとテクノロジー

── 竹尾の紙の見本帳というのは、そのためにあるわけですね。

我々の会社では「ミニサンプル」と呼んでいますが、竹尾のファインペーパー約300銘柄、7000種を収録した「紙の総合見本帳」です。現在のものは2003年から毎年作っていますから、市中に出回っている数はかなりの数になると思います。

竹尾のファインペーパーのミニサンプルは約300銘柄、7000種。毎年新しい紙が追加されている

── 神田錦町(東京都千代田区)の「見本帖本店」、「青山見本帖」という店舗もありますね。

二つの店舗は少し意味合いが違います。「青山見本帖」はデザイナーの方々の紙選びの場で、竹尾の紙をいつでも買える。そのため、常に店舗には全種類の紙を置いて切らさないようにしています。1回に買える枚数は3枚までで、あくまでデザイナーがダミーを作るための紙を購入いただく店舗です。

神田錦町の「見本帖本店」は、紙の情報発信基地という位置づけで、幅広いジャンルの方に利用していただくことをコンセプトにしたショールームです。1階は一般の方にも竹尾の紙を買っていただけるショップで、スタッフがお客様のご要望の紙を、壁面の引き出しから一枚一枚丁寧に出庫するシステムになっています。2階は、紙とデザインに関する展示やセミナーを開催したり、紙に関するさまざまな相談をお受けしています。バックヤードにはファインペーパーを使用した製品見本や加工見本も用意しています。

── 「見本帖本店」では定期的に、さまざまな紙の展覧会を開催されていますね。

竹尾は事業領域として「紙とデザインとテクノロジー」を掲げています。ファインペーパーのパイオニアという自負から、後追いではなく常にゼロから市場を作っていくという社是から来ているのですが、そのためには、最新のテクノロジーとも接点を持つことが大事です。もちろん、テクノロジーというのは最先端だけではなく、例えば、印刷の「箔押し」「型抜き」といった熟練の加工技術も含めてですが。

見本帖本店2Fの展示スペース。架空のアパレルブランド「SAGAN GA」のショップ空間を紙で作った服で表現している

プロダクト化する紙

── 紙の需要は、今どうなのでしょうか。

2008年のリーマンショックで紙の需要の総量は全体的に大きく落ち込みました。以後、板紙の需要は戻ってきていますが、商業印刷系は落ちたままです。やはり、インターネットの影響が商業印刷に出ています。その他例えばチラシでも、最近はコストカットのために部数を削減したり薄い紙を使うようになったりしています。

── ファインペーパー自体の需要は、どうなのでしょう。

残念ながら企業のコストカットはファインペーパーにも影響しています。カレンダーがいい例ですが、バブルの頃はファインペーパーや手漉きの和紙など高級カレンダーの需要がものすごくありましたが、今は紙質を下げたり、カレンダーの制作そのものをやめてしまうところも増えています。ただその一方で、VIP向けのカレンダーなどは継続してあります。

── なぜなのでしょう。

背景には、消費の二極化があると思います。一つは、富裕層は一定数以上いるということ。どんな業種でもそういう顧客向けのレターヘッドやインビテーションなど各種印刷物には上質な紙を用いることで、高級感や特別感を演出するものです。もう一つは、本当に欲しいモノ以外は関心を示さないという消費者全体の意識の変化があると思います。裏を返せば、こだわりのあるモノにしっかりお金をかけるようになってきている。実際、今は3000円、5000円するようなカレンダーを自分で購入する人が増えています。同人誌やアートブックなど100部や500部といった少部数を印刷する「リトルプレス」の世界でも、かなり高級な紙を使うようになってきています。カタログなんかも凝った作りで、お金をかけて自分の気に入った冊子を作るようになっている。デザインの手間や製版費というのはどんな本でもそれほど変わりませんから、少部数の本は紙代の比率が小さい。だから、紙にコストをかけられるんですね。そういう意味では、紙はある意味でプロダクトになってきていると思います。

手触りのいい紙・無添加の紙

── これまで企業などのユーザーとコラボレーションした事例について教えてください。

グッドデザイン賞の受賞年鑑『GOOD DESIGN AWARD』は、以前は雑誌やカタログと同じ並製本だったんですが、2010年から上製本にして、本文には「sandesi」というオリジナルの紙を使っています。

2015年版のグッドデザイン賞受賞年鑑『GOOD DESIGN AWARD』

── かなり分厚いものになりましたね。

ボリューム感があって手触りも柔らかくプロダクト商品の印刷をするのに最適の紙です。この本は受賞した対象ごとに企業に贈られます。ここに載っているのは栄えある受賞作品なわけですから、紙に印刷することで永続的に受け継がれるものを求めるところはあるのかもしれません。

── 柔らかい手触りで厚みがある?

紙は小さなマシンでゆっくりと作ることで、低密度で厚く、柔らかい手触りを持たせることができます。写真集などに主に使用しているコート紙は大型のマシンで作るため、高密度で平滑になり厚みや豊かな質感が出せません。弊社では、柔らかい紙にコート紙並の印刷適性を持たせた「ラフ・グロス紙」と呼ばれるカテゴリーの紙を開発しました。低密度で軽い「ラフ・グロス紙」を使うことで、厚くても軽い図録や写真集を作ることが可能になりました。

また、世界中でオーガニックコスメをセレクトするコスメキッチンさんとのお話で開発した「無添加の紙」があります。紙は平滑にしたり、印刷適性を高めたり、白くしたり、強度を上げたりするために、さまざまな化学薬品を使います。実際、薬品を使わないと紙が反ってしまったり、商品にならないのです。

実はコスメキッチンさんが扱う化粧品群も、オーガニックの材料だけではなかなか化粧品にならない。それを非常に苦労して極力、化学薬品を使わないナチュラルでオーガニックなコスメを展開しているのがコスメキッチンさんで、同じようなコンセプトで添加剤を一切入れない紙はできないかという依頼で開発したのが、「オーガニックペーパー」です。化粧品と同様、カタログの紙もどこでどう作られているのかというトレーサビリティが明確になるということで、コンセプチュアルなファインペーパーの利用例として活用いただいております。

オーガニックペーパーに印刷されたコスメキッチンのパンフレット

ファインペーパーは感性素材

── 我々新聞社が使う新聞用紙は特殊だと思いますが。

実は我々のファインペーパーの中に、新聞をイメージした印刷用紙があります。タブロイドをもじって「タブロ」という名前ですが、古紙を配合してざらっとした触感にし、裏面の文字が透けないよう不透明度を増して新聞紙らしさを再現しています。

── どういう用途に使われるのですか。

小冊子やフライヤーなどです。新聞に馴染んでいる人は親しみやすいですし、若い人にとっても、どこか懐かしい感じがする。実際の新聞用紙はどんどん薄くなっていますが、「タブロ」は逆に、嵩高(かさだか)に仕上げています。ファインペーパーに共通して言えることは、人の感覚に訴える紙だということです。ファインペーパーは、我々にとって感性素材なんです。

そういう意味でいうと、我々から一番遠いところにいるのが広告系のデザイナーかもしれません。広告はマスだからです。これまで弊社も、印刷を前提とした生産財として、BtoBの市場でファインペーパーを販売してきましたが、インクジェットやオンデマンドなどを利用した個人レベルの多様な小ロットの物作りに対応し、エンドユーザーに訴えるような活動を展開していきたいと考えています。

ヨーロッパのマーブルペーパー、日本の和紙の例を持ち出すまでもなく、文化の歴史の長い国は紙にこだわってきました。ヨーロッパのハイブランドには、インビテーションカードのための紙をオリジナルで作っているところもあるくらいです。

── まさに「メディアはメッセージ」なんですね。

そうなんです。情報が氾濫する中で、効率だけでは情報は届かなくなっている今、紙の感性に訴える力をもう一度見直す時期にきていると思います。

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