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オウンドメディアは問いかける

サイボウズが「サイボウズ式」を始めた理由

サイボウズ

ビジネスマーケティング本部 コーポレートブランディング部 サイボウズ式編集長 藤村能光

グループウェアの開発・販売・運用を行うサイボウズ。ワークスタイルの革新に取り組む会社としても知られるようになったが、その認知拡大に重要な役割を果たしてきたのが同社の運営する「サイボウズ式」だ。BtoB企業が展開するオウンドメディアの狙いを編集長の藤村能光氏に聞いた。

── サイボウズはグループウェアの開発・販売を行う会社ですね。

サイボウズは1997年に設立された会社で、サーバーにインストールして使うグループウェアのパッケージソフトの開発・販売・運用を主な事業としてスタートしました。2011年11月からはクラウドベースでの提供も始めており、今もグループウェアが売り上げのほとんどを占めています。

── サイボウズ式」を立ち上げたのは翌年の2012年5月ですね。

オウンドメディアを作ったきっかけとも関連しますが、「サイボウズ式」と社名を全面に出したネーミングにしたのはサイボウズをまったく知らない人たちに社名を知ってもらう目的がありました。それも、できればサイボウズの企業理念に共感してもらいながら知ってもらう。それが「サイボウズ式」というオウンドメディアの考えです。

その頃の会社の状況を少し説明すると、2011年までの5年間というのはサイボウズの年間売上高が40億円ぐらいで止まっていた状態で、それまでとは違う新規顧客を獲得していかないといけないというマーケティング課題が出てきていたのです。

── 2011年頃までは、どういうマーケティング活動を行ってきたのですか。

グループウェアを使う企業の情報システム部門向けへのBtoB中心の広告展開です。使うメディアはフェーズによって違っていますが、新聞広告やメールマガジン、それからIT関連の専門雑誌を中心に展開してきました。そのやり方が一巡して、売り上げが横ばいになってしまったのです。

サイボウズはそれまでグループウェア市場ではナンバーワンのシェアでしたが、売り上げが止まるというのはサイボウズを知らない方に対してコミュニケーションができていないからだと考えました。新しいマーケティング・コミュニケーションのやり方を開発しないといけない時期に来ていた。それまでの主なお客様だった企業の情報システム部以外の人たちにコミュニケーションするためにどういうやり方があるか、ということで始めたのが「サイボウズ式」です。

サイボウズをコンテクストの中で知ってもらう

── 「サイボウズ式」のコンセプトはチームワークと聞いていますが。

コミュニケーション活動の拡大を考えた結果たどり着いたのが、「製品を軸にコミュニケーションをしても、新しいお客様にたどり着くことはできない」ということでした。それまでのお客様というのは、その製品が自分のニーズにあったものなのかを技術知識をもとに判断できる人たちでした。しかしグループウェア市場も成熟市場になると、ITにあまり関心のない一般層が対象になります。一般層のお客様は「機能」より「価値」を基準に製品選択をします。そう気づいた私たちは、あえて製品の宣伝をせず、世の中のビジネスパーソンが関心を持っている話題を中心にすえたオウンドメディアを運営することを考えました。

そこで、オウンドメディアのコンセプトも「グループウェア活用術」ではなく、「“新しい価値を生み出すチーム”のための、コラボレーションとITの情報サイト」としました。グループウェアを使うことで生み出される価値について、製品に縛られず「チームワーク」にまつわる情報を世の中の関心事と絡めて伝える。記事のテーマは、「チームワーク」と「働き方」に関するものであれば何でもよいということでスタートしたのですね。

── 最初に、社名の認知が目的とおっしゃっていましたが。

「認知」と言っても単純にサイボウズを知ってもらえれば成功ではなくて、サイボウズという会社がどういう考えや思想をもって存在しているかという文脈(コンテクスト)を伝えることが重要だと考えたんですね。最初にも言ったように、単に社名の認知率を上げるのではなく、記事が共感をされてシェアをされていく過程を通じてサイボウズが認知されていくことを考えました。

── コーポレートサイトとの違いは?

サイトに来ていただいた人に情報を提供するということでは同じですが、コーポレートサイトは企業概要や製品情報、IR情報、採用情報などあくまでもサイボウズが出すべき情報を出していくサイトです。「サイボウズ式」は人々の知りたい情報を出していく。そこが違いですね。

IR効果にもつながる

── これまで反響の良かった事例をいくつか紹介してもらえますか。

まず、「サイボウズ式」をローンチしてから1年後、2013年5月の記事ですが、「少子化が止まらない理由は『オッサン』にある?」。これは弊社社長の青野慶久と男性学を研究している武蔵大学の田中俊之助教の対談です。この頃というのは、女性だけでなく男性の働き方も再考していこうという社会の機運が出てきた時期です。男性は長時間労働や残業など自分の仕事のしんどさをあまり語らない。そういうことを語ることはかっこ悪いというそれまでの考え方を改めて男性の仕事のしんどさを本音で語ってもらったのです。フェイスブックの「いいね」が6000以上、ツイッターでも同じくらいシェアされた記事です。それまでの記事は、100から200ぐらい「いいね」がつくぐらいだったのですが、「サイボウズ式」のブレークスルーにつながったコンテンツでした。

男性のしんどさをさらに深掘りする意図で作られたのが、田中俊之助教とラジオパーソナリティーのジェーン・スーさんとの対談です。実は、先程の男性学の対談記事をジェーン・スーさんが読んでくれていて、ご自身のフェイスブックで感想を書かれていた。それで私たちのほうからジェーン・スーさんに田中先生との対談を持ちかけたんですね。

── ソーシャルメディアの反響から企画が生まれることもある?

記事のソーシャルでの反響は全部確認をしているのですが、そこから新しい企画の種が生まれることも多いですね。それから、「子連れ出勤しています!」はローンチして2年後の記事です。「小学校に入ったばかりの子供を夏休み、家に1人で置いておくのは心許ない」という話が会社のグループウェアに上がったのです。それがきっかけで、実際に1日子連れ出勤をしてもらって、その体験レポートを載せた記事です。記事を読んだメディアの方から子連れ出勤についてサイボウズに取材依頼もありました。オウンドメディアの情報が、既存メディアのニュースになるという流れを作ることができた例です。

── 反響の良かった事例をみると、今の時代の働き方が注目されている気がしますね。

経営に対する考え方にも反響があります。「赤字って本当にいけないことですか?」という記事は、弊社副社長の山田理と東京糸井重里事務所取締役CFOの篠田真貴子氏との対談です。サイボウズも一部上場ですが、BtoBでロングテールで利益を確保していくようなビジネスモデルですので、開発費や広告宣伝費などさらなる成長のための先行投資をし、赤字になることも必要なのではないかという考え方を記事にしました。面白いのは「サイボウズ 赤字」で検索すると上位にこの記事が出てくるんですね。今年、サイボウズは創業以来初めての赤字決算なのですが、その背景や会社の考え方を株主の方にも伝えることができたと思いますね。

── オウンドメディアがIRの一助にもなっているということですか。

実は、昨年の新卒採用で「サイボウズ式」で会社を初めて知って入社した社員が3人いました。20人の新入社員のうちの3人ですから、15%の割合です。「サイボウズ式」を通じて、サイボウズがやっている働き方改革や企業の考え方を知ってエントリーしてくれる学生が一定数出てくるというのはうれしいですね。

PVよりSNSの反響を重視

── 「サイボウズ式」の効果測定はどのようにしているのでしょうか。

PVはほとんど見ません。PVがビジネスに直接つながる場合は別ですが、オウンドメディアの場合は記事が共感してもらえたかどうかに重点を置いたほうがいいと思っています。ですので、ソーシャルメディアの反響を一つ一つチェックして、誰がどういうコメントで記事をシェアしたかを丹念に見ています。そのコメントのスクリーンショットを取って社内で共有するということをやっています。

── 子育てするお父さんをテーマにした動画というか、ドラマも作られていますね。

2014年はワーキングマザーをテーマにした「大丈夫」、2015年は子育て中の父親を主人公にした「声」というドラマを、私も所属するコーポレートブランディング部で制作しました。ワークスタイル改革はサイボウズが取り組んでいることであり、今の世の中の関心事です。サイボウズという会社をそういう文脈を通して認知をしてもらうことが目的で、「サイボウズ式」と役割は同じです。

田中圭主演、オダギリジョー出演のドラマ「声」。子育て中の父親を主人公にしている

── オウンドメディアは、コストセンターと言われてしまうことはないですか。

オウンドメディアの運営には、経営層だけでなく、社内の理解も大事だと思っています。「サイボウズ式」の立ち上げ時は、社長の青野の中にも新しいお客様の認知獲得という課題があり、理解を得て始められたのですが、最初から社員全員がもろ手を挙げて「サイボウズ式」を喜んでくれたわけではありませんでした。そういう中で初代編集長の頃からやっているのが、先程のようにソーシャルメディアの反響を全社的に共有することです。その結果、社内で少しずつ「サイボウズ式」を応援してくれる人も増えてきました。

「サイボウズ式」は直接利益を上げていないということではコストセンターかもしれませんが、記事が採用につながったり、他のメディアからの取材につながったり、サイボウズの非認知層への認知の獲得という点では非常に貢献をしてくれている。大事なのは、そうした反響の社内共有を泥臭くやり続けることだと思います。

2015年5月19日に掲載された情報共有の重要性を訴えるサイボウズ式の記事。オウンドメディアの運営にも情報の社内共有は重要だ

── 紙のPR誌と「サイボウズ式」のようなオウンドメディアは役割が似ていると思うのですが。

紙メディアは送付する特定の読者を前提にすることがほとんどだと思いますが、オンラインのオウンドメディアは、誰でも読める。そういうオウンドメディアの企画で意識しているのは、単に情報を届けるのではなく、人々のエモーショナルな部分にまで訴えるということです。時には不完全であったり、答えがない情報も届けて読者の感情を揺り動かすことも大事だと思っています。

要は、サイボウズが伝えたいことでなく、人々が関心のあるテーマやトピックを本当に知りたいことをもとに企画を作り、それをコンテンツにする。そのアウトプットが「サイボウズ式」であり、ドラマであるだけです。それが大きな意味で、会社のブランディングにつながっていくと思うのです。

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