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若者を、振り向かせろ

世の中は不確かだからこそ変えられる

博報堂ブランドデザイン 若者研究所 研究員 ボヴェ啓吾

若者研は、正式には「博報堂ブランドデザイン 若者研究所」という。「さとり世代」「マイルドヤンキー」という流行語を生み出した原田曜平氏をリーダーに、若い研究員が加わる形で運営されている。その一人がボヴェ啓吾氏だ。若者研の特色は学生を中心とした約100人の「現場研究員」が調査や議論を担っていることだ。「30代の安定志向と20代前半の安定志向は違う」というボヴェ氏に、今の若者のインサイトについて話を聞いた。

── 若者研究所ができた背景から聞かせてください。

「若者研」は、原田曜平をリーダーとして、博報堂ブランドデザインの中に2011年に作られました。原田は若者研専属ですが、他の研究員は兼務です。僕自身でいうと、若者研の研究員をやりながら、ブランドデザインというもう少し大きな括りで仕事をしています。若者の全体的な研究にも参加していますが、クライアントとのプロジェクトに若者研の知見を生かすサポート役に回ることが多くなっています。

── 若者は市場規模としては小さいと思うのですが、実際に企業と接していてどう感じますか。

若者研の設立理由とも関連しますが、昔と比べ若者が減って、ターゲットとしてのインパクトが小さくなっているのは確かです。

さらに困ったことに、スマホやSNSなど情報環境の変化が影響を及ぼし、若者の価値観や消費行動が大きく変わってきたことで、今までどおりの商品設計やコミュニケーションでは若者に商品が売れなくなってきた。マーケティングの対象としては非常に難しい相手だと言えます。しかし、若者は社会全体の変化を先取りする未来の鏡です。若者たちの本質を理解することは、目の前のビジネスのみならず、企業や商品、社会のこれからを考えていくためにも不可欠であると捉え、若者研は活動しています。

── 若者研は、若者を知るためにどういうアプローチを取っているのですか。

大学生を中心に高校生や若手社会人など約100人が「現場研究員」として所属しているのが最大の特徴です。「若者のことは若者自身が一番よく知っているし、若者が考えたほうが若者にとって必要なものを思いつく」という前提に立っていて、僕らだけで若者を観察したり、アイデアを考えるのではありません。ただ、若者にいきなり「リサーチしてください」「アイデアを考えてください」と言っても難しいので、毎月1回の全体会や合宿を通して、インタビューのやり方やアイデアを発想するコツ、マーケティング的なものの見方などのスキルを磨きながら、実際のプロジェクトに入ってもらっています。

若者研研究員が会議に持ち寄るトレンドシート。定期的に身の回りで流行っているものをまとめてレポートする。

安定志向とネタ消費が同居する

── 実際のプロジェクトから見えてきた今の若者の特徴には、どんなものがあるのでしょうか。

例えば、最近も自動車に関わるプロジェクトに携わりましたが、若者が車にどのように、どんな気持ちで乗っているのか、プロジェクトのメンバー全員に3人ずつインタビューしてもらいました。地方と都市部の若者ではまるで環境が違うし、例えば、大学生と高卒で働いている若者の車に対する意識も当然違うはずです。それを若者たち自身に、自分のネットワークをつないで聞いてきてもらうということをしてもらいました。

今の若者全般に言えるのは、都会か地方かを問わず「走ることが楽しい」と言う人が非常に少ないことです。逆に多いのは、「みんなで車の中で大声で歌うことがすごく楽しい」。彼らにとって車はカラオケボックスみたいなもので、人とのコミュニケーション空間として見ているのです。今の若者は仲間内のコミュニケーションを非常に大事にするんですね。

でも、その一方で「一人きりで運転している時間がすごく幸せだ」という若者もいます。最近の若者はLINEやツイッターでつながっているから、常に友達に気を遣わなければいけない状況にある。車を運転しているときは、スマホを見ることも当然できないわけで、本当の意味で一人だけになれる。そういう空間が車だということなんですね。

── 今の若者は貯金好きという話も聞きますが、実際はどうなのですか。

「貯金好き」「安定志向」「あまり消費をしない」とよく言われますが、間違いなくそういう傾向はあります。ただ、僕は今31歳なのですが、僕らが20歳の頃から「安定志向」「貯金好き」といった傾向はありました。

では、僕ら30代と今の20代前半の若者との違いは何かと言ったら、彼らには一見バブル時代を思わせるような消費が見られるところです。貸切のリムジンで女子会をしたり、高級焼肉を食べに行ったりといった行動が20代前半の若者に見られるようになってきた。ただ、バブルの頃と違うのは、それが「ミエ消費」ではなくて、SNSなどで話題にするための「ネタ消費」だということです。

ですから、消費すべてが派手になったわけではなく、「生活を安定させたい」と「リスクを取りたい」という一見矛盾する気持ちを抱えつつ、自分でそれをうまく編集しながら生きている。それが特に今の20代前半までの若者の特徴であり、その上の世代との違いだと思いますね。

── 生活シーンや商品によって、今の若者は選択基準をうまく変えている?

「何でも合理的にきちんと捉えたい」「無駄をなくしたい」と考える一方で、ちょっとした遊びやズレも大切にするようになっていますね。車は高額商品で維持費もかかるから、生活を規定する大きな買い物です。そういうものに対して彼らは、本当にそれは自分の生活にぴったり合っているか、無駄がないかで選ぶ。一方で、身近なちょっとしたものは、デザインやネタ的な視点で選ぶことが多いのです。そこを見誤ると、「売れない!」ということが起こってくる。最近、奇抜なものや派手なものが若者の間で増えてきたから派手な車を作ったら売れるかと言ったら、たぶんそうはならないということです。

検索はハッシュタグと画像で

── 今の若者の情報リテラシーも高くなっていると思うのですが、実際はどうですか。

彼らがよくやるのは、ツイッターやインスタグラムで「#」記号に調べたい言葉を続けた「ハッシュタグ」で調べるということです。例えば、「#商品名」で調べると、実際にその商品を使った人がその感想を語っているのが見られる。それを読めば何となくこの商品が良いか悪いかとか、自分の行きたい場所だったら、どこがお勧めスポットかもわかる。

自分が行こうと思っている旅行先があったら、画像検索やインスタグラムに地名を入れて調べます。出てきた画像を見て、そこに行ったら自分が楽しい体験ができそうか、良い写真が撮れそうか、というようなことをビジュアルで感じ取る。検索の仕方が上の世代とは違うようです。

インスタグラム上には「#一人焼肉」や「#リムジン女子会」などでそれぞれ数千件の投稿がある。

── 情報に対する感度が上がっている気がしますね。

上の世代は若者の行動をネガティブに捉えがちですが、若者研で実際に若者に接していると、彼らが今までの世代にない「ものを読み取るセンス」「編集するセンス」、そして「言葉にならないものを表現する力」を持っていることを感じます。

上の世代だったら、例えば旅行に行ったとき有名な建築物の前で写真を撮るといったことをしますが、若い世代は日常の何気ない、それこそ道端に落ちているゴミにも面白さを発見するセンスを持っていて、撮った写真でコミュニケーションするみたいなことを当たり前にやっています。

── 昔だったらプロのカメラマンしかなかったような感性を、今は普通の人たちが持っている?

それがいい写真だったら、「いいね!」というフィードバックももらえる。だから、何を撮ったらみんなが面白がってくれるか、それを意識する力が鍛えられているんだと思いますね。

それから、今の学生はダンス経験者がめちゃくちゃ多い。中学校ではダンスが必修科目という時代です。40代、50代に「今の気持ちを踊って表現して」と言っても恥ずかしくてできないと思うのですが、今の若者にはそれが自然にできてしまう。そういう言葉にならないものを表現する力が、今の若者は抜群に優れている。それが画像を見ただけで何となく自分がそこが好きか嫌いかわかるという感覚にもつながっているわけです。

仲間と一緒に発揮する個性

── SNSで常につながっているのもしんどそうですね。

だから一方で、いろいろなものが見え過ぎてしまって、自分の個性が伸ばせないという深刻な問題も出てきています。

例えば写真が好きだったら、今は写真について調べる術がいくらでもある。同世代がどんな写真を撮っているかも全部見られるから、「こいつには、かなわない!」とかなり早い段階で思ってしまうのです。あるいは、もう何もかもやり尽くされているという感覚になってしまう。昔は今のように情報を調べる術がなかったから、自分の周辺で一番だったら、「俺はすごいんだ」と妄信して努力し続けられた。今の若い人にはその妄信が起こりづらいんですね。だからベーシックなスキルや感性は上がっているのに、枠に収まってしまうということがいろいろな場面で起こっているのです。

── 確かに、井の中の蛙だからがんばれるということが人間にはありますね。

今の若者は、「多様な視点を理解する」という教育も受けている世代です。だから、自分と違うもの、多様な視点を認めるのは大事だと思っている。その一方で「個性が大事」と一見矛盾したことを上から言われて育っている。一人ひとりの個性を認めながら、その中で「自分は何なんだ」ということを見つけていかなければならない。

── 出口は見えているのでしょうか。

一つ見えてきているのは、若者の個性の発揮の仕方が昔と変わってきていることです。最近は、仲間と一緒に個性を発揮するとか、チームの中で目立つ行為が増えている気がします。ハロウィンがまさにそうで、1人で参加する人はいなくて、たいてい5人くらいの仲間で参加する。みんなでお揃いの格好をして街を歩くと、みんなから注目される。5人で一体感を感じつつ、外からは個性的に見える。同じ制服を着てディズニーランドに行くのもそうですね。今の20代は漫画「ONE PIECE」の強い影響を受けている「ワンピース世代」と言われますが、個性を発揮する単位が変わっている感じはしますね。

世の中が不確かだからこその安定志向

── 今の若者の変化の背景には、何があると思いますか。

9.11やリーマンショック、東日本大震災などネガティブな出来事だけではなく、例えばアップルのiPhoneのような破壊的イノベーションを思春期に経験していることも大きいでしょうね。一気に人の生活を変えるような転換が起こることを目の当たりにしているので、今の20代前半の若者というのは、世界は不確かで、明日はどうなるかもわからないという感覚を持っている。だからこそ、日々の生活や日常といったベーシックなものを守ろうという安定志向の意識があるのではないでしょうか。就職も大きな企業に入りたいと思うのですが、でも大きな企業に入っても、そこでずっと働けると思っていないし、どこかのタイミングで自分は辞めるのかもしれない、会社がなくなってしまうかもしれないとも思っている。要するに、今の若者の安定志向というのは、「不確かだからこその安定志向」なんですね。

── そういう若者に企業はどう向き合えばいいのでしょうか。

企業が丸ごとオールインワン的に「あなたの生活はこうだ」という言い方をしたら嫌われる。選択肢を示すことはいいが、最後のところは生活者自身、若者自身がそれを編集する権利を持っている。そこに委ねるかたちで企業のコミュニケーションやモノづくりをしていくことが大事だと思いますね。

── 若者に対して新聞の役割があるとしたら何だと思いますか。

正直なことを言えば、いろいろな情報を手に入れるという意味ではその役割は新聞からネットに移ってきていると思います。むしろ、ジャーナリズムの枠を超えて、今の大きな社会テーマ、問題を提示し、それを解決するための主体となり、世の中に参加を呼びかけるように変わっていけば、若者にとって新聞は魅力的な媒体になると思いますね。

「世の中は不確かだ」「明日はどうなるかわからない」というのは、裏を返せば「世の中は変えられる」ということです。実は、優秀な学生ほど「社会は変えられる」とポジティブに捉えています。世の中を良い方向に変えていこう。そのために何をやったら良いのか。何ができるのか。そういう呼びかけに応えてくれるのも、今の若者なんです。

それは企業も同じで、企業活動や商品に、若者が自分も協力したいと思わせるものがあれば、動いてくれるはずです。今の若者は、自分が持っていない能力は友達から借りればいいとシンプルに考えられる人たちです。企業が一方的に主張を押し付けるのではなく、「これをやりたいのだけど、こういうことができないから力を貸してくれ」というほうが振り向いてくれる。新しいモノを作るプロセスを見せたり、協力してもらいながら、商品や企業活動を変えていく。そういうほうが、今の若者の心には刺さると思いますね。

Keigo Bove

1985年生まれ。2007年博報堂に入社。マーケティング局で金融、食品、医療など多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年から博報堂ブランドデザインに加入。五感によるブランディングや無意識の知覚構造を解明する調査、ビジネスエスノグラフィ等、主に非言語領域を活用したブランドコンサルティングや、事業・商品開発を行っている。東京大学教養学部全学ゼミ「ブランドデザインスタジオ」講師、日本マーケティング協会学生チャレンジプロジェクト講師などを務める。著書『ビジネス寓話50選―物語で読み解く企業と仕事のこれから』(アスキー・メディアワークス刊)。

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