adv.yomiuri 読売新聞広告局ポータルサイト

見出し、大事ね。

広告はしがらみの言葉
ど真ん中の価値を探れ

株式会社オカキン コピーライター/クリエイティブディレクター 岡本欣也

広告の見出しと言えば、キャッチコピー。キャッチコピーづくりに命をかけているのがコピーライターだ。企画書やプレゼンの見出し、個人であればブログやSNSなど、誰もが一定のワーディングを要求されるこのご時勢、コピーや見出しのプロフェッショナルであるコピーライターに聞く、人の心を動かす見出しの考え方と広告活性化へのヒント。

見出しの力に気づき始めた世の中

── 広告と新聞や雑誌、ネットなど他のメディアとのいちばんの違いはなんだと思いますか。

広告はクライアントがいて、広告の表現がある。常にその二重構造を抱えながら、クリエイティブを語らなければいけない点だと思いますね。広告制作者のしゃべることがイマイチおもしろくないのは、その一方のクライアントとのやりとりについては語れないことが多いからです。言っていいことと悪いことがはっきりしている。だから、しゃべることが表層的になってしまうんですよ。

── その一方で、ネットの口コミでモノが売れるという状況も出てきていますね。

ネットの言葉のほうがちょっと説得力ありそうなのは、そこらへんのしがらみがないからです。中にはむちゃくちゃな意見もありますが、しがらみのない言葉には力がある。僕らのやっている広告は逆にしがらみだらけ。しかし、このしがらみが広告表現のエネルギーの源泉にもなってきたわけです。そうしたことを前提に、広告表現は語られるべきものだと思います。

── そういうことを前提にしつつ、今回のテーマ「見出し」についてお聞きしたいのですが。

SNSでしがらみのない言葉が行き交う一方で、今の時代ほど広告的なものが世の中に溢れている時代はないと思います。特に「見出し」ということで言えば、ビジネスマンであれば企画書の見出し、個人であればブログの見出しやメールの件名など、昔の手紙には件名なんてなかったわけで、今の世の中は見出し的なもので溢れています。

僕自身が世の中の人が「見出しの力」に気づき始めたと実感したのは、青山ブックセンター本店で「心を動かす『見出し』をつくる」というタイトルで、4回シリーズの講座を開いた時です。普通、僕の講座にはコピーライターになりたい人しか来ないのですが、「見出し」という広い意味のタイトルにしたこともあってか、広告関係者だけでなく、看護師やOLなどいろいろな職業の若い女性の参加も多かったんですね。

── 『「売り言葉」と「買い言葉」 心を動かすコピーの発想』という本を出された後のことですか。

「売り言葉」と「買い言葉」 心を動かすコピーの発想 (NHK出版新書)

『「売り言葉」と「買い言葉」』は2013年7月に発行された本ですが、なぜか青山ブックセンターではロングセラーになっていて、それがきっかけで開催された講座です。ただ、そうは言っても、まだほとんどの人は「見出しの力」に意識的ではないとは思いますね。コピーライターは、昔からそこに人の100倍力を注いできたわけですが。

── コピーライターと普通の人の見出しに対する考え方は、どう違うのでしょうか。

まず、見出しと本文があったら、本文を書いて、最後に見出しを付けるものだと思っている人が多いと思うのですが、コピーライターはこの順番が逆です。見出しを死ぬほど考えて、それからボディーコピーを書くのです。ここがビジネスの企画書の作り方との大きな違いだと思っていて、見出しを最高にいいものにできたら、自ずと言うべきことが立ち上がってくるのです。

── その見出しは、どうやって考えるのでしょうか。

まず、コピーライターでよく言われるのは、「コピーは100本書け」ということです。人がパッと思いつくことと、10時間考えて思いつくこととは、発想の広さや深みが違います。コピーを考え続けることでコンセプトが練り上げられるとも言えます。つまり、見出しやキャッチコピーをつくるということは、コンセプトをつくることです。「いいコピー」と「いいコンセプト」は99%イコールです。たくさん見出しを考える習慣がつけば、おのずと全体が良くなっていく。見出しとは、部分でありながら、実は全体なんです。

── 見出しを先に考える、コンセプトを先に考えるというのは、どういうことなのか、具体例があるとわかりやすいのですが。

『「売り言葉」と「買い言葉」』も見出しというかタイトルが最初にできたんですね。神戸の知り合いのNPOから講演の依頼を受けて、チラシを配りたいのでタイトルがほしいと言われたことが、きっかけです。何をしゃべるか、その時点では考えてなかったのですが、「売り言葉と買い言葉」という言葉がふと浮かんで、それでチラシをつくってもらいました。その後でしゃべる具体的内容を考えたというのが、順番です。

── 売り言葉はクライアント目線の言葉、買い言葉は消費者目線の言葉という考えは、その時からあったのですか。

なんとなくはありました。ただ、売り言葉が売り手目線の言葉はいいとして、買い言葉が買い手目線の言葉というのはちょっと無理があるとも思ったのですが、2時間ぐらいの講演だったらなんとかごまかせるかなと(笑)。でも、これまでの広告コピーは売り言葉と買い言葉で整理できるというコンセプトが先にあれば、あとはその具体的な実例で話を膨らませていけばいいだけです。実際、やってみたらけっこう受けて、編集者の人に本にしませんかと言われて、本を書くことになったのです。ですから、この場合は、「売り言葉と買い言葉」がキャッチであり、コンセプトだということです。

広告の「売り言葉」と「買い言葉」

── 広告コピーは「売り言葉」「買い言葉」でできているという発想は、どこから出てきたのでしょうか。

本を書く少し前からですね。僕は1994年に岩崎俊一事務所に入ってコピーライターの修行を始めたのですが、コピーを考える時、この発言主体は売り手側なのか、買い手側なのかということを明確に意識しながらつくっていたことはありませんでした。直観的に何を言ったらターゲットの心に響くか。その言葉を手探りでつくっているだけで、それを今みると、売り手側からの売り言葉になっているな、こっちは買い手側の買い言葉になっているなと後付けで発見したということなんです。

例えば、売り手言葉の代表が、吉野家の企業スローガン、

うまい、やすい、はやい

です。企業や商品の売り、言うべきことを最短距離で伝えていく、まさに「売り言葉」のお手本です。世の中の人の心をがっちりつかむシンプルな言葉を作るのは実は難しい。作り手の個性や技量が出てしまうのが「売り言葉」なのです。

コピーと商品が一直線に結ばれている「売り言葉」に対し、買い手側、つまり消費者目線に立ったコピーが「買い言葉」です。キャッチコピーだけを取り出しても、なんの商品の広告なのかわからないものも多くあります。「買い言葉」の代表の一つが、

くうねるあそぶ。

1988年の日産セフィーロの広告に使われたコピーです。食う、寝る、遊ぶ、という人間の本質的な欲望を並べただけのコピーですが、このコピーがクルマと一緒に使われることで、セフィーロというクルマが魅力的に感じられるようになるということです。

歴史的に言うと、日本が高度経済成長だった1960〜70年代は「売り言葉」、1980年代は「買い言葉」が全盛の時代でしたが、1990年代以降は、「売り言葉」が主流の時代になっていると思います。しかし、「買い言葉」がまったく使われなくなったわけではなく、広告の作り手も、「売り言葉」「買い言葉」を普段から意識して作ってはいません。

見出しはキャッチーであるべきだ

── キャッチーであることについて、もう少し説明してほしいのですが。

キャッチーであるとは「人の心をつかむ」という意味です。コンセプトもキャッチーでなければならない。広告でもそうだし、僕はあらゆる見出しはキャッチーでなければならないと考えています。要するに、「人の心をつかむ考え方」がコンセプトで、それを「コンパクトなひと言」にしたものがキャッチコピーです。広告業界以外の人たちは、そういう意識はほぼ持っていないと思うんですね。そのコンセプトがキャッチーか、キャッチーじゃないかということまでは考えていないんです。

── 見出しもキャッチーであるべきだと。

なぜキャッチーであることが重要かというと、キャッチーであるということを考え始めると、やはり目線が外、世の中に向くからです。社内の人たちがいいと思うものというのは、言葉の切っ先がどうしても鈍ってくるんですね。社内のいろいろな事情の中でまとめ上げられるから、自分たちだけがわかるものになってしまう。だから、言葉として流通のしようがないんです。

それから、コンセプトを考えるのは1人である必要はなくて、みんなで案を持ち寄って、その中で本当にいいものを選べばいいんですね。大事なのは、そのコンセプトが人を動かすキャッチーなものかどうかという物差しで議論されているかどうかです。

── そういう目から他のメディアはどう見えますか。

ウェブの世界は言葉がグダグダに見えますね。雑誌もどちらかというと本文主義です。雑誌にもよりますが、見出しは誰がつけてもいいというところもある。逆に、見出しに命をかけているのがコピーライターで、自分のアイデンティティーはここだけなんですよ。ここにすべての情熱を注ぐ。その代わり、ボディーコピーがおざなりな人も多い。本当は両輪なんですけどね。

── 新聞の見出しについては、どう思いますか。

ニュースの見出しと、広告の見出しは作法が違います。ニュースというのは、その中身そのものに価値があるから、それをいかに簡潔にまとめるかということが主な役割ですよね。だから、あまり意味のない情報を見出し化しようとすると、スポーツ新聞的見出しになる。そういう意味では、読売新聞より東スポのほうが見出しに力を注いでいると思うんです。広告でも商品に差別化するニュースがないとき、キャッチコピーそのものが差別化ポイントになって、その商品の魅力の一部になっていくということはありますが、見出しは距離感が大事なんですね。

── どういうことですか。

商品の実態とキャッチコピー、見出しとの距離を取り過ぎると、嘘になるんですよね。ネットニュースでも、「これは絶対釣りだよ」というような見出しがありますが、距離を出しすぎると、今度は中を見たときの落胆が大きくなって、逆効果になる。程よい距離というのが大事なんですね。

自分に取材して本音を探る

── では、どうしたらキャッチーなコピー、見出しはできるのでしょうか。

僕が大事にしているのは、「自分に取材する」ことです。広告をつくる時は、たいてい買い手の声や商品が置かれている状況を調査したデータをもらうのですが、それを鵜呑(うの)みにすることはありません。むしろ、疑ってかかる。なぜなら、アンケートの回答の多くが、「普段思っていること」ではなく、「ちょっとキレイごと」だからです。だから、マーケティングデータは参考程度にし、買い手の一人とも言える自分に取材するのです。

ただ、この方法にも技術が必要です。自分でさえも小さな嘘をつくからです。建前を丁寧に剥がしながら、自分の本音を見つけ出し、それを頼りに「ど真ん中の価値」を探り当てていきます。それが人の心を動かすコンセプト、キャッチになるわけです。

── ちなみに女性向けの商品の場合は?

その場合は、人間ってこうだろという共通項を探すということですよね。化粧そのものは理解できなくても、その根底にある人に好印象を与えたいとか、変身願望みたいなものは理解できる。その共感の接点にこそ、人の心を動かす本音があるわけです。

── 自分に取材するレベルというのは、だんだん上がってくるものなのですか。

探すのは早くなるし、闇雲でもなくなるということはありますが、その都度ゼロベースで探っていきますね。その苦労を厭わないことが大事なんです。世の中によく、そこをショートカットする方法があるかのようなことを言う人やハウツー本がありますが、その幻想に一時浸ってもいいけれど、それが本当のことだとは思わないほうがいい。そういう一時的な夢に振り回されるのも人間なんですが。「自分に取材する」というのは、そういう弱い自分も含め、冷めた目で自分の本音を探れということです。

しがらみの言葉に力を持たせるには

── 広告のしがらみを力にしていくにはどうしたらいいか、改めて率直な意見を聞きたいのですが。

広告はやはりどこまで行っても、クライアントとつくるものです。最終的にそれを言葉に定着するのはコピーライターの責任や能力かもしれないですが、本来チームで作っていると言ったほうがいい。その自覚なしで、企業の内側の論理をクリエイティブに押しつけてしまうと、世の中に放たれたときに、会社の空気のよどみみたいなものがそのまま表現に反映されてしまうということです。

── 以前の広告では、そういうことは問題にならなかったですね。

コピーライターの秋山晶さんが書いた1980年のコピー年鑑のスローガンは、「コピーは僕だ。」でした。経済も右肩上がりで、そう言い切れる時代の空気があったのです。僕がコピーライターになった1994年というのは、不景気の時代に広告に携わり始めた時期です。そんな僕らからすると、「コピーは僕だ。」というのは、「そんなこと言える時代があったんだ」という感覚です。今から見れば、80年代というのは広告予算も潤沢にあり、表現者としての自己実現と商業活動としてのコピーライターがうまくリンクしていた稀有な時代だったということなんです。

── では、今、どうしたらいいかということですが。

難しい質問ですが、今は、広告予算も限られているし、思い切った広告案を社内に通すのも難しい時代です。しかし、これまで話してきたように、その広告を見て心を動かされるかどうかは、広告制作者だろうと、クライアントだろうと一緒のはずです。なぜなら、その商品を売るための「ど真ん中の価値」を探り当て、それを表現にしているのが、本来の広告だからです。そういう広告コンセプト、キャッチコピーが見つかれば、それは自ずとわかるはずです。それを社内事情で歪めるのではなく、どうやったら社内を通せるかを一緒に考える。それが、広告のしがらみを力にする一つの方法だと思います。

Kinya Okamoto

1969年生まれ。1994年岩崎俊一事務所入社。2010年オカキン設立。最近作は、オリンパス「撮るという、アイラブユー。」、WOWOW「目の前を、おもしろく。」、住友生命1UP「リスクについて考えないのが、いちばんのリスクだと思う。」、ドコモ「手を組めば、かなう夢がある。+d」新聞シリーズ、日本たばこ産業「あなたが気づけばマナーは変わる」など。TCC、ADC、ACC、読売、朝日、日経広告賞等受賞多数。『「売り言葉」と「買い言葉」』『大人たばこ養成講座1・2・3』出版。テレビ番組「しまじろうのわお!」やフリーペーパー「FILT」のディレクションも。

Page Top