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読売新聞 海外駐在員リポート

from Asia

王室とともにあるタイのハレの日

今年8月、旅先からタイに戻り、入国審査を待っていた時のこと。あと数名で自分の順番という時に、前にいた男性とともに他の列への移動を命じられた。理由を尋ねると、並んでいたのは「女性専用」だとか。初めて見聞きする入国審査の女性専用レーンを不思議に思いながらも、仕方なく指示に従った。後から知ったことだが、これは王妃の誕生月にちなんだ女性向けの旅行キャンペーン「タイ女子旅月間」の一環だった。

シリキット王妃の誕生日の8月12日は、タイでは母の日と定められ、祝日になっている。日本で母の日といえば赤いカーネーションを思い浮かべるが、タイでは王妃のシンボルカラーの青色のデコレーションが8月の間、街にあふれかえる。誕生日当日には、新聞各紙は王妃の肖像が印刷された光沢紙でラッピングされ、紙面はお祝い広告でにぎわう。大手企業のホームページでは、特設ページを経由してからの通常ページへのアクセスになるなど、いたるところで祝福の演出がなされる。

日本でも皇室に敬意や親しみを抱いている人は多いにせよ、皇族の誕生日もいつもと変わらぬ態度で過ごす人がほとんどだろう。一方、タイでは先日死去したプミポン国王の誕生日はもちろん、王妃や王女など王室関係者の誕生日や慶事は、国民にとってもハレの日となっており、街やメディアもいつもと違った雰囲気になる。国民が抱く王室に対する強い思いがハレの日を成立させている。

「タイ女子旅月間」も、そのようなハレの日である王妃の誕生日をたたえる催しの1つとして、アジアのみならず広く各国からインフルエンサーをタイに招いての文化体験や情報発信、パッケージツアーの販売など、多くの企画が盛り込まれた。観光局が中心となった観光促進を狙ったイベントではあるが、王妃の誕生月を盛り上げるための取り組みであり、王室を「利用」しているわけではない。そこにあるのは純粋なる「敬意」と、それによってもたらされる「恩恵」なのだ。

昨年12月には、プミポン国王の88歳を祝うためのサイクリング・イベント「バイク・フォー・ダッド」が催された。イベントは平日の開催だったが、休暇取得が推奨され、参加登録者は60万人にも上った。プミポン国王のカラーである黄色のシャツを着た人々が、自転車でバンコクの街を駆け巡っただけでなく、フォトコンテストの実施や伝統パフォーマンスの披露など、自転車に乗れない人でもイベントを楽しめるよう工夫されていた。王室重視の姿勢を示すことによる軍事政権の人気取りという見方もあったが、このイベントが経済によい影響をもたらしたことは疑いの余地がない。また、各メディアでの事前告知やPRも大々的になされ、広告業界を潤した。

このような公的なイベントと異なり、企業が王室に関連のある展開ができるのは、現実的にはお祝い広告くらいに限られる。そのチャンスに王室に対する敬意を示すのも、この国においては重要なマーケティングの一部といえるかもしれない。

この号が発行となる12月5日は、奇しくも、プミポン国王の誕生日だ。服喪期間中であるタイでは、娯楽の自粛や延期が続いている。昨年までとびきりのハレの日だったこの日を、タイの人々はどのように迎え、過ごすのだろうか。

藤木康裕 バンコク駐在

プミポン国王は黄、シリキット王妃は青。デコレーションや衣類など、色を使って敬意や喜び、時には願いを表現するタイの人々。今は弔意を表すため、多くの人が黒い服を着ています。街の印象が暗くなり、色が持つ力を再認識させられます。

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