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広告日和

結局コトバかな

澤本嘉光 電通 クリエーティブボード エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

そもそもこのコラムは広告に関連する事を書くコラムだったはずなので、今回は初心に戻ってみようと思います。広告に従事されていない方にも何らかのヒントになるかも知れないので、ちょっとその立ち位置で書いてみます。

タイで広告賞の審査をしました。フィルム部門、です。CM部門、と言わないのは、最近の広告はテレビで流れるCMよりむしろwebで流れる事が前提の動画が多いからです。CMは、15秒、30秒、60秒……といったテレビ放送用のフォーマットに入った秒数制限のあるフィルムの事を指す、という考え方で、その他の動画は秒数的な制限はありません。

この広告祭自体はアジア太平洋地域の広告が集まるものですから、日本、中国、タイといった僕らが思う「アジア」と、インド、中東といった地域、そしてオーストラリア、ニュージーランドといった完全英語圏のものが集まるもので、世界の動向の小さな見本市みたいなものです。とはいえアジアの地域的な傾向は作品には見られますが。

この広告祭のフィルムの審査員をするのは10年ぶりでしたが、この10年で大きく審査会の様子も変わっています。

まず、web動画の本数が多くなっているのでむしろそちらが主流にすら見えます。web動画には秒数の制限が無いので時おり30分くらいあるものが出品されている訳です。これ、番組なの? CMなの? という。でも結局、その動画があるクライアントや商品のためになればそれはフィルム部門の広告作品になります。

広告祭期間中に全部の作品を見るのは至難の業になり、事前審査という名の地獄のような自宅での審査が宿題として課せられます。受賞作が仮に全体の5%とすると残りの95%はつまらない訳で、15分も30分も時にはあるweb動画を英語で苦行のように見続ける訳です。

で、苦行はいいとして、秒数制限が無い今のweb動画の大きな特徴としてはドラマのようにきちんと詰められたものよりは、ドキュメンタリーのようなものが多いということがあります。日本の人にわかりやすく言えば、はじめてのおつかい、という番組がありますが、あれを15分くらい流して、最後に、お買い物は髙島屋へ、と言ってるようなものです。もはやCMというよりは、番組のワンコーナーを流して最後にクライアントの名前がついている、ような感すらあります。

もちろん、その動画に至るまでは色々なストラテジーとかがきっとあるんですが、見た目だけで言うとそういう事になります。これ見てて思うのは、この動画を企画したり作って行くスキルって、広告を今やっている人よりむしろ放送作家とかテレビ局の人にあるんじゃないかと。

たとえば仮に、人生はいつどこに落とし穴があるかわからない、という概念で、本当に落とし穴を掘って人が落ちるのをこっそり撮影して、それを保険会社の広告でした、というような感じのものすらあります。こうなるともう、モニタリングというかどっきりカメラというかのワンコーナーです。その点では、動画で人が楽しんでくれて見てくれるものを作る、それを広告にならすという作業的には広告の人だけでその部分を囲わなくてもいい、ということになると思います。

そうなると、痛感するのは、広告にきちんとそれを仕立てて行くのに大事なのは言葉ということになります。つまり、一周して、コピーライティング、言葉のプロであるということがまず広告をきちんと作って行くための前提である、ということを再度考えた方がいいと思っていて、そこをなしにすると、特に広告専門じゃなくても広告のようなものは作れてしまう環境にあると。

正直、「広告のような動画」はこの賞の審査でも山ほど見ましたが、機能しているのかどうかはちょっと疑問……というものが多かった気がしています。

これはもう、持論の繰り返しになるのでうるせえ!って感じでしょうが、やはり広告制作を名乗る上では、コピーなのか、CMなのか、何かしらここが自分の得意な場所、プロな場所だ、というものを持つべきで、そこを持たないと早晩すごくもろい立場になってしまうと思っています。結果として、コミュニケーションプランナーです、と名乗るのは全然いいのですが、じゃあ、どこが他の人より優れているからその人の言うことを聞こうと思えばいいのですか? という時に、やはり人々との接点である表現の部分で、一点ここは人より優れていますと言える場所を持つべきだと、また今回も痛感したということです。

この状況なので、CMとして出品されたものは以前に比べてクオリティーが上がっている訳では正直ないのに、全体の中で見ると良くできてるなあと見えてくるものが多かったと思います。

CMという単位の動画でいいものを作れるというスキルは、いま意外と場所が空きかけているので実は狙い所だし、将来的に需要は多いかなと。それにそのスキルは実はいろいろと汎用性が高いので。

長くなるので簡潔に書いておくと、あと、デバイスによって映像はきちんと計算する必要性があるなと痛感した例もあり、小さなスマホの画面で見ているとすごく良かったものが、でかいモニターで見るとあらばかり見えて評価しづらいというものがありました。まあ賞だけが目標じゃないとは思いながら、その辺りは課題として認識したいし、逆にスマホなら気にならないやと計算できることも多いと感じた次第です。

なんかレポートみたいですが、たまには。

筆者プロフィル

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。

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