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15段の新聞広告で話題になるようなものを考えてデジタルに置き換えています(電通CDCプランナー 尾上永晃さん)

「こち亀40周年&終了キャンペーン(集英社)」や「池上線フリー乗車DAY(東急電鉄)」など、ユニークなキャンペーンや広告を手がけている尾上永晃さん。納まりのいい優等生的なコンテンツより、どこか引っ掛かりがあり、一度見たら忘れられないような「深みのある」作品を制作していきたいという。

── 最近の仕事について教えてください。

8月7日の「花の日」から、キリンの発泡酒「淡麗グリーンラベル」のプロモーションをWeb上で展開しています。「365 FLOWERS」といって、毎日の誕生花をアニメーションで表現しています。フランスのイラストレーター、ポール・コックスさんがアニメーションを、CM音楽を数多く手がける冨永恵介さんが音楽プロデュースをそれぞれ担当しています。花は、2月29日のうるう日含めて366種類あります。

── 366種類ものアニメーションを作ったのですか。

ええ。誕生日の花を一つずつ劇団員として擬人化して表現し、花言葉だけでなく、花の原産地や特徴なども紹介しています。誕生花事典とも言える内容です。通常、Web用のコンテンツは3か月程度で完成するのですが、今回は倍近い時間がかかりました。

── 誕生日の花についての情報を家族や友人と共有したくなる楽しいコンテンツですね。

ありがとうございます。「淡麗グリーンラベル」は2002年発売の「糖質70%オフ」の発泡酒です。発売以来、商品名に含まれる「グリーン」に着目し、緑豊かな自然をテーマにした広告を展開してきました。「グリーン」を象徴する「自然」がブランドのイメージとして定着していたわけです。

その流れで、Webでのプロモーションの際も商品の特徴を直接的にアピールするのではなく、「グリーン」に関連したものにしたいと考えました。例えば、15年に手掛けた「GREEN NAME」というコンテンツは、特設サイトで名前を入力すると、文字のグリーンの部分(森、木、山、田、土、川など)がアニメーションになるという内容で、おかげさまで話題になりました。

── 誕生花のコンテンツもその流れになるわけですね。

そうです。今回は花に注目しました。誰にも誕生日はあるので、誕生日の花と結びつけることで幅広い人たちに関心を持ってもらえるのではないかと企画しました。

自分の「好き」を思い切り表現した「こち亀」

── 2016年に展開した「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」関連の展開も相当アツい内容でしたね。

当初は、「こち亀」連載40周年とコミックス200巻発売を記念し、浅草花やしきを「亀やしき」としてジャックするという単発のイベントだったのですが、その途中で「こち亀」の連載が終了するという話が出版社からあり、それに合わせた展開を追加提案することにしました。僕も大ファンですし、ポジティブな雰囲気の中で連載終了を迎えてほしいと思ったんですね。連載終了をどのように告知すればインパクトがあるか、関係者とすぐに話を始めました。

── ご自身も「こち亀」の年季の入ったファンだとか。

ええ。あの下町的な雰囲気に夢中になって小学生の時から愛読しています。自宅も東京の谷中にしたほどですから。作品の舞台の亀有だと、ちょっとミーハーすぎかなと自制心が働いて、主人公の両さんが谷中界隈に転勤になる下町散歩シリーズ(64巻)が好きだったこともあって、谷中に住むことにしたんです。

── 実際にはどのようにプロモーションを進めたのですか。

昨年9月17日発売の「週刊少年ジャンプ」が最終回だったのですが、2週間前の9月3日に連載終了を発表し、その日に、秋本治先生のコメントを冒頭に掲載したサイトを開設しました。コアなファン以外にも「こち亀」を読んでもらいたいということで詳細な年表もつけたわけです。

── その年表の情報量がすごい。

過去に読んだ漫画を思い出しながら、この話は必要だろうと一つひとつ自分で紙に描いていきました。漫画の巻とページ数を抜き出して、年表に掲載するコマを選びました。さらに全体のレイアウトを手描きで作成したのですが、こち亀の大ファンでいつかは仕事にしたいと夢見てきたわけですから、こっちは楽しくて仕方がない。いくら描いていても飽きることがない。出版社の人たちも最後はあきらめた様子で、この仕事に関しては「好きにやらせておけ」という感じで、ほとんど口出しされないようになりました。

── さらにプロモーションは広がっていきました。

最終回掲載の「週刊少年ジャンプ」が発売される9月17日の読売新聞朝刊に出稿した15段の感謝の広告も手がけました。これも「連載完結の日に何もないのはさびしいでしょう」とこち亀好きの営業さんと一緒に自主提案したものです。イベントから始まり、Webで展開し、そして新聞という伝統的なマス媒体でもプロモーションできました。幸い、新聞広告は第33回読売広告大賞の読売大賞と、「楽しむ」部門の最優秀賞と、二部門で受賞させていただくことができました。

2016年9月17日 朝刊

── この仕事が考え方の仕事上の転機になったとか。

「こち亀」の仕事を通して、好きを突き詰めるやり方は間違っていなかったんだなと思えたんです。自分が「こち亀」の大ファンだったこともあり、自分の能力ぎりぎり限界まで取り組むことができました。その熱気のようなものがみなさんに伝わったようで、「こち亀」も売れて若い読者にも読まれるようになりました。

「好きだ」っていう個人的な思いを全力で出したら、みなさんが喜んでくれたわけです。

世の中の空気をタイミングよくすくい取るためのスピード感

── その「好き」という思いを表現したプロモーションはほかにもありますか。

「10分どん兵衛」という「日清のどん兵衛」のWebで展開したプロモーションがそうです。タレントのマキタスポーツさんが「お湯を入れて10分待ったどん兵衛がめちゃくちゃおいしい」とネット上で話題にしていたことを知りました。それを受ける形で待ち時間5分という決まりにあぐらをかいていた日清食品担当者がマキタスポーツさんに謝罪するという内容の対談記事をWebで公開しました。

10分どん兵衛

── ネット上の話題なので、この仕事はスピードが命でしたね。

15年11月末に企画を提案し、中旬にマキタスポーツさんと日清の担当者の対談を撮影。その4日後にWebに公開するという速さでした。自分自身も「どん兵衛」をよく食べていて、関係者のすべてが「どん兵衛ファン」ということで話がどんどん進んでいった作品でした。

スピード感はほかの仕事を手がけるときにもすごく意識しています。僕の考えるスピード感とは、世の中の空気が同じ方向を向き始めているな、という瞬間をタイミングよくすくい取ることです。ですから、そのタイミングを逃さないためにクライアントともコミュニケーションがとれていないといけません。すくい上げるタイミングが早すぎてもだめですが、遅すぎるとキャンペーンの勢いが衰えてしまう。

── 商品の売り上げにも結びついたそうですね。

「10分どん兵衛」がSNSであっという間に拡散し、Webを公開して数日後には「店頭からどん兵衛だけが消える」という現象が起き、ロングセラー商品としては異例となる売り上げ前年比50%増を記録しました。

キーワードは「拡散数」から記憶に残る「深度」へ

── 制作する際に大切にしていることはありますか。

仕事にかける熱量の多さが受け手側に響く時代になってきていると感じます。スマートフォンが普及し、SNSで誰もが発信者になれる時代。一般の人の作ったコンテンツのほうがプロのものより面白いことだって多い。そんな時代にプロとして何が表現できるのか。結局、対象となる商品やイベントに執着し、どれだけ自分のエネルギーを注ぎ込めるかということが大切だと思っています。

例えば、「淡麗グリーンラベル」の「365 FLOWERS」では、366種類のアニメーションを作って公開するという熱量のかけ方がこの作品の独自性につながっているわけです。

一発芸なら一般の人に負けてしまうかもしれません。しかし、誕生花のコンテンツのようにチームを組んで緻密に設計し、膨大なエネルギーを注ぎ込んだものは誰も真似できないし、一般の人にもその熱量が伝わるだろうということです。

── 広告やプロモーションの影響を評価する基準も変わっていくのでしょうか。

これまでは、ネット上での拡散数が広告としての評価に結びついていたと思うのですが、これからは人の記憶に残るような作品の「深度」がクリエイティブのキーワードになるような気がしています。こちらは広がりを示す「拡散数」と違って数値化しにくいこともあって客観的な評価が難しいのですが、一度見たら、忘れられないような内容の深さや濃さがこれからますます求められていくような気がしています。

── ところで、気分転換などのためにしている趣味はありますか。

料理ですかねえ。理系出身なので、レシピを見ながら料理を作る時、一つひとつの作業のロジックを知りたいと思ってしまうんです。「なぜ、塩小さじ1杯」なのか。「2杯じゃいけないのか」という具合に。そうした料理の公式と自分が過去に食べたものの記憶を掛け合わせて、自分なりの方法で調理するのが面白い。仕事でも同じ思考かもしれません。ちなみに、勝手に「分とく山」の野崎洋行さんを師と仰いでおります。

毎日のようにだしも一からとってうどんを食べています。あの昆布だと、味が弱いから北海道・利尻産のものがいいかなとか、ここに煮干を入れると塩分が出るから、塩気は抑えたほうがいいなんて試行錯誤しながら調理するのが実験しているようで楽しいんです。最近ようやく関東風のどぶ濃いだし汁がとれるようになってきて嬉しいです。

── 理系ということですが、大学は建築学科出身で大学院も修了しているんですね。

建築設計の課題が出て、要望に過不足なく応え、キチンとした作品を作れる同級生が結構いて、自分も真似してみるのですが、彼らのようにうまくいかない。それに、なんというかそんなおさまりのいいことばかりやっているから建築は社会に対して影響力を持てていないんじゃないか、という謎の憤りを感じておりまして。文脈や思想を重視した建築にかぶれていたんですね。そんな時に大学院の研究仲間が広告会社への就職活動をしていて、様々なキャンペーンなどを通して社会を動かすような仕事ができることを知りました。「パソコンに住む」とか、「超個人的なルールで生み出された建造物」のような奇抜なものばかり手掛けていた自分に合いそうだと思って、就職活動をして電通に入社しました。

── 広告媒体としての新聞の可能性については、どのようにお考えですか。

自分自身はデジタル系の仕事が中心になりますが、その際にVRだとか最先端で難しそうなことに取り組むのではなく、15段の新聞広告で話題になるようなものを考えて、それをデジタルに置き換えるとどのようなことができるのかということを考えています。というか、アナログっぽいものばかりに興味がいってしまうたちなので。それを「デジタル15段」と個人的に呼んでいます。その点で新聞は広告やキャンペーンを発想する際の出発点になっています。「こち亀」の時も思ったのですが、Webと違って物として残る新聞の強みは今後も発揮できるのではないでしょうか。

Noriaki Onoe

1983年名古屋市生まれ、横浜市育ち。鎌倉学園中・高等学校、東京理科大学大学院理工学部建築学科卒業後、2009年電通入社。デジタルを中心としたコミュニケーションからまちづくりまで、細かい表現から全体構造設計までいろいろ手掛けている。主な仕事に、「低予算型テーマパーク亀やしき」、「ONE PIECE 20周年〜京都麦わら道中記〜」、イラスト「カンヌからの絵はがき」など。カンヌ、TCC新人賞、メディア芸術祭など国内外で受賞歴多数。自らイラストも描き、尊敬するアーティストは「やはり秋本治先生です」。東京都台東区谷中在住。

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