adv.yomiuri 読売新聞広告局ポータルサイト

共感よりみんなが遊べる仕掛けで勝負したい(面白法人カヤック 氏田 雄介さん)

面白法人カヤックでプランナーとして働いている氏田雄介さんと言うより、「あたりまえポエム」の「氏くん」と言うほうが、わかる人が多いかもしれない。「自称カヤックの座付き作家」と控えめに言うが、会社のブランディングにも深く関わっている。仕事もプライベートも面白いことに全力で取り組む「氏くん」へのインタビュー。

── 和服で毎日出勤しているんですか。

最近、あまり着ていなかったんですけど、事前の質問項目に「和服で出勤はいつから」とあったので、着てきました。

── ありがとうございます。

2年ぐらい前は、これでよく出勤していたのですが、最近は大事なプレゼンとか、会社説明会とか、人がいっぱい集まるところで、ちょっと目立つ必要があるときに着るようにしています。

── 和服で出社し始めたきっかけは、なんだったんですか。

大学4年生の頃に、和服で大学に通いたいなと思ったんです。和服を着るのは成人式か卒業式、あとは花火大会くらいで、普段着る機会がない。でも、機会があれば和服を着たいと思っている人も多いんじゃないか、と。それで、その頃通っていた早稲田大学の文学部キャンパスで、「7月7日に文キャン浴衣デーをやりたいな」とツイートしたら、それに乗ってくれる人がたくさん名乗り出てくれたんです。今思えば、それが僕にとって初めての“バズ”でした。それ以来、学内を歩いていると、ときどき知らない人から「もしかして氏田さんですか」と声をかけもらえるようになりました。それから、和服キャラで行こうと。

シェアするハードルを下げ、いかにバズらせるか

── 氏田さんの個人的な活動はあとで聞くとして、まず、仕事の話から聞かせてください。

カヤックでは、企業から依頼を受けた仕事を「クライアントワーク」と呼んでいますが、僕がこれまでに深く関わった仕事の一つが、2015年に企画・制作チームのメンバーとして参加した「NARUTO−ナルト−展」のプロモーションです。六本木ヒルズのジャックを行ったのですが、制作チーム全員の思い入れも強かったですね。六本木ヒルズのメトロハットが火影岩に変わるARアプリをつくったり、六本木ヒルズの各所に、フォトスポットとしてキャラクターを設置したり。会場を回ると謎解きができるスタンプラリーのアプリもつくりました。特にノースタワーB1Fの自動ドアの開閉を利用した「イタチとサスケのデコトン」は、Twitterを中心に動画や写真の投稿が多かったですね。

それから多くの方々に体験していただいたもので言うと、パナソニックさんの新型ノートPC「レッツノートRZシリーズ」のスペシャルコンテンツとして、企画・制作のお手伝いをした「空想動物診断」がそうですね。名前を入力すると、あなたは何々タイプですと出てくる動物占いのようなコンテンツです。レッツノートRZは「軽量かつ頑丈」「コンパクトかつハイスペック」など相反する価値を備えている。それで、自分の名前を入力すると、「クールだけど情熱的」「インテリかつアクティブ」など、その人が兼ね備える2つの魅力を診断する空想動物占いをつくったんです。公開2日目で10万件、2週間で約50万件のアクセスがありました。

── バズらせるコツは、どのへんにあるのでしょうか。

はっきりとした理論では表現できないのですが、例えば、「私は、こういう人間です」とSNSでダイレクトに発信するのは、ちょっとハードルが高いと思います。でも、「空想動物診断」で「あなたは何々タイプです」と出たら、その結果はシェアしやすいですよね。今でも占いや診断が楽しまれているのは、そういう理由もあると思います。「SNOW」という自撮りアプリが人気ですけど、あれもそうかもしれません。自分の写真をシェアするのはちょっと恥ずかしいけど、自分の顔を犬顔や猫顔に加工したら半分ふざけている感じがあってシェアしやすい。自己主張したい自分の気持ちをオブラートに包んで表現できる。しかも、ルールが簡単で、だれでも気軽に参加できる。このようにシェアするハードルを下げることが、バズをつくるポイントの一つなのかもしれません。

面白いことをやることが会社のブランディング

── 肩書が「企画部・人事部」となっていますが、人事部にも所属しているのですか。

カヤックには「ぜんいん人事部」という制度があって、社員全員が「人事部」のメンバーなんです。ただ、人事部の中でも僕はコーポレート・ブランディング・チームに所属していて、採用の企画や自社が発信する企画を考える仕事に関わっています。ブランディングといっても「面白法人」を名乗っている会社なので、面白いことをやること=ブランディングなのですが。

── 2016年からカヤックが始めた「エゴサーチ採用」も、氏田さんですよね。

「エゴサーチ採用」というのは、履歴書の代わりに検索ワードで採用選考を行うというものです。応募者に書いてもらう情報は検索ワードと名前とメールアドレスだけ。年齢も必要ありません。例えば「日本一のプログラマー」でネット検索して、その人の名前が一番上に出たら、その人はたぶんすごいプログラマーですよね。ネットで情報を発信している人だったら、履歴書をわざわざ書かなくても、ネットを検索すればわかります。この企画は、人事部の三好(晃一)とコピーライターの長谷川(哲士)と僕の3人で考えました。僕らの企画ってだいたいブレストから始まるんですけど、長谷川の「エゴサーチ採用って、どう?」という何気ない言葉から生まれたんです。

実はその頃、世の中では人事部の人が応募してきた就活生のTwitterやFacebookをチェックして不採用になる、ということがニュースになっていたんです。でも、積極的にいろいろな活動をしている人にとっては、ネットでやっていることを見てもらったほうが楽というか、早いですよね。そういった背景もあり、「エゴサーチ採用、いける!」と思ったんですね。

実際始めてみて、一番大変だったのは人事部の三好でした。年に150〜200人の応募があるのですが、応募してきたワードを全部、自分で検索して、出てきた情報を読み込んで合否判断をしなければならない。むちゃくちゃ非効率なんです(笑)。でも、それをわかった上でも、「面白いから絶対やろう!」と乗っかってくれました。

── カヤックのエイプリルフール企画も氏田さんですね。

なぜかわからないですけど、入社2年目から5年連続で僕が担当しています。カヤックがエイプリルフールプロジェクトを始めたのは2006年から。皆さんに面白がっていただけるような1日限定企画を毎年リリースしています。「エゴサーチ採用」と同じで、面白法人を名乗っている以上、カヤックは、とにかく毎年こういったイベントには乗っかり続けなければいけないわけで、ある種の呪いなんじゃないかと僕は思っています(笑)。

── 気に入っている過去のエイプリルフール企画ってありますか。

1つは2013年の「エイプリル採用」です。4月1日限定で経歴詐称をした履歴書で応募できるというものです。その前年に経歴詐称が世間をにぎわせたのですが、それがヒントになっています。経歴詐称はウソをつくこと、悪いことですが、裏を返せばフィクションがうまい、ないものをつくれる能力です。それもクリエイターの能力の一つだと思うんですね。

あと、一番反響がよかったのが、まとめサイトをそっくり真似てつくったウソサイトです。エイプリルフールに、いろいろな企業がネタを投稿して、それがまとめサイトになるという流れが、ここ数年できていますが、それを逆手にとって、サイトそのものもウソのサイトです。例えば、「プラズマクラスターじゃなくてウラシマクラスターを出しました。使うとおじいさんになります」とか。ウソで取り上げる会社にも、きちんと許可をもらって掲載しています。

アフィリエイト広告で小説をつくる!?

── 「アフィリエイト小説」や「あたりまえポエム」など、プライベートでもいろいろなことをやっていますね。

もちろん、プライベートなことをするのは業務外の時間ですが、カヤックは比較的それがやりやすい環境だと思います。うちの会社は本当に小学校の図工の時間みたいな感じで、仕事か、仕事じゃないかに関係なく、ただ何かをつくりたいという人が多い会社なんです。

── 小学校の図工? 高校の文化祭じゃなくて?

僕の感覚では、高校の文化祭とはちょっと違って、どちらかというと小学校の延長です。モテたいという気持ちも、政治力も働いていないというか、小学校の図工のようにつくりたい純粋な気持ちからつくる、というところがあります。それが仕事につながっているのがカヤックだと思っています。

── 「アフィリエイト広告だけで『桃太郎』を書いてみた」、すごくバカバカしくて、面白いですね。アフィリエイトをやっている本や商品のバナー広告を並べて、その本のタイトルや商品名を続けて読むと物語になる…、と言葉で説明しても、面白さは伝わらないですが(笑)。

「桃太郎」のほかに「浦島太郎」と「かぐや姫」もつくっています。バナーという世間一般では“邪魔なもの”として扱われるものを作品にできないかと思ったんです。よく2ちゃんねるまとめサイトにアフィリエイトのバナー広告があるのですが、その商品名が面白かったり、スレッドの内容に対するツッコミになっていたりするんですよね。それらを見て、アフィリエイトのバナー広告だけで作品にしたら面白いと思ったんです。その最初が「桃太郎」(2014年8月)です。

アフィリエイト小説:「ムカシ×ムカシ」「アルトコロニーの定理」「おしいさんとおばあさん」「いました」「おじいさんは山へ金儲けに」…。多少苦しいところもあるが、タイトルをつなげて読むと物語になる

本にすることにこだわった理由

── 「あたりまえポエム 君の前で息を止めると呼吸ができなくなってしまうよ」が4月に講談社から出版されましたね。

Twitterで「#あたりまえポエム」というハッシュタグで発表してきたものを本にしたものです。あたりまえポエムは、「朝起きると夢から覚めていた」「夢の中で笑う君は笑顔だった」のように、意味のない、あたりまえのことをポエム調に綴ったものですが、書籍化するにあたり、全編を通して恋愛小説のように楽しめるよう新しい作品も加え、再構成しています。

── Twitterで「#あたりまえポエム」を始めたきっかけは、フォロワーを増やしたかったからというのは、本当ですか。

そうですね。「バズります」「バズらせます」と大々的に言っている会社にいるので、個人のフォロワーも多いほうが説得力があるかなと思って、2016年1月に立てた目標が「Twitterのフォロワーが1万人を超える」でした。「#あたりまえポエム」を始めたのは2016年11月からですが、その前にもいろいろやっていて、フォロワーはすでに1万人を超えていました。「#あたりまえポエム」を始めてからは、2万人を超えました。

── でも、なぜ、Twitterで「#あたりまえポエム」のような自分の作品を発表していこうと考えたのですか。

例えば賞をたくさんとっているクリエイターの方々でも、普段のツイートは「いまから、ごはん食べに行きます」とか、普通のものが多かったりします。Twitterの中でならそういう人たちにも勝てると思ったんです(笑)。それでつくったものの1つが、新書のタイトルっぽく当たり前のことを言う待受画像「あたりまえ新書」でした。そこそこバズって、いろいろなメディアにネット上でのブームとして取り上げられたんですが、それを始めた僕の投稿は、1つも紹介されなかったんです。せっかくつくったのに、すごくもったいないことをした、と思いました。それで、「#あたりまえポエム」のときは、Twitterでバズった後すぐにInstagramとブログに投稿して、「書籍化します!」と大々的に宣言して、これは僕が最初ですよ!ってアピールしました(笑)。

── その「あたりまえ新書」も出版されましたね。

ヴィレッジヴァンガードさんの文庫本ノートとしてちょっとだけ出させてもらうことになりました。タイトル自体に中身がないので、開けても中身がないメモ帳用ノートです。

── Webのプランナーである氏田さんが「あたりまえポエム」を書籍化したのは、なぜですか。

いくつか理由があります。1つは、少し前に、ネットでポエム本が売れているということが話題になっていて、その中身について賛否両論あったんです。そのパロディという意味で、ちゃんと本にして、書店に並べるところまでやって初めてパロディ作品として完成させたいと考えていました。

それから、「あたりまえポエム」のハッシュタグで検索すると、僕が投稿した何十倍、何百倍もの投稿が出てきますが、数が多い故に僕の投稿は埋もれて出てこないんです。それで、一つの作品としてちゃんと本にしたいという思いもありました。

また、文章は本のために書き下ろしていますが、ネット上でもある程度公開されているので、内容を読み込んでもらうというよりギフト雑貨のようなグッズとして売りたいという気持ちもありました。それで、Instagramを意識して形も正方形にして、装丁や写真もきれいなものにしたというのはあります。

── 紙の方が特別な感じがする?

会社自体もネットの仕事が多いので、紙について日頃考える機会はあまりありませんでしたが、自分の作品が本になり改めて考える良いきっかけになりました。ウェブサイトでつくっても、ふーんで終わってしまうことが、紙で掲載することによって、一人ひとりに届く。最近だと、「白い恋人」の新聞広告もネットでずいぶんバズっていましたよね。新聞はインターネット世代にとっては特別感があります。紙メディアに載った情報がネットで取り上げられるほうが、ネットで情報を直接取り上げるよりシズル感があって、インパクトがあるということだと思います。「あたりまえ新書」も、画像より本当の本にしたときのほうが、面白いと思いますね。

── 氏田さんはブログで、「僕は意味があることや共感することを書くのは不得意だ」というようなことを書かれていましたが、どういう意味ですか。

例えば、Twitterで人気のマンガを見ていると、読み手がすごく共感できるものや、作者の心の奥からわき出る心情を吐露したものが比較的多いと思います。そういう意味で、メッセージ性の強いものや共感性の高いものは拡散されやすく、多くの人に見られていますが、僕はそういうのをつくるのが苦手なんです。その分、仕掛けの面白さや、面白いからみんなが参加してくれる遊びみたいなところで勝負したいと思っているんです。

Yusuke Ujita

1989年、愛知県生まれ。早稲田大学を卒業後、面接で即興なぞかけを披露してカヤックに入社。「エゴサーチ採用」などの人材採用キャンペーンから、「NARUTO—ナルト—展」などのクライアントワークまで、さまざまなプロジェクトの企画を手がける。プライベートでは、当たり前のことを詩的に綴る「あたりまえポエム」、アフィリエイト広告だけで物語を書く「アフィリエイト小説」などを執筆。

Page Top