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バズマシーンに聞くバズのツボ、マス媒体との接点 栗林 和明さん(TBWA\HAKUHODO Buzz Machine)

2017年、米国の広告・マーケティング誌Advertising Ageの「40 under 40」(注目すべき40歳未満の40人)にアジアで唯一選ばれた栗林和明さん(29)。「忍者女子高生(サントリー)」や「#猫バンバン(日産自動車)」の制作でも知られる栗林さんだが、人をメディアとして捉える新しい視点で、バズ広告の新たな可能性を切り開いている。バズのスペシャリストに聞く「バズのツボ」、マス広告やマスメディアとの接点を聞く。

── 栗林さんの名刺の肩書「バズマシーン」は、どういう意図でつけたのですか。

博報堂からTBWA\HAKUHODO勤務になったのは2014年10月ですが、その時上司から「好きな肩書を考えていい」と言われ、最初提示したのが「インタラクティブ・プラナー」という広告会社では一般的な職称でした。「もう少し役割を明確に出来ないか」と上司に言われて、だったらもうメチャクチャわかりやすくしようと思って、ダメ元で「バズマシーン」って出したら、「あ!それ、いいじゃん」(笑)。

── なぜ「マシーン」なんですか。

それまでバズは狙って起こせるものではなかったのです。予想外にうまくいくこともあれば、滑ることも多かった。それで、「確実性」がバズにとって最大の価値だと思って付けた職称です。バズマーケティングにとって大事なのは、確実にバズを起こせること、100%ヒットを打てるマシーン化だと思ったのです。自分がバズの安打製造機になろう。それまで自分が制作に関わったもので、明確に成功できたと言えるのは3、4件ぐらいでしたが、ある程度「バズのツボ」も見えてきていたし、自分を追い込むという意味でも「バズマシーン」と言い切ってしまったほうがいいと思ったんですね。

── アクセス数が800万回を超えている「忍者女子高校生」は、その頃すでに作っていた?

「忍者女子高生」を制作したのはTBWAに出向する直前、博報堂にいた2014年の夏です。「バズのツボ」の研究を本格的に始めたのも、「忍者女子高生」の制作がキッカケです。研究と言っても、やっていることはシンプルで、動画をとにかくたくさん見て、その制作者、内容、再生数、何が拡散のツボになっているかを調べ、再生数の多い動画の構造分解をやっているだけです。

── どのくらいの数を見ているのですか。

年間3万本を超える動画を見ていると思います。それをモニタリングツールも活用して分析するわけです。実際やってみると分かりますが、100件くらいの動画を見ると、10個ぐらいの共通点が見えてくる。「忍者女子高生」の前にもそれをやって、「バズのツボ」としてまとめました。

── 「忍者女子高生」のときは、どういうツボを抑えたのですか。

「忍者女子高生」のときは、「日本文化はフィーチャーされやすい」「言葉の要らない映像は広がりやすい」「スゴ技は広がりやすい」という要素を重要視していました。細かくはもっとありますが。

忍者女子高生:女子高生が学校や街中でアクロバティックな追いかけっこをする。サントリーのCCレモンのCMで、2014年7月から公開1か月で600万回、累計で800万回を超える再生数になっている

人がシェアするコンテンツの共通点

── 昔から口コミをマーケティングに利用することはありましたが、それと今のバズマーケティングはどう違うのでしょうか。

基本は同じです。昔との違いは、ソーシャルメディアが普及したことで口コミの影響力が圧倒的に大きくなったことです。ソーシャルメディアで、例えば100人のフォロワーがいる人がツイートすれば、直接的な口コミに比べ100倍伝わる。しかも、時系列で可視化される。人という「メディア」のリーチ力が上がったことが、バズマーケティングが注目される背景にあると思います。

── バズを起こすメディアはソーシャルメディア、ということでしょうか。

最も使うメディアはソーシャルメディアですが、そこからテレビや新聞、雑誌など他のメディアでも取り上げられ、さらに拡散していくし、テレビや新聞の情報がソーシャルメディアでシェアされ、拡散していくこともある。バズの拡散には、すべてのメディアが関わっています。人をメディアとして捉え、人を起点としながら統合的にコミュニケーション戦略を考えていくことが大事なんですね。

ただ、人をメディア化するためには、初めに言ったように確実にバズを起こせることが必要です。ところが実際にやってみると、例えば500万円かけて作った動画が5、6万回しか再生されないということがしばしばある。それなら普通に商品を広告したほうがよほどリーチします。僕自身、そういう悲惨さを何度か味わいました。それで、「もう絶対失敗したくない」という思いから始めたのが、人をメディア化する「バズのツボ」の研究ということなんです。

── 「バズのツボ」の研究はどこまで進んでいるのでしょうか。

「忍者女子高生」から2年経過し、「人がシェアするコンテンツには、どんな共通点があるのか」という視点から、「バズ6つの原則と80の切り口」というマップを作りました。「6つの原則」というのは以下のようなもので、出てきたアイデアがこの原則に沿っているか、チェックリストとして使います。

6つの原則

UNIVERSAL
どこの国の人でも、無音でも、理解できる。
DISCUSSION
議論を巻き起こす、ついひと言物申したくなる。
WOW
予想できない展開がある。
INSIGHT
共感・納得を得られる。
1st CATCH
冒頭で心を掴む。
1 WORD
その企画をひと言で人から人へ説明できる。

それから「80の切り口」というのは、「忍者女子高生」で言うと「日本文化」「超絶技/テク」というようなシェアされるコンテンツの切り口です。

ただ、これらは人がシェアしたくなるコンテンツの因子を抽出しただけでした。それで、最近はその“気持ち”、「人はなぜシェアするのか」というところに焦点を当て、シェアという行為を捉え直しています。

承認欲求から見たシェアするツボ

── 「人はなぜシェアするのか」という視点からまとめた新しい「バズのツボ」を説明してもらえますか。

「人はなぜシェアするのか」と言えば、根っこにあるのは「(人から)認められたい」という承認欲求です。シェアという観点から見ると、この承認欲求は4つにまとめられます。まず、笑いや驚き、感動を共有したいという「共振欲」。それから、自分なりの考えや発見、作品を表明したいという「表現欲」。自分が認める人やモノを讃えたいという「称賛欲」。そして、自分が知っている情報や知識を周囲に知らせたいという「啓蒙欲」の4つです。企画の段階でどの欲求を刺激するか明確にすることが大事です。

── どの欲求を刺激するかという視点で見ると、表現の幅も広がりそうですね。

多くの人は、バズ企画を考えるとき、「共振欲」のみで考えがちです。表現のクオリティーを上げて、感動させて、シェアさせる。でも、そこで目立つのは競合も多いし、すごく大変なんです。実は、「共振欲」だけでなく、「表現欲」「称賛欲」「啓蒙欲」も刺激することを考えれば、もっとコンテンツがシェアされる障壁は下がるということなんです。

それから、シェアされやすくするためには「4つの壁」を回避する必要があります。例えば、特定の仲間同士や業界の人にしかわからないことはシェアされない「文脈の壁」、多くの情報の中で目立たないとシェアされない「埋没の壁」、いくら面白くても長過ぎるコンテンツは見られないという「離脱の壁」、いくら興味を引いても、信用できないサイトなどの情報はシェアされない「疑いの壁」。これらを企画のチェックリストとして活用します。

最後に、企画に合わせた「伝達形式」を選ぶことも大切です。これには、「言語伝達」「視覚伝達」「身体伝達」の3つがあります。例えば、企業やブランドのスローガンやタグラインは、言葉が流通するように計算されて作られています。それから、最も多いのが「視覚伝達」で、これには動画だけでなく、ワンビジュアルの静止画もあります。「身体伝達」は、例えば「恋ダンス」もそうですし、その場にいる全員が一斉にマネキン人形のように静止し、その様子を動画で撮影する「マネキン・チャレンジ」などがあります。

── 視覚伝達の場合は、静止画より動画のほうがやはり効果が高い?

2年くらい前に、ネットでドレスの色が「青と黒」なのか、「白と金」なのか世界的に話題になりましたよね(Twitterで#thedressのハッシュタグで検索できる)。1枚の写真で議論が起こったわけで、静止画は動画に比べはるかに流通速度が速い。ただ、動画の情報量のほうが圧倒的に多いので、仕掛けるほうとしてはいろいろなことがやりやすい面があります。だから、企画に合わせ一番最適な伝達形式を選ぶことのほうが大事なんですね。

いずれにしろ、人がシェアしたくなる企画にするには、4つの欲のいずれかを刺激し、シェアを妨げる4つの壁を越え、シェアしやすくなる3つの伝達形式を選択することが大事で、これを「4-4-3のバズフォーメーション」と呼んでいます。

マス広告にも「バズのツボ」がある

── バズマシーンの栗林さんは、マス広告をどう見ていますか。

従来のマス広告の使い方は「届いて終わり」ですが、僕が一番やりたいのは、届いてからさらに爆発するマス広告の使い方です。例えば弊社が担当した案件の一つに、「“やっちゃえ”NISSAN」という日産自動車の技術に焦点を当てたブランドコミュニケーションがありますが、「やっちゃえ」というワードがみんなの記憶に残って、いろいろなシーンで使われるようになっている。あれも一つの例です。だから、マス広告もやり方次第ということだと思っています。

── バズがマーケティング手法として注目され始めた頃は、バズをいかに盛り上げるかが注目されていましたが。

バズにもいろいろあって、ただ純粋にバズるコンテンツもあれば、それをマーケティングに落とし込んだものもある。ベン図でいうと、バズとマーケティング課題の重なった部分がバズマーケティングだと思っています。認知度や好意度を高めることがマーケティング課題なら、出てきたアイデアがそこまで落とし込めているかが判断のポイントになるということです。

── 栗林さんの作られたもので、具体的に説明してもらえますか。

日産自動車の自動収納するオフィスチェアの動画は、「技術の日産」というイメージを高めることが目的でした。手を叩くと、イスが自動的に机の下に収まる動画ですが、こういう商品があるわけではなく、日産車の自動駐車機能「Intelligent Parking Assist」をPRするために作ったものです。

(CD細田、PL 梅田・栗林、AD 増田、PR 小林、P 深津・上藤、AE 岡安・岡本・藤井・伊藤・牛山・中須)

── 「#猫バンバン」も栗林さんが携わられた施策ですね。

「#猫バンバン」は、寒い冬に猫がクルマのエンジンルームに忍び込むことが多いということで、「出発前にボンネットをバンバンしましょう」と世の中に訴えた動画です。

「技術の日産」の自動収納のチェアは大きいキャンペーンの一環として作られたものですが、「#猫バンバン」は最初、公式TwitterとFacebookへの投稿でした。それがソーシャルメディアで話題になり、これは発信する価値があると判断し、「猫バンバンプロジェクト」を立ち上げ、特設サイトやステッカーを作った。それがヤフーニュースで紹介されたので、さらに拡大しようということで動画を作ったら、それがテレビでも紹介されるという形で拡散していったのです。だから、マス広告を使って大きく展開するもの、小さな種から可能性を見つけ育てていくもの、両方が大事なんだと思いますね。

(CD高橋、CW 石田・桃井、AD 増田、PL 栗林、AE藤井・上村)

シェアされるコンテンツという視点から新聞を見てみる

── バズという視点から見て新聞というメディアはどう見えますか。

メディアの種類にかかわらず、質の高いコンテンツは広がると思っています。例えば、ソーシャルメディアで話題になった読売新聞のコラム「編集手帳」もそうです。辞書の言葉の並び「新郎」は「心労」と「塵労」に挟まれているということを入り口に、前日の「バレンタインデー」のとんでもないエピソードを紹介したものです。こんな文章を読んだら、思わず拡散したくなりますよね。

読売新聞 2017年2月15日朝刊

バズとマーケティング課題のベン図と同じで、「みんなにシェアされるのはどんな記事か」という視点で、記事や新聞広告の「バズのツボ」を分析してみると、また新しいツボが見えてくるのではないかと思います。

── 確かにそういう視点では、これまで新聞を見てこなかったと思いますね。

それから新聞広告で言うと、シェアされやすいという観点からみると、3つぐらいの使い方があると思います。ももいろクローバーZの初主演映画『幕が上がる』公開のとき、等身大の新聞広告(2015年2月28日付)がありましたが、そういう「ギミック的」な使い方が一つ。それから、「ONE PIECE」のコミック累計3億冊突破のときに全国47都道府県の新聞に47人のワンピースキャラクターが掲載された集英社の広告(2013年11月)がありましたが、そういう「ジャック的」な使い方もバズを起こす大きな要因になります。また、年の初めに企業のメッセージを正月広告のような「タイミングを意識した」使い方もあります。新聞広告も、どういう伝え方をしたらシェアが広がるかという点で見直すことが大事だと思います。

2013年11月5日/2013年11月13日 朝刊 © 尾田栄一郎/集英社

── 新聞社と一緒にできることは、何でしょうか。

今はファクトが重要な時代になっています。先ほどの「#猫バンバン」も重要なのは、「寒い冬に猫がクルマのエンジンルームやボンネットの中に潜り込んで、気付かず発車してしまう事故が多い」というファクトを見つけられるかどうかということでした。今回は、幸いにも得意先&ライターチームがそのファクトを見つけて下さりました。

まだ顕在化されていないファクトを探すリサーチ力があれば、どんどん新しいことができる。新聞社にはそれがあると思います。そういう広告会社にないリサーチ力、編集力を持った人たちともっと協業できれば、素晴らしいものがたくさん生まれてくると思っています。

kazuaki kuribayashi

1987年生まれ、上智大学卒業。2011年博報堂入社、2014年からTBWA\HAKUHODO勤務。肩書はBuzz広告の専門家「バズマシーン」。29歳の若手ながら、カンヌライオンズ Gold や Spikes Asia Grand Prix、釜山国際広告賞(AD STARS)Grand Prix、Campaign Asia-Pacific’s Young Achiever of the Year 2016 、JAAAのクリエイター・オブ・ザ・イヤー2016メダリスト、2017年にはAdvertising Ageの「40 under 40」にも選出されている。

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