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解釈を許容するコミュニケーションを求めて(SIXアートディレクター/グラフィックデザイナー 矢後直規氏)

その日、取材場所である表参道のカフェに颯爽と現れた彼はひどく汗をかいていた。複数のレイヤーを組み合わせて、関係性の妙や全体の調和を色鮮やかに演出する彼のグラフィックデザインは、新鮮な驚きとともに見る者の知覚を刺激する。インタラクティブな表現を得意とする博報堂のクリエイティブエイジェンシーSIXで、アートディレクターを肩書きとする矢後直規さんに自身の作品やデザイン観について聞いた。

── こんにちは。ところでずいぶん暑そうですね。

いやあ、ちょっと汗拭いていいですか。午前中にフットサルやってきて、異様に代謝が良くなっちゃって。

── SIXってフレックスなんですか。

じゃないんですけど、会社に朝8時ぐらいに行ってちょっと仕事して、9時から11時頃まで近くの東京体育館でフットサルやって、また会社に戻って、汗かきながら仕事してました。

── フットサルは、よくやるんですか。

実は今日が初めてです(笑)。先輩に誘われて2時間くらいやったら、やたら発汗がよくなってしまったみたいで (´・`;)ポタポタ。

── 休みの日もスポーツをよくやるんですか。

休日は毎週のようにギャラリーか美術館に行ってます。あとは本読んだり、できるだけインプットに使う時間を作ろうとしているんです。あとは自転車乗って、会社にも自転車で通っています。

── 自転車は何乗られてるんですか?

白いtokyobikeです。それから最近は自粛してるんですけど、日本酒が好きで、昔は2日で1升くらいは飲んでましたね。飲んだ日本酒を全部メモってました。

矢後さんの「飲んだ日本酒メモ」

── お気に入りの日本酒はなんですか。

「仙禽(せんきん)」がいちばん好きですね。このお酒は、栃木の30代の若い杜氏がやってる酒造なんですが、全て栃木産の原料米を使っていて、それどころか蔵の地下水、つまり仕込み水と同じ水脈上の田んぼ限定の作付けをしているみたいなんです。それで、後味がちょっと酸っぱいんだけどまろやかというか、香りがフワッと来る。超おすすめです。

── 美術館やギャラリーでよく行くところはありますか。

美術館でいちばん好きなのは恵比寿の東京都写真美術館ですね。でも、改修工事でいまは入れないんじゃないかな。大きいところでは国立新美術館によく行きますが、最近はフェイスブックで情報が流れてくるから、小さいギャラリーに行くことが多くなりました。そのぶん数も増えて、1週間に2つずつ見ても全然追いつかないですね。

── 汗が引いてきたところで、ムサ美の視デ(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科)ご出身ですが、大学で学んだことは、いまの仕事に影響していますか。

僕、結構真面目に学生やってたんで、かなり影響されているところがありますね。授業の大半はコンセプトメーキングです。課題を発見して、それを解決するコンセプトを考えるところに力点が置かれていて、デザインに落とし込むところまで行かなくてもいいみたいなところがあった。これからの世の中で大事なクリエイティブディレクションを教えている学科なんです。

── 去年制作されたラフォーレ原宿のグランバザールのポスターで進入禁止の赤いラインを飛び越える女性を描いています。矢後さんはそれを「欲望のラインを飛び越える」みたいに説明していましたが、ファッションの広告の作り方としてはものすごくコンセプチュアルだなあと。

ラフォーレのポスターは、ある雑誌の記事で「コピーがなくても完成してる」と書いていただいたのですが、いつも言葉がなくて成立するものを目指しています。言葉がダメというわけじゃないですけど、僕がやっていることは、言葉で「こうだ」って言ったらそれまでになっちゃうことだと思うんですね。

ラフォーレ原宿2015年冬・グランバザールのポスター

── 同じことを言葉でやっても伝わらない?

僕は言葉で表現することが苦手だから、そう思うんです。あとは、ビジュアルコミュニケーションは、一度人の解釈に委ねるじゃないですか。その許容が好きで。

例えば、言葉で「悪い奴だ」と言ったらすごい決め付けになっちゃうけど、「悪い奴」を絵や写真で表現すると、「悪そうだけど目はとってもやさしい」とか「悪いと決めつけられて悲しそう」とか、いろんなニュアンスや解釈が生まれてくる。そのビジュアルに目をとめて、一度噛み砕いて、自分の中で言葉にしてくれたら、たぶんそれはずっと心に残ると思うんです。

── 自分の表現スタイルというか、デザインでのこだわりみたいなものってどういうところですか。

変化していくものが好きですね。ロゴも、固定した形を追求するというよりは、何かが変化してこうなるというのに魅かれます。例えば、これ「Kii.inc」という建築事務所のロゴですけど、トリミングするとKiiというロゴが出てくるんです。

Kii.incのロゴ

言い換えると、面白い造形自体を作り込むというよりは、物と物との関係性をクリエイションの核にしているということです。レイアウトでも、文字同士の距離感や色合わせで風が通るような澄んだ感じを出そうとしたり、空間演出をしているみたいな雰囲気で構成するということが多いです。

例えば、誰かと話をしていて、ちょっと離れて座って話すとスローなテンポで話す雰囲気になるけど、密着して話していると話に集中して白熱してしまう。仮に、自分がその空間の中にいるとしたら、どんなことを感じるだろうか、ということを考えながらデザインしています。

── 装丁の仕事もされてますね。

ZINEのような小さい写真集はいっぱい作ってますが、書籍の装丁は「MdNデザイナーズファイル 2016」というデザイナー年鑑が最初です。

矢後さんの初の装丁「MdNデザイナーズファイル 2016」の表紙

装丁をした本の巻頭対談で、好きに相手を選んでいいと言われたので、装丁家の祖父江慎さんにお願いしたんです。祖父江さんが言っていたのは、「表紙でわかりすぎてはいけない」ということ。広告ってパッと見てわかりやすいものがいいとされるんですけど、小説などの装丁は、中身がわかってしまうことが必ずしも良いことではない。そういうことを初めて知って、自分のデザインに取り込んでいきたいと思いました。

それから、装丁の仕事で改めて感じたのは、持った時の重みです。今は紙のポスターを作っても、それが、PCやスマホで見られることが多いじゃないですか。それを前提にデザインしていました。だから、かえって本のように重みがあって立体感があるものは新鮮で、プロダクトをデザインしている感覚で、いろんな所に置いてみたり、いろんな角度から見て作りました。

── 新聞もまさにその印刷“物”ですが、新聞広告にはどんなイメージを持っていますか。

新聞広告は実はまだちゃんと作ったことがないので深く考えたことはないですけど(笑)、新聞をパッと開いたとき、120°から160°の視野が新聞に覆われますよね。そういうメディアはあんまりないと思うんです。そこにでっかいビジュアルがボーンとあったら、一つの世界観を作りやすいメディアなのかなと思いますね。

新聞広告というと、ふつう読ませようとする。だから、文字もいっぱい書いてある。それよりも、新聞広告はページの中にあるから、どちらかというとこう開いたときに「出会ったその瞬間」みたいなのを演出するほうがいいと思いますね。朝、ちょっと眠いな〜と思いながら新聞を開いたら、「おおっ、壮大なビジュアルが!」みたいな感じだったら目が覚めるかもしれない。

── 矢後さんの広告の作り方、発想のプロセスを聞かせてもらえますか。

わかりやすいと思うのでラフォーレのグランバザールの広告を例に説明すると、オリエンは、インパクトが強いもの。それから、ラフォーレらしいユーモアを入れたいということくらいだったんです。それで、過去のラフォーレの広告っぽくない、すごくシンプルでスコンとしてるやつにしようということが、まず考えたことです。

実は、ラフォーレの広告は何人かのデザイナーとの競合プレゼンでした。プレゼンの前日に、ビジュアルを作っていて、会社の壁にラフを貼って作業していたら会社の先輩に、「矢後、これじゃ競合は勝てないぞ。競合で勝つにはコンセプトだ。カンプのビジュアルで勝っても、じゃこの画を作ってくれになってしまう。そうすると、その後のブラッシュアップができない」みたいなことを言われたんです。コンセプトさえしっかり握っていれば、それを軸にその後いくらでもブラッシュアップしていくことができるんですね。

それで夜中ずっと考え続けて思いついたのが、「ラインを越える」というコンセプトでした。僕らもそうですけど、今の若者って貯金世代なんです。欲望があまりない。それに対して、バザーはまさに欲望そのもの。そこに踏み込んでいく気持ち良さがわかる広告にしようと考えたのです。

── ラフォーレの広告がコンセプトを意識するきっかけになった?

そうですね。もちろん、コンセプトという言葉は前から知っていましたが、コンセプトメーキングの重要性を実感したのは、その時です。これ以後、最初にビジュアルは考えないで、まず思ったことを全部言葉で書くようになりました。いまは書きながら、それをビジュアルにして、また文字で書いて、だんだん文字より画の割合が増えていって最後にビジュアルになるという順番ですね。

コンセプトが重要だというのは、ビジュアルを考える時だけではありません。例えば僕らの書いた企画書がいろんな人に回る。そのときに、コンセプトが明確なら、どんな人でも発案者とほぼ同じクオリティーで説明できるということがあります。それから実際に制作する段階でどう撮るかみたいな選択をする際に、コンセプトとしっかりしたラフがあれば、みんながそれを共有しやすい。スタッフ全員が同じ方向に向かいやすいということもあります。

── 矢後さんの今の肩書きはアートディレクター、ですか。

SIXの名刺はアートディレクターになってますけど、どこかにクレジットされるときは、アートディレクター/グラフィックデザイナーと入れてます。

── グラフィックデザイナーにこだわりがあるんですか。

美大出身ということもあって、グラフィックデザイナーは昔からなりたかった職業なんです。仕事もプロダクションにお願いしないで、自分で全部手を動かして作っている。だから自分はグラフィックデザイナーだと思っているし、これからもそうありたいと思っています。

Naonori Yago

1986年生まれ。静岡県出身。09年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、同年博報堂入社。14年国際的な広告賞にて多くの受賞歴がある6人のクリエイティブ・ディレクターによって設立された博報堂のクリエイティブエージェンシー"SIX”に加わる。主な仕事に、ラフォーレ原宿、FINAL HOME、FRANCK MULLERなど。秩父郡長瀞町の観光事業にアートディレクターとして携わる。主な受賞に、ADC賞、D&AD金賞銅賞、NY ADC銅賞、ONE SHOW銅賞、CANNES LIONS銀賞、AD FEST金賞、交通広告グランプリ優秀作品賞など。

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