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特集イラストをめぐる冒険

(Mon Oct 05 10:00:00 JST 2015/2015年10・11月号 特集)

制限の中で拡張するイラストレーション
  イラストレーター   Noritake 氏

Noritake 氏

シンプルなモノクロドローイングで描かれるNoritakeさんのイラストは、独特な空気感とユーモアを感じさせる。雑誌や書籍の表紙だけでなく、広告やファッション、個展や企画展の開催、文具やTシャツなどプロダクト製作も積極的に行っている。様々な場所で出会う親和性をもったイラストを生み出すNoritakeさんの考えるイラストレーションとは何なのだろうか。

──Noritakeさんのイラストが色を使わないドローイングになったのは2008年の企画展「Aurora」からだと聞いていますが、何かきっかけはあったのでしょうか。

  「Aurora」は友人を誘って行った企画展です。みんなで打ち合わせしながら「全員モノクロで描く」というルールを定めて、行いました。そのあと、表参道の「Paul Smith SPACE GALLERY」からお声がけいただき、「Snowball In Your Face」という個展を行いました。この「Aurora」や「Snowball In Your Face」で「色を使わなくてもできる」と、絵がモノクロ中心にまとまりだした気がします。

2008年、塩川いづみ、HIMAA、服部あさ美と行った企画展「Aurora」の作品集

2008年12月、Paul Smith SPACE GALLERYで開催された個展「Snowball In Your Face」展示風景

グッズを自主制作する

──Noritakeさんはノートやトートバッグなどのグッズも自主制作されていますね。

  最初はZINE(注)やポストカード程度は作っていました。ZINEは、日本ではあまり主流ではなかったけど、スイスのNievesが頻繁にZINEをリリースし始めた頃で、自分もやってみようと思った記憶があります。いくつも短期間で作りましたが、たくさん売れるということはありませんでした。売れないので、何か間違ってるんじゃないかとモヤモヤしつつ続けていました。続けていくうちに、もともと一つのテーマで作られた作品や本が好きだったので、それをノートやカードで作ってみれば、面白いのかもと、アイデアを練り始めたのが2010年頃です。それで最初に作ったのが「CLAP YOUR HANDS」という一筆箋。両面に手のひらを描いたメモ帳型で、パラパラめくると拍手しているように見える。手の絵だけしか描いていないのに、ZINEよりも売れたというのは嬉しかったです。たくさん絵が描いてあるから買うのではなくて、「欲しいから買う」「使うから買う」ということを、そこで気づいたというか。すごく当たり前ですけど、作ってる本人は気づかないものです。それが嬉しくて、そこから、しばらくグッズのアイデアばかり考えていましたね。

2010年に制作されたグッズ「CLAP YOUR HANDS」。パラパラとめくると、手のひらのイラストが拍手しているようにみえる一筆箋

2011年10月制作の「THIS IS A PEN」。中学校の英語の授業以外で使う機会のない言葉をサインペンにプリント。ボディは、ぺんてる製のサインペンを使用

注)ZINEは、クリエイターやアーティスト、フォトグラファーといった個人(または団体)が少部数で出版を行う非営利の印刷物のこと。語源はMAGAZINEのZINE、FAN+MAGAZINE→FANZINEからZINEになったなど諸説ある。90年代にアメリカの西海岸を中心に流行し、日本でも関心を持つ人が増えつつある。日本発祥の「同人誌」と意味的に重なる部分がある。

──「THIS IS A PEN」と書かれたサインペンや、表紙に描かれた人が着ている服の柄と同じ無地、方眼、罫線のノートも面白いですよね。

  僕も楽しんで作っているので、そういう気分というのは作ったものにも出ているのかもしれないですね。

──Noritakeさんの作るグッズというのは、キャラクターでグッズを作るという発想ではないと思うのですが。

  そうですね。アイデアで作っていくものと、イラストありきで作るものとあります。アイデアから作っていくものはイラストが必要なければ入れないですし、イラストありきのものも、必要だなと思うものしかグッズにしないようにしています。キャラクターで進めてしまうと、窮屈に感じてしまうので避けている気がします。

──Noritakeさんが自主制作のグッズにこだわる理由はなぜですか。

  グッズは、自分が発表できる一つの媒体のように捉えています。展示には展示の面白さがありますし、広告には広告の面白さがあります。雑誌の表紙であれば、書店やコンビニの店頭で見られます。駅のポスターであれば、何百万人の目に触れる可能性があります。同じようにグッズを作れば、雑貨店さんが興味を持ってくれたらお店に並びます。さらに欲しい人が買ってくれるかもしれません。見る人の数や見方はそれぞれに違いますが、それぞれがどうなっていくのか、多少イメージして、それぞれに関わっています。グッズは、そういう一つの媒体として面白いものだなと思っています。

──その中で、グッズを作る上で面白さというのは?

  何を作るか考えてみたり、作ってみたりするのが面白いです。基本的に個人的な制作物として進めているので、それは依頼されたものと大きく違います、誰にも頼まれていませんから自己完結しています。クライアントに依頼されるグッズ制作というのもありますが、その場合はクライアントが喜んでくれていると良かったなと思いますね。いずれもそのあと、ちゃんと売れたら、なお良いです。

新聞をめくる楽しさを作品化

──新聞社として是非聞きたかったのですが、「NEWSLESS PAPER」という新聞の文字をすべて点と線にした作品を作ってますね。どういう意図があったのでしょう。

2012年9月制作。新聞のすべての要素を点と線に描き換えたニュースのない新聞「NEWSLESS PAPER」

  2012年に蓮沼執太さんと大原大次郎さんと開催した三人展「III(さん)」で発表した作品ですね。ニュースや広告、テレビ欄もない、情報が掲載されていない新聞ってどんな風に見えるんだろうと、以前から気になっていたんです。それで、新聞のレイアウトそのままに、すべての要素を手描きの点と線に描き換えた実物サイズの新聞を8ページ分作ってみました。印刷は新聞社さんにお願いして。
  その前に「YELLOW PAGES」という電話帳を模して、薄く黄色いわら半紙に近い紙でノートを作っているのですが、それと発想は近いです。子供の頃、家にあった電話帳をめくって電話をかけるわけでもないのに、近所のお店を調べたり、変な名前の会社を探してみたりするのが楽しかった記憶があるんです、同時にその時の手触りが忘れられません。新聞もそうで、父親が朝、茶の間で読んでいるのを見て、まねしてペラペラめくるのが楽しかった、実際はテレビ欄しか興味なかったんですけど。あの行為とか手触りとか、その幸せな感覚だけを再現してみたかったんです。
  新聞は輪転機で印刷したので、かなりの部数が印刷されました。展示後、たくさん残ったので、グッズとして今も販売しています。

2011年制作。電話帳を模して作られたノート「YELLOW PAGES」

具体的に抽象的なものを描く

──2011年の「IT IS IT」という個展で「自分がいいと思ったものを見た人が楽しんでいる実感を得た」とおっしゃってますね。その実感というのは、どういうものだったのでしょう。

  「IT IS IT」は、モノをそれだけ描いた展示で、誰が見てもわかりやすいものになりました。「このタッチが面白い」とか「これ、かわいい」とか、来たお客さんが言っていて。単純に感想が言える絵になっていました。以前は、一目見ただけでは何を描いているかわからないものに興味があって、捉えどころがない絵が多かった気がします。そういうものは言葉にするのが難しくて、僕自身もうまく説明できない。見る人はさらにわからないものを見て、言葉が見つかりにくい。今も捉えどころのないというか、具体的に抽象的なものを描くという部分もあるのですが。

──具体的に抽象的なことを描くというのは、どういうことなのですか。

2012年9月、LIQUIDROOMで行われたライブ「蓮沼執太フィル/ジム・オルークとレッドゼツリン」のフライヤーのために描きおろしたイラスト「PULL」

  2012年に蓮沼執太さんとジム・オルークさんの対バンライブのフライヤーを制作しました。最初は「対バン=対決する、ケンカみたいだな」と、胸ぐらをつかみ合うアイデアから練り始めて。そのままケンカを表すと乱暴な絵になってしまったから、徐々に互いの攻撃を弱めた絵にしたり、技を掛け合うみたいなラフをいくつも制作しました。最終的に、服の裾を引っ張り合う、なんともいえない関係のイラストに落ち着きました。この仕上がりが、具体的に抽象的だという気がします。

──絵がシンプルだからといって、単純化とは違うんですね。

  単純に線が少ない方向に向かっているところはあります。2013年に楕円と三本線のみでパンの絵を描いて、それをTシャツやトートバッグにしました。
  その後、今年の春にパンを題材にした展覧会「PAN」を行いました。立体作品など、いろんな要素を盛り込んだ展覧会です。「PAN」のメーンビジュアルは楕円のみを描きました。前に描いた三本線入りのパンの印象が残っていた人もいただろうし、展示を見て認識したり、タイトルとひも付けて見ていた人もいるかもしれません。楕円だけなのに、多くの人にパンと認識してもらえた印象です。それは、ただ単純にしたから良かったということでもない気がします。目的は単純化することではないですし、いろいろな要素がそれぞれに作用して「PAN」に至ったのだと思います。

(右)2013年10月制作、冊子「坂手17の店」で描かれたパンのイラストのTシャツ。(左)2015年3月、南青山・AT THE CORNER by ARTS & SCIENCEでの展示「PAN」のTシャツ

一生懸命をみせない生き方を学ぶ

──Noritakeさんのイラストが好きな人は、どう思われてるのでしょうか。

  それは、わかりませんね。単純に「面白い」「かわいい」と思ってくれているのかもしれないし、一つでも複数でも、あんまり考えないで、そのものを楽しんでもらえていたら良いですね。

──Noritakeさんの、ものの見方というのは、どうやって培われたものなのでしょうか。

  美術学校のセツ・モードセミナーで2年半学んだのですが、そこで人の自然な佇まい、振る舞いみたいなものを、先生や友人と関わる中で教えてもらった気がします。絵の描き方ではなく、人との関わり方みたいな部分です。ゆったりと穏やかに、やることは個人的にしっかりやっているけど、それを強く主張しないとか。とはいえ、そういうところは、卒業してから徐々に実感してきた感じですが。
  それまでは真逆だった気がします。一生懸命頑張って「巨人の星」みたいに描くこと、それを人に言うのが正しいと思っていました。東京に行くぞって気合も入ってましたし。やってるぞって示していないとダメみたいな。実際、頑張っていたとしても、それは裏でやっていればよくて、見る人や接する人には、あんまり関係ないというか。そのあと、働いた本屋のユトレヒトでもセツと同じような経験をさせてもらった気がします。成果を出していれば、信頼してもらえるし、事実だけを説明すれば良いとか、余計なことはしないとか。ユトレヒトでは各国からたくさん本が届くのですが、それらに触れさせてもらって、一部の書評も任されていたので、その本をなぜ良いと思ったか文字にしないといけないから、なるべく冷静に見定める感覚は育ててもらった気がします。

──Noritakeさんがイラストを始めるきっかけは何だったのでしょうか。

  小さい頃から絵は描いていましたが、20歳で上京して、新聞配達をしながら、セツに通っていました。新聞配達は、朝と夕方の配達と集金をしていたので、生活に困らない程度のお給料をいただいて、セツに通えました。当たり前だけど、新聞配達は時間の制約はあるし、仕事に黙々と取り組まないと終わらない。で、一方のセツのゆとりに心地良さを感じていたと思いますね。

──2000年くらいのイラストってどんな印象ですか。

  1990年代後半くらいから、アート作品としても捉えられるペインティングっぽいイラストが出てきて、実際、画家に転身された方も多くて。それが業界全体を捉えた話ではなくて、あくまで僕個人の狭い視野では当時、イラストレーターの理想はそこなんだと思っていました。

──ヘタウマの方向ということですか?

  ヘタウマではないです、ヘタウマはもう少し前という印象です。僕が気になっていたのは、情緒的な要素が強いものだったり、天才的なものとか。あとヨーロッパの画家などにも興味がありました。自分にはそういう方向で続けていくのは難しいと気づいたのは、さっき話した「IT IS IT」あたりからです。見る人になるべくストレートに伝わる絵を描いていこうと変わりましたから。

2015年7月、書籍『なるほどデザイン/筒井美希』(エムディエヌコーポレーション)のカバー

──どういうことですか。

  最近カバーイラストを描いた「なるほどデザイン」という本があります。人が「なるほど」という顔をしているだけの表紙です。単純に情緒はないですし、普通な印象だと思っています。

──デザイナーからはどういう方向でという話はあったのですか。

  最初は手のイラストを描いてほしいという依頼でした。「『なるほど』とやっている手を描いてください」と言われて。手のままでも良いのだけど、顔のほうが良いという提案をして、「そうだね」となりました。できる限り、相手の意向の少し深いところを目指しているような感覚で、昔の取り組み方とは徐々にですが、確実に変わってきています。

イラストは言葉にならない部分の説明

──「なるほどデザイン」も、変化球っぽく見えるけど直球なんですね。

  変化球ではないです、全然。まず、最初の打ち合わせやメールで、本質みたいなものをつかむための質問をしています。依頼されたものは何が言いたいのか、なぜそれを頼んでいるのかも含め投げかけて、そこから話し合います。その結果、最初に相談いただいたものとは、半分ぐらいの仕事で、描く内容が変わりますね。

──現実的には、後から変更になることもあると思うのですが。

  ほとんどないですが、後から変更がある時は、自分が理解できてなかったのだと思いますし、別のアイデアが出たら後から提案もします。もともと、モノクロだったり、描けるモチーフや構図にも限りがあるので、必然的に認識のズレは以前よりなくなりました。

──雑多な質問かもしれませんが、昔の絵より今の絵のほうがうまくなっていると感じますか。

  ずっと描いてきたので、うまくなっていてほしいですね。ただ、前に描いた絵でも好きなものはいくつもあります。その絵のいいところから学んで、新しい仕事に活かすことはあります。

──素朴な質問ですが、「イラスト=説明」なのでしょうか。

2015年6月カバン ド ズッカ 南青山、代官山で開催された企画展示「横になる」告知用メーンビジュアル

  「イラスト=説明」でもあると思うんです、説明図じゃなくても。小説の挿絵だと文章の補足ではなくて言葉になっていない広いところだったり、広告のイラストも目立ってることは重要だけど、同時に言葉にならない部分の説明だと思っています。だいたい本当に言いたいことは言葉にならないことが多いから。例えば、「あなたのことが嫌い」って言っても、100%嫌いじゃないし、数値化もできない。さらに嫌いな気持ちはパラレル状態だったりするから。そういう複雑な感覚もイラストで言葉より少し多めに説明することはできると思っていて。ぼんやりとイメージを拡張したものではなくて、ある程度、明確にそういう感覚を捉えたと思えた絵は、好きになることが多いです。それはフォルムかもしれないし、表情かもしれない。とはいえ、ぼんやりとさせておくのも一つの方法だと思います。仕事によって、定まるところは変わりますから一概には言えないですね。

──依頼された仕事で好きな絵が生まれるというのは面白いですね。

  依頼された仕事は自己完結させてくれないというか、それによって、持っている少ない表現が拡張することはよくあります。最初は、知らないものを頼まれているので、それを把握して、自分なりの答えを依頼者と話して見つけていく。それが受けた仕事の面白さの大きな要素です。

──少ない表現が拡張する、というのは直球とカーブしか投げられないから、球質に磨きをかけるみたいなことですか。

  球質に磨きをかけるということだけじゃなくて、どこに投げるかみたいなことも含まれると思います、ここに投げても大丈夫なんだ、とか。イラストといっても、国内外にいろんなイラストレーターがいますし、過去にも素晴らしいイラストレーターがいます。たとえるなら、いろんなピッチャーがいるから安定して投げられる投手になりたいとかですかね、なんだかよく分からなくなってきました、野球じゃないので。
  これからも続けていく仕事ですし、興味は尽きません。できることは限られていますが、新しいことにも積極的に関わって、技術や考えが、自然と磨かれていけばいいなと思います。だから、依頼をいただいた仕事には、これからも前向きに関わっていきたいです。

Noritake

イラストレーター。広告、書籍、雑誌、ファッションなどを中心に活動。2015年は、雑誌BRUTUS、Tarzan、The Forecastなどのカバーイラストを担当、企画展「単位展ーあれくらい それくらい どれくらい?」(21_21 DESIGN SIGHT)に参加、 個展「PAN」(AT THE CORNER by ARTS & SCIENCE)、企画展「横になる」(CABANE de ZUCCa MINAMIAOYAMA、CABANE de ZUCCa DAIKANYAMA)を開催。ほか、NHK Eテレ「デザインあ」のコーナー制作に携わる。ネットストア「N store」(nstore.stores.jp)でこれまでに制作したグッズ購入が可能。 www.noritake.org