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広告リポートfrom Europe

(Tue Jul 31 12:15:00 JST 2012/2012年8・9月号 from Europe)

「老年期に輝く」フランス流の価値観
川添泰樹   パリ駐在

  フランスに“C'est dans les vieux pots qu'on fait les meilleures soupes”(最高のスープは、古い鍋で作られる)ということわざがある。年齢を重ね、経験を積んでこそ最良の結果を手に入れられるという、誰にでも訪れる老後の人生を、肯定的に言い表したことばだ。

  日本では、ともすると退職後の男性像を“濡れ落ち葉”や“粗大ごみ”などと揶揄する風潮さえあるが、フランス人の多くは、老後の生活を決してマイナスには捉えていない。人の一生は、学生期、労働期、余暇期の3つに大別され、このうち人生で最も輝きを放つのは、老後生活を表す余暇期であるとされる。勉強や労働の必要がなく、経済的にも年金で保障される生活。余暇に大きな価値を見いだすフランス人にとっては、まさに“La vie en rose”の体現といったところだろう。

  働くことより、老後の余暇に重きをおく価値観は、希望退職年齢にも表れている。公的年金受給開始の目安となる退職年齢が2歳引き上げられ62歳になったことに対して、フランス人の68%が不満を感じ、できる限り60歳で引退して自由な時間を楽しみたいと考えている(全国老齢保険金庫調べ)。逆に、日本では65歳まで働きたいとする人が4割強、70歳までとする人が3割強いること(内閣府調査)を合わせて考えれば、労働観に対する彼我の差は、これほどまでに大きいのかと思い知らされる。

  しかし、老後の余暇を不安なく過ごすためには、先立つものが不可欠だ。フランスの年金基金はこの7月1日から、退職後の資金準備のために、45歳以上を対象にした無料相談を始めた。退職後に年金を100%受給するための保険料支払いや、将来の資金設計について無料で相談でき、シミュレーションもしてくれる。電話やインターネットでの相談も可能だ。

  祖父母が孫の世話をすることで、“給料”がもらえるという制度もある。祖父母はまず、居住する県への申請を済ませ、健康診断と120時間の研修を受ける。その後、保育ママ(Assistante Maternelle)と認定され資格が交付されたら、息子(娘)夫婦との間で法的な雇用契約を締結。そして孫の世話への報酬として、息子(娘)夫婦から最低賃金を下回らない額の給料を受け取る。息子(娘)夫婦に対しては、上限はあるものの、家族手当金庫から手当が支給されるうえ、費用の半分は税額控除の対象となる。

  これは、少子化克服のための手厚い子育て支援策を持つフランスならではで、息子(娘)世代にとっては安心して働き、自分たちの時間を満喫できるばかりか、祖父母世代の潜在的な労働力を有効に活用できる仕組みとなっている。何より、身内に子供を預けられるという息子(娘)世代の安心感と、誰かの役に立っているという親世代の充実感も大きいだろう。

  フランスでは、第2次大戦後のベビーブーム世代の退職が2006年から始まり、これが2025年頃まで続くとされている。1968年5月革命を学生期として過ごした「68年世代」(soixante-huitard)を世代の筆頭として、政治、経済、文化など社会の各方面において大きな影響を及ぼしているのは、日本と似た現象だ。購買力が非常に旺盛なことも、ベビーブーマーの大きな特徴である。

  旅行や趣味などにお金をかけて大いに余暇を謳歌する彼らは、自分たちの生活を精一杯楽しむこと、すなわち物やサービスに対して購買力を発揮することで、“古い鍋で作られた最高のスープ”を、社会に振る舞おうとしているのかもしれない。