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インタビューキーパーソン

(Fri Feb 05 10:00:00 JST 2016 /2016年2・3月号 リーディング・トレンド)

今回のテーマ 「教育投資」
〜早期教育に注目、将来を見越した情報共有を〜

田中隆一 氏
東京大学社会科学研究所   准教授

田中隆一 氏

子供の教育費を「投資」と見て、いかにリターンを得て投資効果を高めるかという経済学の観点から、教育投資に注目が集まり、さらには教育そのものをとらえ直す動きも広がってきた。子供への教育投資をどう見るか。この分野に詳しい東京大学社会科学研究所の田中隆一准教授に聞いた。

教育投資の具体的イメージは?

  教育の効果を判断する上で、子供一人ひとりの将来性や生きる力を見極めるのは難しいので、研究者としてはデータという形でエビデンスを見ることになります。経済学的な分析の代表的なものとして、収益率で見るという考え方があります。教育の収益率については、労働経済学の分野で数多くの研究がなされています。
  教育の収益率は、「もう一年学校に通う期間を長くすると、将来の労働所得が何%増えるか」というもので、日本ではおおむね7%から10%程度になっています。教育投資はその成果が見えるまでに長期間かかるため、個人の観点では大きなリスクを伴うように見えますが、現在の銀行預金金利よりかなり高いという意味では平均的には有望な投資先と言えるかもしれません。
  また、教育投資の収益率は、就学前など子供の年齢が低いほど高くなるという実証分析の結果もあります。
  子供の教育に投資をすると、将来役に立つ技能が形成され、その結果として子供の将来所得が上がると見ることができます。この技能は「人的資本」と呼ばれるものです。つまり、教育に投資をすることによって人的資本が形成され、将来の労働所得が上がるという考え方です。

教育投資を効率的にする観点は?

  ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン・米シカゴ大学教授が述べていますが、教育の効果は、それまでどれだけ学んできたかによっても変わります。同じことを同じように教えても、これまでの学びによって、個々に理解度、効果が変わってくるのです。理解度の差は子供の成長とともにますます広がります。一方で就学前の幼児教育段階では、理解度の差が大きくはありません。幼児教育は、収益率が高いとともに、政策面での公平性も確保できます。効率性、公平性の面から、幼児期の就学前教育がより一層重視されてくるでしょう。

産業の変化に対応できる人材とは?

  過去日本では、工場でモノを大量生産するビジネスモデルが中心で、そこでは労働者の数が重要でした。特に、一つのモノを作るために多くの人々が長い生産ロットに携わる量産構造では、高い生産性のためには労働者の粒をそろえる必要があり、飛び抜けて優れた人がいることはさほど求められなかったと考えられます。
  しかし現在は、これまでになかった新しいモノを生み出すイノベーションが産業ではとても大きなカギを握っています。こうした社会では、さまざまな新しい価値を創造する技能が肝心です。丁寧な教育を受けた専門性を持つ人が経済全体のパフォーマンスに影響を与える場合もあります。また、幅広い観点から専門的に持っている技能をどこに位置づけるか、周囲とのつながりを見渡す能力が必要であり、そのためには教養やコミュニケーション能力が重要になってきます。
  電車や自動車などの乗り物が自動運転化されつつあるように、技術工学の発展度合いから、さまざまな仕事が自動化される可能性もあるでしょう。そうなった場合にも、マシンでは代替できない能力を養うことが必要です。

教育投資のリスク回避は?

  教育投資は一人ひとりに対して行う性格上、個人でのリスクヘッジが難しいので、技術や時代の流れについて見通しを持つことが大切です。このためには小学校など早い段階から、先を見越した情報を子供に伝えることも重要でしょう。20年後、30年後も使うことができる技能をどう身につけていくか。今後の技術の発展を見ていくことも大切といえます。
  さらに、将来どうなるかはわからないけれども、新しい環境に対し柔軟性を持って対応できる能力を高める教育もより一層求められるようになるでしょう。昨今、経済・社会が成熟化し、与えられたものをこなすだけではますます太刀打ちできない状況になっています。与えられたものをこなしながら、今まで想定していなかった事態が起きた時に対応できることが最も重要な技能になるでしょう。

マーケット開拓に向けては?

  教育は、情報のやりとりをするマーケットという観点からとらえることもできます。消費者の立場にいる子供たちや保護者のニーズをつかみ、それに対応していく必要があるわけです。
  学校の先生方は、子供たちと接するなかで彼らの特性や問題・課題を把握し、それを解決する教育者としての手法を個人レベルで多く持っています。大切なのは、その情報を個人や教師間、学校内だけで保持するのではなく、匿名データとして共有化・分析し、教育現場にフィードバックすることです。そうすることで、学校現場での労働負担の軽減や、教師にしかできない仕事への専念などを通じて、教育の質を高めることができるのではないでしょうか。
  日本では多くの産業分野でIT化が遅れ、労働生産性の面で改善の余地がありますが、教育に関しても、日々の活動を通して得られた情報を可能な限り共有化し、ビッグデータとして活用する時代が到来しています。学術関係者や民間企業の新たな知恵や力を取り込むことが、教育分野での新たなマーケット創出にもつながるのではないでしょうか。

Ryuichi Tanaka

1996年、東京大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修士課程修了。ニューヨーク大学大学院経済学研究科博士課程修了(Ph.D.)。専門分野は労働経済学、応用計量経済学。大阪大学大学院経済学研究科特任研究員、同社会経済研究所講師、東京工業大学大学院情報理工学研究科准教授、政策研究大学院大学准教授を経て現職。著書に『計量経済学の第一歩 実証分析のススメ』(有斐閣ストゥディア)。

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