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コラムマーケボン

(Fri Aug 05 10:00:00 JST 2016/2016年8・9月号 マーケボン)

チームを動かす
『偉大な指揮者に学ぶ 無知のリーダーシップ』(イタイ・タルガム著・日経BP社) 平塚元明 マーケティングプランナー

  広告会社の仕事が年々複雑さを増しているということなのだろう、最近いただいた名刺を見ても、業務のどのあたりを担当している人なのか、すぐにはちょっと見当がつかない……ということが増えてきた。

  営業、マーケ、制作、SP、PR、媒体、昔はだいたいこれで現場の用は足りていたが、このところ新しい肩書がどんどん登場していて、中には名刺交換の後、ひとしきり解説をきいてもよく理解できないものもあって、いろいろと面食らう。

  プレゼンにのぞむチームも、肩書の増加に伴って以前よりも頭数が増す。案件によっては、広めの会議室が満杯の定員超過、オイ新人、隣の会議室から椅子をとってこい、となる。仕事が複雑になって様々な専門スタッフが必要だ、という事情はわかるが、これがなかなか難しい。この大人数を仕切って、チームとしての真価を発揮せしめるのは実に容易なことではないのだ。

  アカウント・ディレクターでも、クリエイティブ・ディレクターでも、マーケティング・ディレクターでも、はたまた新しい肩書のナントカ・ディレクターでも、チームをまとめあげていく役を担うのは誰でもよいが、そこで要求されるリーダーシップの型は、これまでの時代と大なり小なり異なるものになっていくのだろう。例えば、職人たちを束ねる「親方」的なリーダーシップ。従来の強い同質性を持った小所帯を率いるにはよく適合していたが、今日的な編成の大所帯を駆動させるにはどうか。

  しかしまあ、だからといって、ビジネス書売場でリーダー論を……というのも何か違う。偉人や成功者の逸話が満載で、それらから成功則のようなものを漠然と帰納した本。書店でその手の本をレジにもっていく人を見かけるが、失礼ながらだいたいがパッとしない。そんなの大真面目に読んでるからダメなのだ。自分の近くにいる才を見出せず、本に書いてある遠くのことにばかりに感心しているような人。「お、これは使える」と、いきなりジョブズの真似されてもねぇ。それじゃチームは動きません。

  今回の推薦書は『偉大な指揮者に学ぶ 無知のリーダーシップ』(イタイ・タルガム著)。著者は、世界の著名オーケストラと共演するプロの指揮者で、師匠のレナード・バーンスタインをはじめ、リッカルド・ムーティ、アルトゥーロ・トスカニーニ、リヒャルト・シュトラウス、カルロス・クライバー、ヘルベルト・フォン・カラヤンといった錚々(そうそう)たる巨匠たちの指揮の特徴を分析して、それぞれのリーダーシップ観を分析している。

  この本の長所は、表層的な真似ができないところ。指揮者がオーケストラをまとめあげて音楽を響かせる、というプロセスは極めて専門性の高い領域であるがゆえに、そのままでは当然ながら「使え」ない。自分にも真似できそうな逸話を拾うための本ではなく、巨匠たちの指揮をある視点から眺めることを教わるうちに、その視点を通じて自分の近くで発揮されている良質のリーダーシップとその才を見出す力(あるいは自分自身のリーダーシップ観)が涵養(かんよう)される、そんな本だ。大切なのは逸話ではなく、視点なのだ。

  この本の短所をあげるとすれば、言及されている指揮者たちの姿、オーケストラ団員の様子がイメージしにくいこと(残念ながら図版は皆無だ)、そして何より奏でられる音楽が聴こえてこないこと。クラシック音楽に詳しくない人には相当ツライ。そこでおすすめしたいのが、この著者がTEDカンファレンスで講演した際の動画。ネットで検索すると無料公開されているのがすぐに見つかるはず。巨匠たちの演奏シーンを上映しながらの講演で、会場の笑いがたえない楽しいプレゼンだ。これを見てから、本書を読むといい。

イメージフォト

指揮者には変わった人が多く、とんでもない逸話が山とある。絶版だけれど『巨匠神話』(ノーマン・レブレヒト著・文藝春秋)はその方面に興味のある人の必読書。人間の質と音楽の質には全く相関がないということがよくわかる。広告屋のリーダー論としてはむしろこっち?(笑)

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

〔筆者プロフィル〕

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22

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