Creativeが生まれる場所

2010.2・3/vol.12-No.11・12

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疾病啓発キャンペーンに ユーモアと親しみを

マッキャンエリクソン 制作局 シニア クリエイティブ ディレクター 溝口俊哉氏

早稲田大学法学部卒業、コピーライターとしてマッキャンエリクソンに入社。以来、制作本部で多数のクリエイティブを生み、1995年クリエイティブディレクターとなる。2007年に万有製薬のAGA、NECのエコノヒで日本広告業協会のクリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストを受賞。

 爆笑問題をキャラクターに、ユーモアと親しみやすさを感じさせるAGA(エージーエー)キャンペーンが今年で5年目を迎える。AGAとは男性型脱毛症、成人男性によくみられる額の生え際や頭頂部の髪が薄くなる状態のことだ。その治療薬は医師の処方が必要なため、薬事法や医療法の制約で、広告では「こういう症状は医者に行って治療できます」ということしか言えない。制約の多い疾病啓発キャンペーンに、クリエイターはどう取り組み、広告表現として定着させているのだろうか。AGAキャンペーンのクリエイティブディレクターを担当しているのが溝口俊哉氏だ。

──疾病啓発キャンペーンは制約が多いと思うのですが。

 法律で規制されているので薬自体の広告はできないなど、難しい面はあります。それだけでなく、そもそも男性型脱毛症を何と呼ぶのかという問題もありました。そこで医学名のアンドロジェネティック・アロペシアを、AGAと略称化してデリケートなニュアンスを排除し、一般化して広めようという戦略を採りました。だからED(性機能不全)と同じ考え方ですね。

──ターゲットは、どういう層なのでしょうか。

 40代から50代の方が多いようですが、最近は30代の患者さんも増えてきたようです。日本人男性全体では、800万人がうす毛を気にしていて、そのうち650万人がAGAに対して何らかの対処をしていると言われています。この650万人がターゲットです。うす毛対策には、ヘアケアや植毛、カツラといろいろありますが、ある程度深刻に悩んでいる人でないと病院のハードルはやはり高いんですね。

マス広告が安心感を生む

──メディアの使い方も、通常のキャンペーンとは違うのでしょうか。
キャンペーンサイト「AGAーnews」
キャンペーンサイト「AGAーnews」
http://www.aga-news.jp

 新聞広告、テレビCM、雑誌、交通広告、ウェブのバナー広告と、ラジオ以外のメディアはほぼ使っています。その目的は、キャンペーンサイトである「AGAーnews」に来てもらうことです。サイトには、医師や患者のインタビュー、病院検索などが載っています。最近は、ウェブが少しわかっている人なら詳しい情報は自分で探しますから、まず、サイトに来てもらうことが大事なんです。

──広告の目的はサイト誘導にある?

 仕組みとしてはウェブが基本にあるのですが、このキャンペーンでは、マス広告はウェブへの誘導だけでなく、安心感を作るという重要な役割も担っています。広告ではどんな治療をするか一切書けないので、AGAの治療を民間療法か何かだと思っている人もまだいます。新聞などに広告を恒常的に出していくことは、そうした人たちに対して信頼感や安心感を与えることにもつながるんですね。
 また、基本は行動変容を起こしてもらうキャンペーンです。これまで育毛剤などいろいろな方法を試してきた人たちの中に、ほかの方法はないかと探している人たちがいます。そういう人たちに気づきのきっかけを与えることも広告の役割です。そのため広告の出稿時期も、単に定期的にということではなく、そういう人たちが関心を持ちやすい時期を狙っています。例えば、挨拶回りの多い年末年始や会社に新人も入って気分も変わる3、4月、夏場になって髪が脂っぽくなる時期に広告を打つと、サイトのアクセスは確実に上がるんですね。

治療を共通の価値観に

──広告には爆笑問題を使っていますね。

 爆笑問題の起用は2007年からです。キャンペーンを広めるスピードにドライブをかけることが目的でした。お笑いですが信頼感もあって、ぴったりのキャラクターなんです。2008年までは太田光さんが主婦に扮した夫婦篇でしたが、2009年からはドクター篇に変え、ほかのうす毛対策との一番の違いをより強調するようにしています。

──広告のデザインもすっきりしたものが多いですが。

 お医者さん的なトーン&マナーを最初から意識して作っています。疾病啓発というとリアルなビジュアルで不安を煽ってというアプローチもありますが、そういう恐怖訴求はやりたくなかったんですね。「うす毛になりそうになったら、お医者さんに行って治療する」という考え方をパブリックなもの、みんなの共通の価値観にしたいと最初から考えていました。それをポジティブに気づかせて、行動を変えていくのが狙いでした。そのため、キャンペーンの浸透に時間がかかったり、メッセージの歯切れも悪くはなるということがあるのですが、それは最初から覚悟していました。

2009年4月4日 朝刊
2009年4月4日 朝刊

2009年7月26日 朝刊
2009年7月26日 朝刊
──共通の価値観にするためのコミュニケーションというのは?

 恐怖訴求をやったからといって、AGAは命にかかわる疾病ではないですから、すぐに医者に行くというものでもないと思います。そこが、このキャンペーンのむずかしさです。
 例えば、昨年の新聞広告でも、うす毛の進行過程をアイコン化して表現していますが、これを実際の症状の写真にしたら、広告としていかがわしいものになるし、コミュニケーションとしても、ものすごく寂しいものになってしまいます。それだと、誰もが共感する共通の価値観になっていかない。そこに、ユーモアや親しみやすさがないといけないと思うんですね。
 また、実際に病院に行くとなると、決断までに時間がかかる。キャンペーンサイトを見て、すぐ病院へ行く人はあまりいないとみています。サイトで病院検索したら、近くに病院があった、しかし、その場はそれで終わってしまって、しばらくたって、例えば友だちから「飲み薬、飲んでるんだよ」という話をチラッと聞いたり、奥さんが広告を見て話題にしたりとか、何かきっかけがあって病院に行く人が多いと思うのです。
 そういう意味合いもあって、AGAキャンペーンはふつうの商品のブランディングとは少々異なりますが、発想はそれに似た立ち位置で、飽きられず、長く続くものになるよう心掛けています。最近は継続的な広告キャンペーンが少なくなりましたが、短いスパンの広告ばかりでは、世の中寂しいと思うんですね。

2009年12月30日 朝刊
2009年12月30日 朝刊

シニアクリエイティブディレクター:溝口俊哉 クリエイティブディレクター:中村猪佐武 プランナー:天田武史 コピーライター:中村猪佐武/天田武史 アートディレクター:長井崇行

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