Creativeが生まれる場所

2008.9/vol.11-No.6


読者に“一拍”置かせる広告らしくない空間

平山浩司氏/磯島拓矢氏

平山:1963年生まれ。一橋大学卒業後、電通入社。NTTコミュニケーションズ、サッポロビールなどの広告制作を担当。NYフェスティバル金賞など受賞歴多数。
磯島:1967年生まれ。一橋大学卒業後、電通入社。J-WAVE、日立製作所、ソニーなどの広告制作を担当。TCC賞、ACC賞など受賞歴多数。

 今年のTCC賞、ADC賞など、様々な広告賞を獲得し、大きな話題となっているのが、旭化成グループが昨年8月から展開している企業広告「昨日まで世界になかったものを。」だ。臨場感あふれる力強い写真と語りすぎないコピーで地球規模のシリアスな問いを発する全30段と、それに答える旭化成の技術力を訴求する全15段をページ送りにした計45段の大胆な紙面使いが高い評価につながっている。
 このキャンペーンの考え方や、新聞広告の表現について、クリエーティブディレクターの平山、コピーライターの磯島両氏に話を聞いた。

──このキャンペーンが生まれた経緯は?

 平山 97年から昨年まで展開されていた旭化成グループの「イヒ!」は、およそ10年という長いスパンで展開されたキャンペーンでした。電通のブランドイメージ調査によると、このキャンペーンによって確かに旭化成の企業認知率は上がり、一般の人は親しみを感じてくれたようです。しかしその一方で、肝心の「旭化成という企業はどういう内容の仕事をどのレベルでやっているのか」ということが、見えにくくなっていたことが課題になったんです。
 新しいキャンペーンを担当するにあたり、通常の制作作業としては珍しいことなのですが、4か月もの時間をかけて工場や研究所を取材しました。その中で、わかってきたことが二つあったんです。一つは、どの工場に行ってもマスコットキャラクターの「イヒ!」人形があるということ。どの工場の方も、「イヒ!」は分かりやすくて良かったとおっしゃって、それはそれですごくプレッシャーになりました(笑)。それともう一つは、リチウム電池を世界に先駆けて開発するなど、日本の産業の要になるような技術を多く持っていることです。
 これらの優れた技術を目の当たりにして、企業の実情と世の中が抱いている旭化成へのイメージにギャップがあると感じたんですね。では、企業の先進性を伝えるためにどういう表現にするべきか。直感的には硬派なものにすべきだという感覚はありましたが、成功した「イヒ!」キャンペーンの後ということもあり、なかなかそれに踏み切ることができませんでした。
 しかし、あるブランドイメージ調査を見ていて、「先進性や創造性」と「親和性」の二つはトレードオフの関係にあるということを知り、この方向でいいと確信しました。つまり「親和性」を追求していくと、「先進性や創造性」のポイントが下がっていくということがわかってきたんですね。
 旭化成グループは、石油化学製品や電子部品・材料、医療・医薬、そして住宅・建材事業を核とした基本的にはB to B中心のものづくりをする企業です。一般の人に必要以上に親しみを持ってもらうよりも、「高い技術力で高付加価値なものを提供できる企業」というイメージをもってもらうことが重要だと考えたんですね。

堂々とシンプルに伝える

──新聞広告では30段と15段のページ送りと、思い切った紙面使いをしていますね。

 平山 広告の表現自体はオーソドックスなものです。制作段階ではデザインフォーマットをもう少し際立たせた方がいいかもしれないなど、いろいろなことが頭をよぎりましたが、一番堂々と見えて、獲得したい企業イメージを伝えるには、シンプルに伝えることが重要だと考え、このスタイルにしました。
 ただ、こういった硬派なものは目立ちにくいので、読者の目に留まるような工夫の必要性は感じていたんです。そこで計45段のページ送りを提案したんですね。それと広告の導入に30段を使った大きな理由は、この広告を「広告らしく見せない」という狙いがあったからなんです。

──どういうことですか。

 平山 僕たちが広告の世界に入ってから先輩に言われたのが、「広告は誰も見たくないという前提に立って考えなさい」ということです。商品広告なら、まだ自分の役に立つかもしれないと思って読者や視聴者は関心を示すかもしれません。しかし、企業広告はそうではありません。投資家は別として、自分や親戚が勤めたりしていない限り目を留めないと思うんです。
 そこで30段の大きなスペースに、力強いビジュアルと少し意味深なコピーで構成した、ある種「広告らしくない」空間を作ることで、読者に一拍置くような感覚を持ってもらい、この企業広告に注目してもらおうと考えました。最近では新聞のトップ記事に環境問題が出ていますが、そういう記事を読むテンションの高さで、この広告と出会ってくれれば、それはみんなが読みたくなると思ったんですね。

──30段では「問題」とありますが、15段の紙面では「解答」とは入れていませんね。

 平山 環境の問題は、旭化成1社だけではなく、多くの企業、あるいは社会全体が取り組まなければ好転しない大きな問題です。おそらく、そこに「解答」というコピーを入れたら、どことなく傲慢なニュアンスが出たと思うんです。
 磯島 コピーは世の中にあるいろいろな答えの中の一つであり、「旭化成の出した解答はコレです」というニュアンスなんですね。

チラシでもポスターでもなく

──キャンペーンは新聞広告中心の展開ですが、どのようなメディアだと思っていますか。

 磯島 新聞は買って読むものですよね。それは重要なことで、その中に載っている広告がみんなチラシみたいだったら寂しい気がするんです。新聞に見応えのあるいい広告が入っていると、とても素敵な人に出会えた気がする。逆に、広告もある一定のクオリティーを保たなければ、新聞というメディアはどんどん痩せていく。新聞広告も新聞の一部として考えないといけないと思うんです。
 ちょっと前までは、テレビCMで伝え切れないことを新聞で伝えるという考え方が基本としてありましたが、今はウェブが台頭してきて、前とは状況が違ってきている。テレビに対して新聞自らが規定した「説明媒体」という立ち位置は、もう一回考え直さないといけませんね。

──広告は目立てばいいという意見もありますが……。

 平山 広告はまず見られなければいけない、注目してもらわなければいけないというのはもっともだと思います。ただ、この議論はそこで終わってしまっていて、「じゃあ、目立ったものなら、どう見られてもいいのか」というところまではあまり議論されない。旭化成の30段は、「AsahiKASEI」というロゴがなければ、どこの広告だかわからない。でも、この“一拍”置かせるスペースがなければ、この広告は成立しない。今の新聞広告は、チラシとポスターの両極になっている気がします。その間がボコッと空いてしまっている。そういう新聞広告の表現を、どんな形でもいいから少し崩していかなくてはいけないと思っています。

7月7日 朝刊 20-21面
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