Creativeが生まれる場所 2008.3/vol.10-No.12

年賀状の価値を見直す利用促進キャンペーン
代表取締役社長/クリエイティブディレクター 永井 一史氏
1961年生まれ。85年多摩美術大学卒業後、博報堂に入社。アートディレクター、シニアクリエイティブディレクターを歴任。2003年にHAKUHODO DESIGNを設立し、代表取締役社長に就任。サントリー「伊右衛門」、資生堂「企業広告」などを担当。04年クリエイター・オブ・ザ・イヤー、05年ADCグランプリなど受賞歴多数。
 昨年10月1日、日本郵政公社は、日本郵政グループとして スタートした。民営化に先立ち9月18日から始まったキャンペーンは、郵便局を背景に日本各地の暮らしを切り取ったようなビ ジュアルで展開された。また、10月下旬からは、音楽家の坂本龍一氏をはじめとした各界の著名人や芸能人をさりげなく起用した日本郵便の年賀状の利用促進キャンペーンも展開された。
 一連のキャンペーンの考え方、そしてキャンペーンにおける新聞広告の役割についてHAKUHODO DESIGNの代表取締役社長であり、クリエイティブディレクターの永井氏に話を聞いた。


──郵政民営化、年賀キャンペーンと立て続けに大きなキャンペーンを担当されて、いかがでしたか。
 とても大変な仕事でしたね(笑)。日本郵政グループという従業員24万人、郵便局数2万4000という大きな組織のキャンペーンで、制作物もかなりの量でした。また撮影スケジュールもタイトで肉体的には相当きつかったですね。
 ただ、クライアントとの意思疎通は非常にスムーズでした。クライアントの意志がはっきりされていて、しかもその最終決定者と直接やりとりできたのが非常によかったですね。

リアルな空気を伝える

──民営化の「ひとりを愛せる日本へ。」キャンペーンの考え方ですが……。
 このキャンペーンではコピーが先に決定していました。この「ひとりを愛せる日本へ。」という言葉はスケール感のあるメッセージですし、新しい日本郵政グループの姿勢そのものだと思うんです。しかし、ともすると抽象的に受け取られかねない。どういうビジュアルならば、このコピーの世界観を具体的に伝えられるかを考えた時に、やはり主役は全国の2万4000の郵便局、そして郵便局が支える全国で暮らす人々だと思ったんです。そこで、その土地土地で暮らすさまざまな人々を切り取ったようなビジュアルにしようと思ったんですね。
 全国をいくつかのブロックに分けて、撮影に行ったんですが、この撮影で最も重視したことは、リアリティーです。つまりその土地で暮らす人々に広告に登場してもらうということです。カメラマンの上田義彦さんも、その点に強いこだわりを持っていました。撮影の効率から言えば、ある程度仕込みをしたり、事前にオーディションをすることなども考えられますが、それはしたくなかったんです。
 最初の打ち合わせでは、ロケ地で地元の人に声を掛けて、広告写真の説明をしてから、撮影しようという話だったんです。しかし実際は先に撮影をして、その後に説明をして掲載許可をとっていく方法をとりました。
 役者ならともかく、一般の人に説明をしてから撮影すると、振る舞いや佇まいが不自然でリアリティーのないものになってしまうんですね。
 
伝統習慣を再価値化する

──年賀キャンペーンの目的は、利用促進ですか?
 確かにそういう面もありますが、単に「年賀状を出しましょう」というものにはしていません。
 日本郵便の年賀キャンペーンは10月下旬から始まったんですが、日本郵政グループの理念である「ひとりを愛せる日本へ。」という大きなフレームから外れることがないように意識しました。
 10月1日までは日本郵政グループ全体でしたが、それ以降は、郵政グループの四つの各事業会社、つまり日本郵便、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命がそれぞれキャンペーンをスタートしました。
 例えばかんぽ生命が“保険を簡単にする”ことだったり、郵便局が“行きたくなるような場所にする”というもので、各会社が世の中に対する「約束」を宣言したものだったのです。日本郵便の年賀キャンペーンも、その取り組みの一環として位置づけ、単なる利用勧奨ではなく、“年賀状の本来の価値を見直す”ことを主眼に展開しました。

──年賀状の価値とは?
 今の時代、人のことを思って手で何かを書くという習慣が廃れていますよね。年賀状の起源は、平安時代までさかのぼるらしいんですが、この大切な日本の伝統的な文化を改めて見直すことを訴えたかったんです。

──キャンペーンでは、のぼりもデザインされていますね。
 のぼりだけではなく、ポケットティッシュもデザインしました。実はキャンペーンで一番最初に手掛けたのがポケットティッシュなんです。配布数を聞いてびっくりしたんですが、3500万個も作る。ポケットティッシュ自体は小さなものですが、これだけの数となれば、これは大きなメディアですから、かなり気合を入れてデザインしました。

──民営化の広告とは違い、年賀はがきの広告では、そうそうたる顔ぶれのタレントが起用されていますね。
 単なるイメージ訴求ではなく、実際に年賀状を書いて送るというアクションまで導かなくてはいけないので、ここでは一般の人ではなく、多くの人の関心を引くタレントの強さが必要でした。ただし、ただのタレント広告ではなく、一個人として、ある種普通の人々の代表という空気感を出そうと意識しましたね。

 ──年明けの1月3日にも、年賀はがきの広告を出稿していますね
 最近では、年末ぎりぎりまで仕事をする会社も多くて、年内中に年賀状を書くのが物理的に難しいという人も多いはずです。「年明け年賀」という考え方を提示することで、書くことへのモチベーションにつなげていきたいと考えたんです。
 それと、正月の広告は、閲読者も時間があるせいか、いつもと違った姿勢で見てもらえる。ですから、この時期の広告出稿というのは非常に有効だと思ったんですね。

メディアの役割を知る

──民営化、年賀はがきの広告とも、今回のキャンペーンでは新聞広告を多く使っていますが。
 もちろん、さまざまなメディアで展開していますが、今回のキャンペーンでは、新聞が極めて重要でした。新しい日本郵政を宣言し、キャンペーンにスケール感を持たせるメディアは新聞しかないと考えました。
 また、10月1日からのテレビCMでは、各事業会社ごとにそれぞれのメッセージを伝えるCMを制作したのですが、新聞広告では四つの事業会社のメッセージを一緒に載せて、一覧性のあるものにしたかったんですね。
 最近思うのは、新聞広告も含めてメディアごとの広告の役割がはっきりしてきたということです。
 インターネットが登場した時、とにかく何でもネットを使ってマス以外のことをやってみることが新しいというとらえられ方をしてしまっていました。しかし、そのブームも落ち着いて、ここ最近の広告には、迷いがなく、各メディアの特性に自覚的なものが増えてきている気がします。
 今後はそこを意識して、それぞれのメディアの役割を十分発揮できる広告を作っていかなくてはいけないと思っています。


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