From Overseas - NewYork 2007.3/vol.9-No.12

M&Aツールとしての新聞広告
 米国で生活していると、電話やメールを通じての金融投資の案内が、オフィス・自宅関係なくひっきりなしにやってくる。少々うるさく感じると共に、個人情報の保護はどうなっているのかと思うこともしばしばである。しかしそれは、この国では一般家庭でも積極的に資産を運用している人が多いことを示している。
 日銀発表の「資金循環の日米比較」(2006年7-9月期)で見ると、日本では資産の51.3%が預貯金に充てられているのに対し米国では13.3%にすぎず、企業の株式・出資金では日本の10.7%に対し米国では30.8%にものぼる。つまり企業にとってIR情報を開示する対象は日本よりも広範囲にわたる、ということである。
 1月24日付ワシントン・ポストに、USエアウェイズのパーカー会長兼CEO名でデルタ航空買収案についての全面広告が出稿された。一般投資家やデルタの債権者委員会、そして掲載当日に行われた上院反トラスト法委員会を対象に、いかに自社のデルタ買収案が正しいかを説明するものである。
 USエアによる「敵対的買収」はデルタ幹部や組合員の頑なな抵抗に遭い、提案額は当初の84億ドルから108億ドルまで増額。USエアは債権者委員会を通し、デルタに買収を受諾するよう訴えており、その援護射撃として広告内で合併後のレイオフを実施しないこと、重複路線の廃止を行わないことをうたった。同時に、一般投資家や利用者の理解も得ようというもくろみである。
 残念ながら、この広告の1週間後にデルタの債権者委員会が合併案を支持しないことを決定、USエアは買収案を撤回した。結果的には広告の効果はなかったともいえるが、文面を通してUSエアの本気度が伝わってきていただけに、パーカー氏もさぞかし落胆したことであろう。
 一方、敵対的買収に抵抗すべく直接一般株主に呼びかけているのが、1月29日付ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されたドラッグストアチェーン・CVSの全面広告である。同業社ケアマークとの合併を予定しているが、ケアマークの株主らが株式買い取り価格に強い不満をもっていることから、事態が進展していない。そこに目をつけた他社がより良い買い取り条件を提示して、ケアマークに対し敵対的買収を仕掛けたことが背景にある。ケアマークは全株主に対し1月23日付でCVSとの合併に賛成するよう促す手紙を送っている。これを後押しする形で、敵対的買収に乗るリスクとCVSとの合併による利益を広告内で説明、CVSに対し賛成票を投じるよう呼びかけている。しかも、ケアマークとCVSおのおののM&Aブレーン会社による、一般投資家専用の相談窓口まで併記する念の入れようだ。
 こちらは先が読めない展開となっているため、今回の広告は雑誌を中心に、ビジネス・経済関連の記事の中で多く紹介された。とにかく株主の同意を得ることが必要なため、1月31日には今度はケアマークが同様の全面広告を出稿し、株主の支持を得ようと躍起である。株主投票の結果、合併か敵対的買収のどちらが成立するのかによって、広告の効果がどれだけであったのか測ることができるだろう。
 結果はさておき、どちらのケースも新聞というメディアの特徴である信頼性や読者の理解度の高さを理解し、さらには出稿するタイミングまで計算している。それと同時に、M&Aを始めとする企業経営にも一般株主がかかわる機会があり、また経営方針について一般市民の理解を得ることが重要である米国の社会をよく表しているともいえる。日本ではM&Aというと一般人にはあまり関係のない世界だったが、近年大企業の敵対的買収が続けて話題になったこともあり、今後研究の必要性が大いに増すと考えられるテーマである。

1月24日付 ワシントン・ポスト紙 1月29日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙

(2月5日)
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