From Overseas - London 2007.1・2/vol.9-No.10・11

ジャンクフードCMの消える日

 子供のころに見たテレビCMの中で印象に残っているものといえば、清涼飲料水、ハンバーガーショップ、カップめんなどだろうか。30代半ばとなった今でも、私はそれらCMのタイアップソングが歌えるが、今後イギリスの子供たちの記憶に残ることはなくなりそうだ。
 11月末、イギリスのメディア審査機構である「オフコム」が、子供向け番組内における「ジャンクフード」広告の全面禁止案を発表した。2003年ごろから議論されてきたもので、2007年4月実施の見込みである。
 発端は、イギリスにおける肥満率の高さだ。
 世界保健機関(WHO)のデータベースによると、15歳以上のイギリス女性における肥満(BMI30以上)の割合は24.2%で、アメリカ(41.8%)を除けば、先進国のトップクラスだ。この傾向は男性でも変わらない。
 また、イギリスの場合、国民の医療費は基本的に無料で、風邪の治療費から入院中の食事代まで国家が負担するシステムだ。一般的に、肥満者は非肥満者に比べて病気になりやすいため、肥満の増加は国庫負担の増大を招くことになる。
 喧々囂々の議論を経てオフコムがたどり着いた結論は「16歳以下の視聴者の割合が平均に比べて20%以上高い番組における“ジャンクフード”広告を禁止する」というもの。「ジャンクフード」とは脂肪分、糖分、塩分のいずれかが高い食品を指し、具体的にはハンバーガー、清涼飲料水、菓子類、マヨネーズなどが対象となる。
 「午後9時前における9歳以下を対象とした番組」を見込んでいたテレビ業界にとって、時間を限定せずに16歳以下という結論は厳し過ぎるものだった。
 「9歳以下」であれば、アニメ番組を始めとする児童向け番組のみが広告禁止の対象となるが、「16歳以下」となると音楽番組や娯楽番組の一部が対象に含まれてしまう。
 オフコムの試算によると、禁止措置によるテレビ業界全体の収入減少額は年間88億円だが、アニメ番組を中心に放送する子供専門チャンネルでは最大15%の収入減となる。すでに、ドミノピザが10年間続けていた人気アニメ「シンプソンズ」に対する年間約4.4億円の番組提供中止を発表するなど、影響はさらに広がりそうだ。一部の国会議員や、広告禁止の導入に積極的な消費者団体などはこの決定に満足しておらず、2007年4月の導入時にはさらに厳しいものとなる可能性がある。
 食品業界側はこの決定を不服としながらも、世界的な肥満防止の機運も考慮し、これを甘受する方向だ。よって、広告業界の興味は年間88億円の予算がどこに流れていくかということに移っている。
 現在、最右翼に挙げられているのはインターネットだ。例えば、世界第2位の広告会社ネットワークを束ねるWPPグループ最高経営責任者(CEO)のマーティン・ソレル氏の言葉を借りれば、「インターネットは他のメディアに対して(国家などの)コントロールが及びにくい」ため、企業側の自由裁量の範囲が広い。また、テレビ広告が家族向けメディアという性格を持っているのに対し、インターネットはパーソナル・メディアであるため、親は子供がどんなサイトを閲覧しているか把握しにくく、どんな広告に接触しているのか分からない。よって、テレビ広告と違い、「子供にこんな広告を見せるのは良くない」という苦情の対象となりにくい。
 商品に関連したゲームサイトなど、食品業界はオンラインでの子供向けプロモーションをすでに行っているが、今回のテレビ広告禁止はこの流れを加速させるというのが一般的な見解だ。
 メディア側の議論は、食品企業のウェブサイトへのポータルとしてどんな役割を果たせるかということになるはずだ。食品企業側は店頭や商品パッケージでウェブサイトの告知をするであろうが、子供たちの間で商品認知度が高くなければ手にとってもらえないため、ウェブサイト訪問を促すためのメディアが必要である。
 現状で考えられるのはウェブメールや動画サイト、テレビでサイトの告知をすることなどだが、他のメディアの出番も考えられる。新聞などの「大人向け」メディアも、健康な食生活と食品企業を結び付け、親を通じて子供のウェブサイト訪問を促すような、何らかの理論付けができれば新たな収入源となりうる。

(12月10日)
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