経済を読み解く 2007.1・2/vol.9-No.10・11

2007年の世界地図
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 2007年、世界は大きな揺らぎのなかにある。先進諸国の政権がそれぞれに指導力を低下させるなか、その間隙を縫う形で、新興大国の台頭や、既存の世界秩序に挑戦する動きが際立ってきている。

[1]レームダック化が目立つ先進諸国

 レームダック、直訳すると「足の不自由なアヒル」であるが、比喩的に、任期が残り少なくなった政権が政治的な指導力を低下させる現象を指す。2007年時点の米国のブッシュ政権は、その典型的なケースといえるだろう。
 ブッシュ政権は、05年以降、イラク情勢の悪化や政権内部の相次ぐスキャンダルによって国民の支持を失っていたが、06年11月に行われた2期目の中間選挙(4年に一度の大統領選挙の中間の年に行われる議会選挙)で、上下両院とも野党である民主党に多数党の地位を奪われるという大敗を喫したことで、08年までの2年の任期を残しながら、その指導力を大幅に低下させている。
 レームダック化している政権は米国だけではない。9.11以降のテロとの闘いにおいて、「ブッシュの米国」を支え続けた英国のブレア政権も、まさにその米国追随姿勢、とくにイラク参戦の判断の妥当性への疑問が強まったことで国民の支持を失い、任期途中の07年中に政権を去ることを発表せざるを得ない状況に追い込まれた。
 また、イラク侵攻をめぐって米国と対立したフランスのシラク政権も、主導してきたEU統合の深化のカギとなるEU憲法批准を05年の国民投票で否決されたことと、同じ年の11月にパリをはじめとする国内各地で発生した移民を中心とする若者たちの暴動事件に対して適切な対応ができなかったことで、その指導力を大幅に低下させた。その後は、07年4月に控えた次期大統領選挙の行方に注目が集まり、こちらもレームダックの状態に陥っている。

[2] 停滞する世界秩序の再構築

 米・英・仏の政権が相次いでレームダック化する一方で、ドイツと日本では、すでに政権交代が実現しているが、いずれもまだ指導力を発揮できない状況にある。
 ドイツでは、フランスのシラク政権と連携して米国と対峙していたシュレーダー首相が2005年の議会選挙の結果を受けて退陣し、新たに議会第一党となったキリスト教民主・社会同盟のメルケル党首が政権の座に就いた。しかし、それまでの政権政党であり、主張の異なる社会民主党をも巻き込んだ大連立内閣とせざるを得なかったことで、メルケル政権は思い切った政策を打ち出せない状態にある。
 また日本では、国民からの高い支持を背景に政権末期にいたるまで指導力を保持し続けた小泉首相が06年9月で退陣し、安倍新政権が成立している。安倍首相は、就任早々、小泉時代に関係を悪化させていた中国、韓国を相次いで訪問し両国との関係改善への道を開いたが、政権発足から間もないこともあり、国際情勢において、また国内の政策運営においても、確固とした指導力を発揮できているとは言い難い。
 要するに、9.11以降の国際情勢を動かしてきた主役のうち、主要先進国の指導者が次々と舞台を去る時期を迎えているのである。この流れは、世界全体のレームダック化と表現することもできるだろう。
 それは、9.11を受けた、テロとの闘いに向けた世界秩序の再構築、より長い目で見れば、1990年代初頭の冷戦終結で幕を開けた米国一極時代から次の時代への移行を模索するプロセスが、しばらく停滞することを意味している。

[3] 強まる流動化の動き

 先進諸国のリーダーシップが後退するなかでは、中国とロシアの台頭という潮流が一段と際立ってきている。
 中国の胡錦濤政権は、2006年には政策運営の基本となる第11次5か年計画をスタートさせて国内の基盤を固める一方、急速な経済発展と潜在的な市場の巨大さを背景に、積極的な外交活動を続けている。11月には36か国の元首と6か国の首相を含むアフリカ48か国の代表を北京に招いて中国アフリカ協力フォーラムを開催し、豊富な天然資源を有するアフリカの国々との関係を深めている。
 一方、ロシアのプーチン大統領は、08年に任期を終えるものの、その後も大きな影響力を保持するとみられており、レームダックとは程遠い強力な政権を維持している。06年には、豊富な資源を武器にした外交活動を続け、8月には初めてサミット(先進国首脳会議)のホスト国となり、その存在感の大きさを内外に印象付けた。
 中国、ロシアの両国は、先進諸国が築いてきた世界秩序の基本である民主主義と資本主義の理念を共有していない国であり、その存在が強大化することは、国際情勢の大きな波乱要素となる。さらに、世界中で相次いで発生するテロ行為や、イランと北朝鮮の核開発、タイ、フィジーの軍事クーデターなど、既存の世界秩序に正面から反抗する動きも広がっており、国際情勢は流動化の傾向を一段と鮮明にしている。
 こうした状況の背景となっている世界のレームダック化は、米国の次期大統領選挙が行われる08年11月までは、ほぼ間違いなく継続する。それは、軍事的にも経済的にも圧倒的なプレゼンスを持つ米国が国際情勢のカギを握るという状況に当面変わりはないと考えられるためだ。
 次の米国を担うのがどのような政権になるかで、国際情勢はまったく違ったものになるだろう。そして、その行方が明らかになる08年末までの間の国際情勢は、引き続き流動的で不透明な状況に置かれることになる。2007年の世界地図は、見通しの利かない霧のなかで揺れている。

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