Creativeが生まれる場所 2007.1・2/vol.9-No.10・11

プロモーション広告の表現を追求
石川 英嗣 氏  大きな文字から小さな文字へ、定年間近の家の主が賃貸住宅の広告を見て奥さんに語りかけるセリフが、そのままコピーになったようなヘーベルメゾンの広告。このユニークな住宅広告は、どのような背景から生まれたのだろうか。旭化成ホームズのヘーベルメゾン、ヘーベルハウスのコピーを1989年から担当しているのが石川英嗣氏だ。昨年6月、それまで勤めていた電通を退社して事務所を構えた石川氏を訪ねた。

――ヘーベルメゾンは、ここ数年、文字だけの広告を作られていますね。
 「30年一括借上げシステム」をテーマにした今の広告を始めて、もう3、4年になりますね。ブランド広告とプロモーション的な広告があるとすれば、明らかにぼくはプロモーション広告のつもりでヘーベルメゾン、ヘーベルハウスの広告を作っています。特にヘーベルメゾンの広告の目的は資料請求なんです。なぜかと言うと、賃貸住宅には展示場がないんですね。新聞広告で興味を持ってもらって資料請求してもらうしかお客さんとの接点がないんです。

――ということは、今の広告はレスポンスがあるから続けている?
 今でも毎回かなりの反響があるので手法を変えにくい、というのが正直なところです。そろそろ変えた方がいいんじゃない、という声もあるにはあるのですが、表現を変えた時は一度反響が落ちるんですね。だから、資料請求の数が落ちれば、そのときに表現方法を含めて戦略を作り替えることになると思います。

独自の表現方法を

――プロモーション広告と言いつつ、ヘーベルメゾンの広告は独自の世界を作っていると思うのですが。

 ヘーベルメゾンの広告は、どれだけみんなが興味を示してリアクションを起こしてくれるかが基準になっているという意味では、ダイレクトレスポンス広告に近いというか、広告の原点に近いと思うんですね。でも、そういうプロモーショナルな広告を独自の表現方法で見せられないかと、ずっと考えていたんです。

――いつもコピーは、お父さんの独り言ですね。

 お父さんに限定しているわけではないんです。ヘーベルメゾンの「30年一括借上げシステム」の新聞広告を見た人の反応という設定でストーリーを作るというのが基本で、これまでも語り手を息子にしてみたり、娘にしてみたりしています。ちょっと離れたところに住んでいる娘が、この新聞広告に気がついてお父さんに電話して「こんな広告が出てたよ」というのも書いたことがあるんですが、あんまり反応が良くなかった。不思議と、だいたい50歳代の男性、定年間近の人を主人公にしたものが一番資料請求が来るんですね。

――だんだん文字を小さくするというアイデアは、どこから出て来たのですか。

 これはアートディレクターの瀧田稔さんのアイデアで、最初は全部大きな文字でやろうとしたんです。でも大きな文字で言いたいことを書くとすぐに一杯になってしまう。それと文字の大きさに差をつけることで、新聞広告を読んで興奮している人の感情を表現できると思ったんです。字数も入るし、やってみたら意外と今までにない面白いスタイルができたと思います。

――同じスタイルでずっと続けていくのは、コピーライターとしてどうなんですか。

 あのネタ使っちゃったしなとか、毎回大変です(笑)。継続する産みの苦しみは、けっこうありますね。

住宅のリアリティーを語る

――ブランディングは、広告をつくる上で意識しない?
 ぼくが担当し始めたころからずっとそうなのですが、旭化成ホームズという企業はヘーベルハウスの二世帯住宅にしても3階住宅にしても、世の中に先駆けて、その時代その時代にあった住宅提案をしている企業なんです。
 主婦が世の中に出て働き始めるようになったときには、共働き家族を支援する住宅「デュークス」を作ったり、ペットがブームになると、「プラスわん、プラスにゃん」というペットと暮らす住宅を提案してきたんですね。へーベルメゾンの「30年一括借上げシステム」も、作った建物を旭化成不動産が一括して借り上げて運営するという、アパート経営者の悩みに応えたものです。
 だから、ヘーベルメゾンの広告がブランド広告っぽく見えているとすれば、それは企業が世の中に商品を通してまっすぐメッセージを放っているからだと思うんです。商品の背景に、世の中に対してのメッセージ、思想、思いがなく、ただ売れればいいだけの広告だったら、この広告も単なる通販広告と同じになってしまうと思いますね。
 逆に言えば、それだけ商品の考え方が世の中としっかり結びついているので、ぼくらが広告をつくる時は、資料請求を念頭に置いて商品にどれだけ興味を持ってもらえるか、どれだけ注目してもらえるかに力を注ぐだけでいいということなんですね。

――その商品にどう興味を持ってもらうかというアプローチの仕方が、他の住宅広告とは違う気がします。それは、コピーを書く時のスタンスの問題なのかもしれませんが。
 広告をつくる時に常にこれだけはちゃんと持っていようと思っているのは、リアリティーですね。住宅広告の場合、「家族の幸せ」とか簡単に言いがちじゃないですか。そういう嘘くさい世界をやめて、やはりリアルなところで語っていきたいと思っています。
 例えば、二世帯住宅で起こりがちなのが嫁姑問題ですが、普通は広告では触れない。だけど、それを正直に出すようにしているんですね。それから、3階住宅も敷地が狭くて日が当たらない場所だから需要があるわけで、その中でどうやって幸せに住んでいくかを考えようと提案する。そういうリアルな現実を常に念頭に置いてコミュニケーションした方が、お客さんにも納得してもらえると思っているんです。

思いを世の中に伝える

――インターネットと新聞広告の使い分けについては、どう考えていますか。

 以前は新聞広告に商品の機能的な説明を書くことを求められていたのですが、今はネットで詳しい説明ができますから、新聞広告がそのへんを背負わなくてよくなっていますね。その分、新聞広告に求められるようになったのは、企業がその商品をどういう思いを持って作っているかというメッセージを世の中に伝えることだと思います、そこに新聞広告の役割がある。それは、ネットがどんなに普及しても絶対に委ねられない部分だと思います。


11月14日 朝刊 7月18日 朝刊
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