Creativeが生まれる場所 2006.12/vol.9-No.9

団塊に向け、セダンの魅力を文字で
本角雄一郎 氏  2004年9月に市場に投入された日産自動車の「ラティオ」は、「サニー」の事実上の後継車種に位置づけされるセダンだ。1966年から販売されたサニーは、ラティオの登場と共に市場から姿を消した。サニーと言えば、団塊の世代が最初に購入した車でもある。一方、ラティオの今回の新聞広告は「そろそろ団塊をやめてみませんか?」。文字中心に作られたこの広告について、コピーライターの本角雄一郎氏に聞いた。

――今回の新聞広告の目的は何ですか。
 競合社から同じクラスの新型車が発売されるタイミングに合わせたものです。日産にも同じクラスのいいセダンがあることをもっと広く知ってもらうことが目的です。

――車の広告で、ほとんど文字だけというのはめずらしいと思うのですが?
 広告をつくっている段階では、向こうが何をやるかはまったくわからないので想像でしかないのですが、少なくとも新型車なので車の写真を大きく扱ってくるだろう、というのはありましたね。

――はじめから新聞広告を考えていた?
 ラティオのターゲットが団塊の世代を中心にした層ということもあって、クライアントから新聞で何かできないか相談を受けたのがきっかけです。車の広告はだいたい商品写真を大きく出して、コピーがちょっとという体裁が多いのですが、今回は世の中の話題になるような広告にしようという点で、クライアントもこちらもはじめから一致していました。

「団塊」への手紙の体裁で

――コピーは、団塊の世代に向けたメッセージになっていますね。

 アートディレクターの青木康純さんから手紙みたいな体裁はどうだろうという提案があって、じゃあちょっと書いてみますというところからできた広告です。
 でも、広告の掲載後にあちこちからいろいろな反響があって、正直、驚いています。「団塊」という言葉自体がすごく影響力のある言葉だということを改めて実感しました。
 ぼくは29歳ですから、団塊の世代は親の世代よりちょっと上ぐらいなんですね。友だちがその世代にいるわけでもなく、上司の上司ぐらいの感じです。

――自分の年代とかなり違うターゲットに対して書くというのは、コピーライターとしてどうなんですか。

 むしろ、ほとんどの仕事がそういうケースですよね。自分と同じ世代や個人的に関心がある商品を担当することの方がまれで、いろいろな人の話を聞いたり、新聞やテレビといったメディアを通じて知ったことや調査から、そのターゲットの世代の気持ちを類推して書く、というのが普通だと思うんです。女性向けの商品を担当することも、当然あります。そういう意味では、団塊の世代だから書ける、書けないということはないと思います。
 ターゲットの人たちが今どういう状況に置かれていて、今まで何をしてきてということがあって、それに対してこれからどういうことをしたいと思っているのか。そういうところからの想像です。ターゲットが、どういうことを魅力的に感じるか想像して、それに沿って書いていく。そこに、ラティオという車が持っている良さをシンクロさせる、ということだと思います。

――ラティオの良さというのは?

 団塊の世代は「セダンが落ち着く」と言いますね。ぼくも好きで、すごく車らしい車だと思うんですね。乗っていて気持ちがいいんですよ。
 今の車市場は、マニアックに車が好きな層と、走って燃費が良ければいいという層に分かれているんですね。しかも、最近はコンパクトカーのほうが取り回しがいいということで人気がある。
 日産自動車は、その中でもセダンにすごく力を入れていて、その中の1つがラティオです。日産には、ティアナやシルフィなど良い車が多くて、セダンを元気づけようという気持ちがあるんです。

――そのラティオの写真ですが、広告ではほんとに小さく扱われていますね(笑)。

 メッセージを伝えたい、それを目立たせたいから取った体裁ですが、クライアントの方にも、割合すんなり理解していただけました。でも、これは新聞広告だからできた表現だと思うんです。このままポスターにして街中に張っても、おそらく立ち止まって見てくれない。新聞は、人が読もうという態度で接触する媒体だから成立したんだと思います。

――「そろそろ団塊をやめてみませんか?」というキャッチフレーズですが。

 今回の広告は、きちんと最後まで読んでもらえるような原稿にしたかったことが、まずあります。ボディーコピーの文字も少し大きめで、団塊の世代の方にも読みやすい広告にはしているのですが、読んでもらうためには、何だろうと手を止めてもらえるキャッチが必要だったということです。ただ、話しかける相手がはっきりしている分、意味もはっきりするし、ちょっと強い表現にはなっています。

若者の活字に対する親和度

――本角さんは、日産のティアナなどの試乗広告もつくられていましたが、最初からコピーライターだったんですか。
 肩書は、最初からコピーライターでしたね。ただ、CMの仕事が最初は多かったですね。新人のとき最初についた上司がCMプランナーということもあったので、そういう意味では例外的なコピーライターだと思います。ただ、個人的にはコピーを書いている方が好きですね。

――若者の活字離れが、かなり前から言われていますが、どう思いますか。
 今の若い人たちというのはメール文化だと思うんです。パソコンでも、携帯でもメールを打つことが多い。だから、いっときみたいに活字にまったく接触しないことはない。ただ、小説をすごく好んで読むかというと、そうでもない。そういう“受動的な活字離れ”は今もあるのかもしれないけれども、能動的に何か活字を書くことは多くなっている。そういう意味では、以前より飛躍的に活字に対する親和度は上がっていると思います。ブログもそうですよね。
 だから、新聞広告もやり方だと思うんです。一時期、ウェブやモバイルなど新しいメディアが普及したら、今までのメディアはなくなるという話がありましたが、そうはならなくて、むしろ、棲み分けができつつある。その棲み分けを上手にやっていくことが、そこに載っている広告に力を持たせることにつながると思っています。


10月14日 朝刊
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