From Overseas - NewYork 2006.11/vol.9-No.8

トリビューン再編とメディアの信頼性
 トリビューンは、シカゴ・トリビューン、ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・ニューズデイなど全米で11の日刊紙を始め、26のテレビ放送局、大リーグ球団シカゴ・カブスなどを保有する、大手メディア企業である。合計新聞発行部数は約300万部となり、ガネット、マクラッチーに次いで全米第3位だが、そのトリビューンがグループの解体・再編の方向で動き出している。
 今年6月以来、低迷する株価の上昇策をめぐり、トリビューン経営陣と大株主であるチャンドラー家の対立が続いていた。同社の株価が2年前に比べ、48%も下落したことに端を発したお家騒動だったが、去る9月21日の取締役会で両者が平和的に合意。チャンドラー家の意向通り、年内を目途に、メディアグループとしての抜本的再編案を作成する。
 株価低迷の原因としては、まず米国でのITバブル崩壊の影響を受けたこと、さらにLAタイムズの部数・広告売り上げ減少、NYニューズデイの発行部数改ざんスキャンダルなどが挙げられる。特にLAタイムズに関しては2000年の「大型買収」後、LA市民の反発を招き人心が離反、購読収入が2006年1ー3月期で8.6%減(前年同期比)、広告総量が同6.3%減(同)と苦戦が続いている。NYニューズデイにおいても、広告主への賠償問題に発展、9,000万ドル以上の引当金を積む羽目になっている。
 この状況を打破すべく、経営陣は大規模な自社株買い戻しを計画、株価をつり上げる作戦に出た。これは今年5月から約20億ドルを投入して、実行に移された。これに対し、チャンドラー家が猛反発。自分たちが保有する株式の売却を拒否したばかりか、新聞・テレビ部門の分割、不採算日刊紙の売却など抜本的な改革を行うべきだと強く主張した。今年3月に、業界第2位であったナイトリッダーが格下のマクラッチーに身売りしたこともその要求を後押ししたといえるだろう。両者の対立は激しく、どちらも譲らずに平行線をたどったが、その間に4ー6月期の同社の純利益は、62%(同)も減少した。
 また、米国ではクロスオーナーシップ(同一マーケット内での新聞・テレビ双方を同一企業が所有すること)を法律で禁じており、トリビューンはこれに抵触していると指摘され、現在審議が行われている。その結果次第でも、グループ解体は避けられない状態だった。
 これらの混乱を経て最終的には合意がもたらされたわけだが、具体的な再編計画については経営陣とチャンドラー家の間で引き続き協議される。すでに投資家やアナリストの間では、同社の再編計画をめぐって、様々な憶測が飛び交っている。
 市場経済を優先する米国的な考え方に立てば、メディアが株式を公開し、株主の利益を追求するのはごく当たり前のことである。前述のナイトリッダーにしても、株主側の要求での身売りであったし、買収したマクラッチーも不採算紙は容赦なく転売、利益の上がる新聞だけを手もとに残している。しかしそれらは、日本人の目から見ると、違和感を覚えずにはいられない。新聞を始めとするメディアは社会に対しての責任が第一義的に考えられるべきであり、そのために株主の意向が入り込まないよう、日本においては株式の非公開や敵対的買収への対抗策などが講じられている。
 米国においても、株主の利益を追求するのはあくまで経営側の立場であって、メディアが社会的に果たす役割とは別でなければならないが、それが脅かされる恐れが大きい。かつて米4大ネットワークのひとつであるABCがウォルト・ディズニーに買収された際、ディズニー側は「ニュースはもうからない」として報道部門の撤廃をABC側に提案したことがある。これは、経営を最優先した考え方の危うさを、端的に物語ってはいないだろうか。
 今回のトリビューンの内紛においても、株価低迷の原因と名指しされたLAタイムズでは、実に編集部門の2割にも相当する200人以上の人員削減を強いられた。同紙は「深刻な質の低下を招く」と紙面も使って公然と反旗を翻したが、10月5日には発行人が辞任させられている。M&Aに熱中した揚げ句、ジャーナリズムの本分を損ない読者が離れては、メディアとしての信頼性を失うことになる。グループ再編において、彼らはその視点を持つことができるだろうか。
 
(10月10日)
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