From Overseas - London 2006.11/vol.9-No.8

創刊ラッシュ 無料夕刊紙の将来性は

 ロンドンで夕方の景色が変わった。
 従来、夕方の地下鉄車内で新聞を読んでいるのは乗客10人中、多く見積もっても3、4人というところだったが、9月に入ってからこれが倍近くに増加したように見える。
 理由は、2つの無料夕刊紙が相次いで創刊されたことだ。まず、8月30日にアソシエイテッド・ニューズペーパーズが無料夕刊紙「ロンドン・ライト」を、9月4日にはニューズ・インターナショナルが「ロンドンペーパー」を創刊した。ともにフルカラー48ページで部数は40万部。判型は前者が一般的なタブロイド判なのに対し、後者はタブロイド判よりもひとまわり小さなサイズだ。
 2紙が創刊された背景は、おおむね以下の通り。
 まず、アソシエイテッド社が発行する夕刊紙「イブニング・スタンダード」を除いて、ロンドンには夕刊がなかったこと。「ロンドンペーパー」によれば、出勤中に新聞を読む通勤者は60%だが帰宅中は36%であり、ここに大きな可能性が広がっている。
 そして、無料朝刊紙の「メトロ」に対して英公取が独占排除勧告を通達したこと。同紙はロンドン市内の地下鉄駅と鉄道駅における配布権を、時間帯を問わずに独占してきたが、勧告により午後以降の配布権が開放されることになった。配布権は地下鉄と鉄道がそれぞれ入札方式による販売を行っており、ニューズ社とアソシエイテッド社も参加したと言われているが、ニューズ社は落札企業の発表を待たずに無料紙を創刊、アソシエイテッド社もこれに対抗すべく無料紙を刊行した。
 さて、この2紙はともに無料紙であり広告収入が経営の柱となる。両社とも、広告セールスにおいてもう一方を凌駕するために工夫を凝らしている。
 まず、「ペーパー」の一番の特徴は配布部数の保証をしていること。40万部を「配り切る」ことを約束することで、媒体価値を高めようとしている。また、読者のイメージを「34歳以下」「ホワイトカラー」「ブランドにこだわりがある」などとし、部数の配分でもオフィス街などを手厚くしている。
 一方、「ライト」は値ごろ感を出すことで広告主の獲得を狙っているようだ。多色1ページの価格は約310万円で、競合紙よりも6%ほど安い。この料金は「お試し価格」で、半年間の据え置きの後16%程度値上げされる予定だ。「ペーパー」のほうもトライアル料金だが、こちらは4か月の据え置きの後50%近く値上げされる見込み。
 さて、両紙の広告セールスだが、見ている限り好調だとは感じられない。件数も少なく、大手広告主からの出稿が少ない。
 大きな理由のひとつは、メディア・エージェンシーや広告主が様子見を続けていることだ。無料紙2紙にロンドン中心部における「イブニング・スタンダード」の部数を合わせると、狭いエリアで90万部の夕刊紙が発行されていることになるが、それほどの需要はないと考えている関係者が多いようだ。例えばマインドシェアの幹部は「市場規模は65万部程度」と発言しているし、元「イブニング・スタンダード」の広告局幹部も「ロンドン中心部において夕刊紙を自発的に手に取ろうという人は15万人程度だろう。もし90万人の人がそう思うのであれば、なぜ『スタンダード』の部数が増えないのか?」とコメントしている。
 前述の通り、市交通局などが地下鉄駅構内における午後の新聞配布権を入札にかけている。これらをニューズ社、アソシエイテッド社以外の企業が取得することになった場合、ロンドン市内では最大4つの無料夕刊紙が発行されることになる。生き残るためには、各紙とも独自色を打ち出す必要に迫られそうだ。

10月9日付「ロンドン・ペーパー」 10月9日付「ロンドン・ライト」

 

(10月10日)
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