From Overseas - London 2006.10/vol.9-No.7

未遂であれば問題なし
 おそらく日本にいるよりもテロの脅威を身近に感じている。2005年7月7日の同時多発テロ、21日のテロ未遂、今年8月10日のテロ未遂。未遂が2回とは言え、1年と少しの間に3度というのは自分の常識からかけ離れている。
 こういった事件は、広告業界にも暗い影を落とす。
 2001年9月11日の米同時多発テロの後、イギリスにおいても企業が広告出稿を手控え、新聞各紙への出稿量は減少した。当時の調査によれば、9月11日翌週におけるイギリスの新聞・雑誌広告の売り上げは前の週に比べて6.15%減少し、テレビの広告放映時間は6.43%ダウンしたそうだ。
 今年8月10日のテロ未遂事件についてはどうだろう。
 この事件が空港に巻き起こした混乱は、日本でも報道されていたはずだ。セキュリティーレベルの大幅な引き上げに、夏休みシーズンの真っ最中だったということが相まって、チェックイン・カウンターやセキュリティーゲートには長蛇の列ができた。事件発生からしばらくの間は欠航や大幅な遅延が相次ぎ、利用者がターミナルの外にまであふれ出している模様が連日のように報道されていた。
 欠航が特に多かったブリティッシュ・エアウェイズをはじめ、すべての航空会社が広告出稿を自粛するはずだ。こう考えていたところ、事件から5日後の新聞に、混乱を逆手に取った広告が掲載された。
 「ひとつの航空会社がフライトを続けています」
 これを出稿したのは大手格安エアラインのトムソンフライ。事件後キャンセルがまったくなく、83%の便が1時間以内の遅延で運航している事実をアピールする内容だ。「ツアーやフライトのご予約は、自信を持ってトムソンフライへ」とは、キャンセルが多かったブリティッシュ・エアウェイズを揶揄する表現である。
 また、その3日後の18日には格安エアライン最大手のライアンエアが「デイリー・テレグラフ」紙に全面広告を掲載。「テロリズムを駆逐せよ」「飛び続けろ。テロリストを打ち負かすために」のコピーとともに、軍服に身を包んだ人物が葉巻をくゆらせながらVサインを掲げている。第二次世界大戦期に英首相を務めたウィンストン・チャーチルだ。イギリス人の愛国心をあおるような内容だが、下のほうをよくよく見ると「100万席を25ポンド(約5500円)でご提供」とある。実際はセールの告知だ。
 ライアンエアの場合は、欠航や乗客のキャンセルなどにより事件からの1週間で約200万ポンド(約4億4000万円)の損失を被ったとしている。他の航空会社も似通ったセールを展開しており、需要回復を図ろうとする狙いが見てとれた。
 航空会社のほかでは、ヒースローやガトウィックなどの空港運営会社であるBAAが各紙に複数回の出稿を行った。内容は、機内持ち込み荷物に関する規定などについて。規定を事前に周知することによって空港における混雑の緩和を図ったものだ。
 上記の広告が掲載されていた期間、ブリティッシュ・エアウェイズの広告出稿は減少したようだが、ゼロというわけではなかった。
 これら航空関連企業による出稿統計は今のところ発表されていないが、感覚的にはほぼ同量から微減というところか。
 テロに屈していない姿勢をテロリストに示す一番の方法は、過剰に反応せずに普段の生活を続けることだといわれている。各航空会社が英国的ブラック・ユーモアを広告に取り入れたということは、まさに普段通りだ。

へザー&ジョニール へザー&ジョニール へザー&ジョニール
(9月10日)
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