From Overseas - NewYork 2006.9/vol.9-No.6

WSJ、変革のとき
 世界金融の中心であるニューヨーク・ウォール街。その名を頂く「ウォールストリートジャーナル」(以下WSJ)は、経済紙としての地位を揺るぎないものにしている。そのWSJだが、ここに来て変革の動きが慌ただしい。その先には、来るべき時代を見据えた戦略が見え隠れする。
 7月中旬、WSJの親会社であるダウ・ジョーンズは、現編集長であるスタイガー氏の定年に伴う2007年末での退任を発表した。それと同時に、グループ全体のニュース配信方式を見直すためのコミュニティーを新設、その責任者であるイングラッサ氏が、後任の編集長を務める可能性が高いといわれている。つまりは、新聞に限定せず、広い視野でコンテンツビジネスを見据えることの出来る人材がWSJ編集のトップに立つということになる。
 WSJはまた、来年1月に新聞紙面を大幅に刷新する予定である。関係者の間で「Journal 3.0」と呼ばれるその新紙面は、判型を縮小し、他の有力紙と横幅を合わせて広告原稿サイズを共通化すると共に、年間で1800万ドル(約21億1000万円)の経費を削減することが大きな目的といわれている。
 一方、編集レイアウトでの「新デザイン」も強くアピールしており、オンライン版WSJとの連携を強化し、インターネット世代が受け入れやすいように「ウェブサイト的な」記事配置になるという。10年の歴史を持つオンライン版WSJ(有料)は76万人を超える会員数を持ち、新聞社サイトの中ではほとんど唯一課金に成功している例として評価も高いことから、オンライン版に軸足を移していく可能性も指摘されている。
 インターネット広告も伸びており、ダウ・ジョーンズの持つオンライン媒体の広告収入(オンライン版WSJを含む)は、同社の発表によると、2006年第1四半期において26%(前年同期比)の成長を見せている。
 広告業界誌であるアドエイジの著名記者、ドネイトン氏は、WSJが新聞印刷をやめる日が、いつか現実になるのではないか、という内容のコラムを書いている。そのなかで彼は、少なくともWSJはその可能性について認識しており、また実行するとしたら新聞社のなかでWSJが最初になるだろう、と指摘している。
 米国の新聞社は、その収入の多くを広告に依存している。発行部数が日本に比べ多くないということもあるが、全米平均では売り上げのうち実に85%が広告からもたらされる。逆に言うと、広告さえ獲得できれば紙にこだわる必要はなく、コンテンツを載せる媒体は何でもいい、という論法になってもおかしくない。
 とはいえ、インターネット広告はベースとなる金額がまだまだ小さいからこその高い成長率であり、その規模は新聞広告に遠く及ばない。またWSJは、部数では対前年で1%減少したものの、広告収入は7か月連続で増加しており、2006年第1四半期には、この2年間で最大の前年同期比18%増を記録している。
 これらの点からも、新聞以外の媒体に完全に移行することは当分の間考えられない。しかしWSJは、いつかその日が来ることを想定し、今から準備を整えていることだけはどうやら確かなようだ。
 もちろん、全米に17ある印刷工場の従業員のことや、製紙業界との関係など、今後考慮しなければならない要素は数多くあるが、117年の歴史を持つビジネスマンのバイブルともいえる同紙が、その伝統とブランドにあぐらをかくことなく常に新しいことへのチャレンジを続けていることは、ライバル紙にとっても少なからず脅威となっている。
 
3月20日 ワシントン・ポスト紙 3月27日 アドバタイジング・エージ誌
(8月8日)
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