経済を読み解く 2006.9/vol.9-No.6

IT革命、再び
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 “WEB2.0”という言葉が注目を集めている。“2.0”というのはソフトウエアなどでよく見かける、バージョンや世代を表す表現だ。要するに、インターネットの世界が、第1世代から第2世代にバージョンアップされたということを表しているのである。このWEB2.0という言葉自体は、人によっていろいろな使い方をされているが、ここでは、現実に進行しているインターネットとそれにまつわる社会やビジネスの変化の大枠を概観してみたい。

[1] 壁に突き当たったIT革命

 WEB2.0に象徴される近年の変化は、総体としてみれば、一時的に停滞していた「IT革命」を再起動させる動きと位置づけることができる。IT革命という言葉が世をにぎわしたのは2000年、インターネットの利用が普及し、それが人々の生活や企業活動、さらには経済構造、社会構造までを大きく変えそうだという認識が広まったためであった。そこでは、膨大な情報に簡単にアクセスできるようになるとか、誰もが自由に社会に向けて情報発信できるようになる、経済活動の効率が飛躍的に向上する、新しいビジネスが発展する、といった明るい未来が提示されていた。
 しかしその一方で、インターネットの限界も指摘されていた。とくに、ネット上に存在する情報の無秩序さの問題が大きかった。誰でも簡単に情報を発信できるようになったことで、ネット上の情報は爆発的に増加した。デマや誹謗中傷、反社会的な情報、さらには詐欺を目的とするような悪質な情報も多く、インターネットの世界は、膨大な情報が無秩序にばらまかれたカオスと化していたのである。
 人々がそこから有用な情報を探し出すことは難しかったし、情報を発信する側も、狙ったターゲットに的確に情報を届けることは困難であった。“Yahoo!”などのディレクトリ型ポータルサイトが助けになったが、それらがカバーできる範囲は、ごく限られたものでしかなかった。01年には「ITバブル」という表現も生まれ、ITへの期待は後退していった。

[2] 秩序の生成

 そうした状況は、WEB2.0と総称される新手のサービスの登場で一変した。もっとも大きな役割を果たしたのは、検索エンジン“Google(グーグル)”だ。グーグルは、ネット上のあらゆるページの内容を取り込んだデータベースと、個々のページがどこからリンクされているかを基準としたページランクの仕組みによって、ユーザーが求める情報を含むページを的確に提示するサービスを提供している。このサービスの登場で、インターネットの使い勝手は劇的に改善された。
 他方、多くの企業が提供している“blog(ブログ)”のサービスは、テンプレートと支援ツールによって誰でも簡単に自分のホームページを開設できるようにするとともに、「コメント」や「トラックバック」の機能で、ユーザー同士が簡単にそれぞれのページを結び付け、それぞれのページの存在を多くの人にアピールすることを可能にした。また“SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)”は、限定されたユーザー間での密度の濃い情報のやり取りを可能にした。
 これらのサービスによって、膨大ではあってもカオスでしかなかったインターネットの世界に秩序が生まれた。ただし、彼ら自身は、情報の出し手と受け手、あるいはネット上のページとページを結び付けるためのシステムを提供したに過ぎず、自らの手で秩序を作り出したわけではない。その点が、旧来のディレクトリ型ポータルサイトなどの試みとの決定的な違いであり、WEB2.0と称される所以の1つとなっている。

[3] IT革命の再起動

 インターネットの世界における秩序の生成は、常時接続のブロードバンドや携帯電話によるネット接続の普及とも重なって、インターネットの有用性を飛躍的に向上させた。ネットを使った情報収集は、すでに私たちの生活のあらゆる場面に浸透している。個人による情報発信も一般化しているし、その有用性も社会的な影響力も増してきている。小規模な企業や個人がネットで情報を発信することで、広範囲から顧客を募り事業を成立、発展させることも可能になってきた。頓挫したかにみえたIT革命が、再び急速に進みはじめたのである。
 その流れのなかで、ネット上のページが、金銭的な価値を持つケースも増えている。ページに盛り込まれた情報自体が売れるケースもあるが、より一般的なのは、広告を掲載するスペースとして利用されるケースだ。ネット上の個々のページは、新聞やテレビなどの既存の広告媒体とは違い、少数ではあるがある程度興味や属性の絞られた人に見てもらえる安価な媒体となる。
 その際には、広告媒体としての個々のページと広告の出稿者を的確にマッチングする機能が必要になるが、グーグルはすでに、検索結果のページに広告を掲載することで大きな収益を上げているのに加え、他者のページに広告を配信する事業もスタートさせている。他の検索エンジンやブログ、SNSのサービスを提供する企業もそれに追随しようとしている。そこでは、サービス提供を通じて蓄積してきたネットユーザーの動き方のパターンやページごとのアクセス状況のデータが武器になるだろう。
 こうしたサービスには、人々の情報発信をうながすことでネットの有用性を一段と高めるとともに、小規模のビジネスに安価な広告媒体を提供することで、新しいビジネスの勃興を促進する効果も期待できる。WEB2.0は、IT革命を再起動させる突破口となったのに加えて、その加速要因としても機能しはじめている。

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