CURRENT REPORT 2006.9/vol.9-No.6

普通の生活をしてきた人々が普通で幸せな老後を送るために
 “ワタミ”といえば、居食屋「和民」や炭火焼だいにんぐ「わたみん家」など、全国に約600の飲食店舗を展開する外食産業の雄。そのワタミが2005年3月、神奈川県央部を中心に16棟の有料老人ホームを運営していた「アールの介護」(06年4月から「ワタミの介護」へ社名変更)を突如買収し、「なぜ、居酒屋チェーンが介護なのか?」と世間を驚かせた。
 そこで、グループ持ち株会社 ワタミ 代表取締役社長兼CEOにして、ワタミの介護 代表取締役社長を務める渡邉 美樹氏に、介護事業へ参入した理由を尋ねた。


渡邊美樹 氏 ――施設介護を始められた理由は
 きっかけは病院経営です。2004年から「医療法人 幸会病院(現・盈進会病院)」の経営を個人的に引き受けているのですが、ある日、在宅介護の現場を見たときに、「このおじいちゃんおばあちゃん、将来はどこに行くのかな」と、ふと思ったんですよ。そこで聞いてみたら、特養(特別養護老人ホーム)の空きを待っているんだと。でも、全国に34万人もの待機者がいて、とても入れそうにないと言うんですよ。そうすると、有料老人ホームに入るしかない。
 そこで調べてみたら、一口に有料老人ホームといっても千差万別だということが分かった。確かに(入居金が)高い施設の中には良いところもあった。しかし、とても一般の方々が入れるような施設ではない。正直、今まで普通の生活をされてきた方が、そのまま幸せな老後を過ごせるような施設って、僕には見つけられなかったんですね。だから、「じゃあ、自分たちでやろうかな」と思ったんですよ。もっと言えば、「自分たちならできる」と思いましたよね。というのも、外食と介護のノウハウは、実は面白いほど一緒だったんですよ。

――どのような点が共通しているのですか
 高齢者の方々にとって、食事は最大の楽しみだといいます。我々は国内最大規模の有機農業生産法人でもありますので、安心・安全な食材を使ったおいしい食事を提供する力があります。
 2つ目は人材です。ワタミは22年間外食をやってきた会社ですので、「サービス」つまり心優しい人間を育成することに関して、絶対の優位性があります。
 3つ目は建設です。我々は600以上もの店舗を建ててきた建設のプロですから、コストも通常の2割から3割、ことによると4割程度は下げることが可能です。その分、入居費用を下げることができるわけです。
 4つ目はメンテナンスです。うちはメンテナンス会社も持っているので、内装工事などはいつでも対応できます。
 5つ目は物件開発力。つまり、土地を確保する力です。多くのおじいちゃんおばあちゃんが本当に住みたいのは、家族が訪問しやすい駅前の便利でにぎやかなところです。我々は駅前の再開発事業を行う力も持ち合わせています。
 これらのように、我々の持つノウハウは、全部介護に生かせます。介護を受けられる方が幸せになる方向に向いているし、介護の質を高めることもできます。そういうことで、特に我々の力が発揮できる施設介護に特化して、この事業を始めたんです。

――新聞広告も反響があったようですね
 おかげ様で、8月1日オープンの施設が全契約終了しました。すごいことですよ、これ。介護の奇跡と言われているぐらい。
 でも、僕は基本的に広告はいらないと思っているんです。外食の場合、おいしくてサービスが良ければ、また行こうと思いますよね。クチコミの力もありますし。
 しかし、介護の場合はまず、「介護=ワタミ」というブランドイメージを確立しなくてはならない。そして、業界内で第一優先順位を取る。これだけは絶対やり遂げます。そのために、このような広告を定期的に出し続ける必要があるのです。そうしないと忘れられてしまいますから。
 外食なら看板がありますが、介護には無いじゃないですか。いくら良いものをやっていても、クチコミだけでは伝わらないこともあります。介護はある日、突然必要になるものですが、その際、「介護=ワタミ」を想起してもらう必要があるわけです。

――2020年までに1千棟の有料老人ホームを建てるとおっしゃっていますが
 2020年に1千棟なんていうのは、本当はどうでもいいことなんです。とにかく日本の介護が良くなればいい。要するに、普通の生活をしてきた方が、年をとっても普通に幸せに過ごせる――そういうインフラをつくりたい。ある程度の規模を持ち、介護業界でより良い影響を与えたいのです。
 たとえば、今までどこの施設でも30分前によそってある固まったご飯を食べさせてきたわけですよ。それが、最近僕がテレビでガンガン言うものだから、「ワタミは炊き立てだってよ。じゃあ、おれたちもせめて5分前にしようか」と変わってきているらしい。この話を聞いたときはうれしかった。これからも、ぜひ、そうありたいね。
 今後もうちが有料老人ホームのスタンダードをつくりますよ。それも入居金1千万円以下で。だって2億円、3億円もらったら、誰だってできるでしょ? それよりも、普通の生活をされてきた方が、普通に幸せな老後を送れるようなインフラをつくりたい。それが、本当の夢なんです。


6月25日 朝刊 7月30日 朝刊 8月27日 朝刊


取材メモ
 「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」をグループスローガンに掲げるワタミ。1984年に「つぼ八」のフランチャイジーとして創業したが、92年以降は自社ブランド 居食屋「和民」を中心とした展開を行っている。
 外食産業のイメージが強いが、介護のほかにも、環境、農業、教育の各事業運営や、NPO「スクール・エイド・ジャパン」を通じ、子どもたちへの教育支援も行っている。

(佐藤)
もどる