AD FILES 2006.9/vol.9-No.6

日本社会全体と“家族のような関係”に
日本サムスン 戦略企画室チーム長 難波 健一氏
 涙は愛から流れる。――この「愛」と「EYE」をかけた印象的なコピーとともに、家族の写真と手紙が紹介されている日本サムスンの企業広告が、4月から7月にかけ、4回にわたって掲載された。
 企業間取引をメーンとする同社が、このような市井の人々の家族にあてた手紙を紹介する広告を、一般紙である読売新聞に出稿する意図はどこにあるのだろうか。

地域に根ざす

 日本サムスン株式会社の発足は1975年のことだが、その前身、サムスン物産東京支店が設立されたのは1953年。以来、多くの日本企業との取引を通じてパートナーシップを結んできた。
 戦略企画室チーム長の難波健一氏は「50年かけて、5千社を超える日本企業との関係を築き上げてきました」と語る。
 サムスングループ全体では世界約60か国で事業を展開、韓国以外での売上比率が5割を超え、中核企業のサムスン電子に至っては9割近いというグローバル企業だが、それぞれの国や地域に根ざして受け入れられ、貢献してこそ会社の存在価値があると考えている。
 「ビジネスだけを展開し、利益を上げ、競争に勝ち残ればいいというのではありません。積極的に社会とかかわりをもち、その一員として共に繁栄する道を模索しようというのが世界的なサムスンの方針です」
 現在、日本サムスンのビジネスは、サムスン電子をはじめとするグループ会社の半導体や液晶パネルといった部品などの日本企業への販売が4割、日本企業から、主としてサムスングループ向けに購入した部品や素材、機械装置の輸出が6割で、取引額は年間でおおよそ1兆円に上っている。
 「日本サムスンは日本企業とサムスングループ各社との橋渡し役という黒子的な存在ですので、一般の方には会社の実態は見えにくくなっています。そのため、日本に根ざした企業となるには、日本の人々に我々の姿勢や理念を伝えることが大切なのです」

家族にほほえみを届ける

 企業姿勢などを伝える目的で、同社が昨年からスタートさせたのが、「家族のほほえみ」をテーマにした企業広告である。このテーマには、サムスンの持つ人間力、技術力、品質力で世界の家族にほほえみを届けたいという願いがこめられている。まず昨年は、ロシア、フランス、中国、アメリカの家族を題材にグローバル企業であるサムスンの姿を描いた。その際、紙面で募集した家族への手紙「家族の団らんあたためーる」が、今年のシリーズへとつながった。
 「1,000通を超える作品が寄せられました。それらを読むうちに、家族のように温かく、互いに必要とされる関係を築きたいという我々の思いは、自社製品や事業内容を紙面で訴える以上に、手紙文を掲載したほうが伝わるのではないかと考えたのです」
 家族への手紙をじっくり読んでもらうため、シンプルなビジュアルに徹した。
 「手紙文という素材そのもので勝負したかったので、文章が引き立つよう、一切の装飾を排除しました」というように、サムスンのロゴマークですら控えめである。
 また、手紙の内容については、ビジネスマンでもある父あてのものを意識して取り上げている。
 「もちろん我々の事業内容も考慮してのことですが、同時に世間では『お母さん、ありがとう』というメッセージは比較的多く聞かれるのに対し、父親への感謝、応援というのはあまり見受けられません。その点でも、より共感を得られるのではないでしょうか」
 広告媒体に新聞、それも一般紙を選択したのは、これらのメッセージを社会全体に届けるためだという。
 「テレビCMもインパクトがあり、短期間で企業メッセージを伝えるという点では有効ですが、我々の姿勢や考え方をきちんと伝えることが重要ですので新聞を選びました。中でも一般紙を選択したのは社会全体への到達を期待してのことです。家族全員で読まれることで、社会の隅々にまで広がる広告としたかったのです」
 この一連の「家族のほほえみ」シリーズ広告のコンセプトはすべて社内の発案だ。制作を担当した外部の広告クリエーターには、トップの考え、経営理念、企業文化、事業の方向性などを共有するために、社長との面会、スタッフとのミーティングを重ねてもらった。
 「そこまでしないと納得いく表現は出てきません。徹底的に会社にほれてもらわないとできないですね、広告というのは」

社会とのつながりを重視

 同社の宣伝・広告に対する考え方には、社会との関係をどう構築するかという視点が存在する。
 このことは例えば、不祥事を起こしてしまった企業を考えるとわかりやすいだろう。いくら業績が良くても、社会との関係を遮断し、顔が見えない企業は、「よくわからない」「何か隠していたのでは」といった憶測を呼んでしまうことがある。社会に対してオープンで理解されていることが大事なのだ。
 「企業は社会あっての存在ですから、いいときでも悪いときでもきちんと社会とのつながりを持っていないと、本当の意味で受け入れられないと思います。企業に対する理解や信頼といったものは、広告ですぐに変わるということはありませんが、広告は社会との関係を維持していく上でも重要と考えています」と難波氏は語る。

永続的な関係を目指して

 サムスンでは社会貢献にも積極的で、主な活動として、タイやカンボジアでの地雷除去や日本での盲導犬繁殖に対する支援、シルクロード文化財保護などに取り組んでいる。より身近なところでは、全職員が清掃活動や障害者支援といったボランティア活動に携わるという「日本サムスン・ボランティアデー」を設け、地域社会との触れ合いを通じてパートナーシップをはぐくんでいる。
 「地域に根ざすという方針は、事業内容を始め、社会貢献活動、人材教育制度など、すべてに共通しています。外部へ発するメッセージだけではなく、社内での取り組みにも反映されているのです」
 日本サムスンは、日本市場との一時的な関係ではなく、日本に根ざして、信頼を得ることで、日本社会との将来にわたる永続的なパートナーシップを志向しているのだ。

4月2日 朝刊 5月14日 朝刊
6月4日 朝刊 7月2日 朝刊

(梅木)
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