From Overseas - London 2006.7・8/vol.9-No.4・5

「RED」
 オックスフォード英英辞典をひくと、「RED」の項の中には色のほかに「怒り」「恥」「(金銭的な)赤字」「共産主義」などを意味する単語が並ぶ。「赤絨毯」を除くと英語ではあまりいい意味には用いられないようだ。コーポレートカラーが赤で時価総額が世界3位(2005年末現在)の銀行であるHSBCは、「アジアでは慶事などで用いられる色だ」という趣旨のCMをわざわざ流していた。もっともサッカーチームのユニホームなどでは使われているので、忌避されているわけではなさそうだが。
 さて、この「赤」にまつわる事件が英新聞業界で起こった。5月16日、高級紙の「インディペンデント」が一面と終面を真っ赤に染めた新聞を発行したのだ。U2のボーカリストであるボノが「1日編集長」を務めた。
 非公式な数字だが、この日の部数は約29万部。イギリス国内における同紙の部数は通常22万部程度なので、1日で30%以上伸ばしたことになる。売り切れとなる駅の売店が続出し、同紙のその後の記事によると、本来1部約150円のところオークションサイトでは2000円以上の値をつけたそうだ。
 なぜ「赤」なのか。
 この日の新聞は、アフリカにおけるエイズ撲滅のための資金を増やすことを目的とした活動「プロダクト・レッド」に結びついている。この活動に参加する企業は「レッド」ブランドの商品を販売し、売り上げの一部を「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」に寄付する。ボノらによるこのアイデアは1月のダボス会議において発表され、アメリカン・エクスプレス、エンポリオ・アルマーニ、コンバース、ギャップ、モトローラといった大企業が、すでに「レッド」ブランドの商品を発売した。
 例えばアメックスの赤いクレジットカードの場合、カード利用額のうち最大1.25%が世界基金に寄付される。モトローラの赤い携帯電話の場合は、機種販売額のうち約2200円と通話料の5%がエイズ撲滅に利用される。「インディペンデント」は、5月16日付の利益の半分を寄付すると約束した。
 「レッド」の考え方で興味深い点は、エイズ対策という社会的な問題を商売に結びつけたところだ。ボノの言葉を借りれば「レッドは企業にとって良いビジネスとなる」。
 CSR(Corporate Social Responsibility)リポートの公開などが一般的になっている現在、企業としては他社よりも注目度が高い活動を行いたい。ただし過多な投資は避けたい。一方で、多チャンネル化やハードディスク・レコーダーの登場などにより、企業が膨大な費用を投下してきたテレビ広告の効果が疑問視されるようになってきており、マーケティングの新たな手法が求められている。「レッド」はこういった変化に対する答えのひとつであり、「プロダクト・レッド」のボビー・シュライヴァーCEOは「エイズ対策を支えているものとして、これら大企業のマーケティング活動があることは素晴らしい」とし、社会的活動と商売主義を結びつけることを是とした。
 ところで、CSRが変容した形として、CSO(Corporate Social Opportunity)という考え方がある。CSRを「責任」ととらえるのではなく、ブランド力や企業価値を高めるため、また新商品やサービスを開発するためのビジネスの「機会」として認識しようというものだ。
 個人的な感想になるが、「レッド」ブランドの商品は格好良く、ボノが活動の中心にいるという事実と相まって、参加企業のイメージを著しく高めているように思える。エイズ問題に商業主義を取り込むことへの是非はあるだろうが、絶好の「機会」であることに間違いはないと思うのだがいかがだろう。

5月15日 インディペンデント紙 5月16日 インディペンデント紙 5月16日 インディペンデント紙

(6月8日)
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