Creativeが生まれる場所 2006.7・8/vol.9-No.4・5

宝島社 世の中を広告という装置でザラつかす
前田知巳 氏  「おじいちゃんにも、セックスを」「ハワイに行くより、グァムに行くより、……みんなで参院選に行こう」「国会議事堂は、解体」など、常に型破りなコピーで世の中を驚かせてきた宝島社の企業広告。その最新版がこの5月、久しぶりに新聞に掲載された。宝島社の広告を11年にわたって担当しているのが、前田知巳氏だ。団塊の世代をテーマにした今回の広告の意図や、この広告が生まれた背景について前田氏に聞いた。

――宝島社の企業広告としては、鳥インフルエンザのシリーズ以来ですか?
 2年ぶりですね。実は、前回の掲載以降もプレゼンでOKまでもらい、いいところまでいって出せなかった企画がいくつかあったんです。

――企業広告をやめていたわけではなかった?

 だんだん掲載のハードルが高くなって、「よく実現できたね、この企画」というものじゃないと世の中的にも納得してくれなくなった。で、社長(宝島社・蓮見清一社長)から言われていることも一貫してそう。要するに、「半端なものだったらやんないよ」ということです。「決められた予定に従ってやる」というルーティンな発想自体が、既に宝島っぽくないですし。

――いつも社長プレゼンなんですか?
 ええ、今回はホリエモンが逮捕された日(1月23日)に電話があって、オリエンがありました。オリエンといっても、はたからは「飲み」にしか見えないでしょうけど(笑)。

――団塊は、そのとき出てきたテーマですか。
 いや、そういう話はなくて、ホリエモンがどうだとか、最近何があったとか、知らない人からは、ほんとに世間話にしか聞こえないと思う。でも実は「そんな感じの世間で、お前は今度何をテーマにするんだ?」ということを言われているわけです。
 繰り返しに聞こえるかもしれないけど、宝島社の広告は、一部の限られた人だけが反応するテーマでは既に意味がないということです。なるべく多くの人がザワザワとなるものじゃないと出さないぞとは言われてる。でも、そういうテーマって、そうそうないわけです。

団塊を詩の形式で表現する

――テーマを決めるまでには、相当苦労した?
 いつも、まず、スタッフで集まって、またもや世間話みたいな会議をするんですが、さすがに今回は、答えがぜんぜん出てこなくて。ゴールの前でパスをグルグル回してるだけで、なかなかシュートできないという感じでした。結局そこでは決まらなくて、ほかの仕事でロケに行ったタイでえい!って決めたのが「団塊は資源である」というテーマです。2007年問題とか、これからの市場として団塊は有望だとか、いろいろな取り上げられ方をしていますが、団塊がいま、この日本でどんな意味を持つ存在かということを、まだズバッと語られてないんじゃないかなと思って。

――ビジュアルは馬の群れが疾走する写真ですね。
 タイから戻るまでにデザイナーの石井原にビジュアルは考えてもらっていました。ずっと馬を撮り続けているワルシャワ在住の女性の写真家の作品ですが、見た瞬間、「あ、これだ!」と思いましたね。団塊の持っているエネルギーや、ふだんは一見バラバラに勝手な方を向いて草をはんだり、寝そべったりしているけど、パーンと音が鳴るといっせいにみんな同じ方向に走り出す、といった団塊の特性まで表現している。その写真に触発されて、一気にボディーコピーを書きました。

――そのコピーですが、詩の形式を取っていますね。
 団塊の世代を詩のスタンスで解釈したり、表現することに意味があると思ったんです。ぼくの勝手なイメージですが、団塊って、今まで、あまり詩的な対象にはならなかった。もっとガツガツした印象で語られていたと思うんです。
 そこを詩の表現とクロスオーバーさせると、何か違う団塊の持っている意味や価値が見えるんじゃないか。感覚的な話ですけど、詩の形式でコピーが多分書けるだろうという予感がなんとなくして。

死ぬまでがんばれのエール

――世の中を斜めから見る今までの宝島社の広告とは、トーンが変わった気が……。

 今までも斜に構えてきたつもりはないんですけどね。でも、ホリエモンのことがあって、世の中がまた違う意味でユラユラし始めた。何かを熱く直球で語ってほしいという空気が出てきた。信じられる何かを誰かがごまかしなく言ってくれることを、実はみんな待っているという感じはありました。

――団塊の世代に対する受け止め方は世代によって違うと思うのですが、前田さんはどうとらえていますか。

 ぼくはまだ40ちょっとですが、彼らが世の中を変えてくれることに意外と素直に期待してきたところがあるんです。長く生きていてもこの日本じゃろくなことないだろって、ここしばらくインプリンティングされてきて、将来のこと考えたらみんなため息ついちゃうというのが、ぼくらの世代以下です。
 で、ついに団塊の人びとがリタイアという節目を迎える。日本を元気にするために、がんばって好き放題やってほしいという気持ちが、意外とあるんですよ。だから今回の広告は、「先輩たち、今までも好き放題やってきたでしょ。死ぬまでリタイアさせませんよ」という意味も込めたエールでもある。
 だって、勝ち逃げしそうじゃないですか、この人たち。それはダメですよ。最後までがんばれと。世の中を熱くしつづけてくれと。「団塊は、資源です。」の「資源」ってそういうことなんです。

――広告の反響は?

 フジテレビの朝の番組「とくダネ!」の冒頭で、キャスターの小倉智昭さんがコピーまで全部読んで取り上げてくれたり、宝島社への反響もものすごかったみたいです。特に、当然だけど団塊の世代から多かったと聞いていますね。

――今後、宝島社の広告は、どういう方向に?

 決まってるのは、世の中を広告という装置でザラつかすという目的だけです。だから、ぼくらも次がどうなるかまったく分かりません。ただ、テーマをどれだけ大きくできるかというのは、相変わらずの課題だと思います。単に大きくなり過ぎると普通になっちゃうし、だから、今後もそういうテーマが見つかればやるというスタンスですね。

――どこまで時代を読めるかという力量が問われる?

 時代を読んでるんじゃなくて、「時代を読め」と脅迫されてるんです。

――誰から?

 社長から(笑)。それが「飲み」でいつも言われている究極のオリエンかもしれないですね。そういう意味では、いつも崖っぷちの真剣勝負です。

5月16日 朝刊
 
団塊は、
資源です。

団塊は熱
いるだけで密度のちがう空気を放つ

団塊は波
引いたかと思えばまた寄せてくる

団塊は数
ばらばらに見えてたちまち整列をする

それが自覚的であれ無自覚であれ
団塊はその塊で 前にある壁を蹴散らし
あとには瓦礫と足跡と道を残す
埃っぽく騒々しい しかしそこには痛快がある

日本はこれからも年齢を重ねていく
しかし老いとはちがう何かが待っている気がする
かつてどの時代 どの国でも起こっていないことを
団塊がしでかしてくれる気がする

団塊はエネルギー
しぶといしぶといエネルギー
きっと団塊は死ぬまで退場しない
あとの人々は半ばあきれながらも楽しそうに
彼らの背を追いかけていく
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