AD FILES 2006.7・8/vol.9-No.4・5

伝統を越える革新性のために
三越 経営企画部 ブランド・CI推進室長 坂井 文枝氏
 三越が「デパートメントストア宣言」をし、日本で初めての百貨店として歩み始めたのが1904年。約100年後の今、三越は古くて新しい試みを始めている。4月から3回、読売新聞朝刊に掲載された広告の背景とともに、これからの三越が目指すものを三越経営企画部 ブランド・CI推進室長坂井文枝氏に聞いた。

「新・三越モデル」

 「百貨店は数々のブランド商品を扱っていますが、三越自身のブランドもきちんと考えていこう、ブランド価値を確立していこうという目的でできたのがブランド・CI推進室です」と坂井氏。2006年2月に誕生したばかりの部署だが、そのベースには2005年5月に就任した石塚邦雄代表取締役が提唱している「新・三越モデル」(下図)がある。具体的には三越がよりお客様本位になっていこうという方針のもと、販売員、空間(店舗)、商品という顧客にとってのコンタクトポイントをしっかり見直していくということだ。どんな店であるかはこの3つで決まってしまう。
 「この3つを磨きあげるというのは、小売りにとっては通常の仕事ではあるのですが、まずはスタンダードの定着、ひいてはこれを上回る創意工夫を併せもった店づくりが目標です」
 顧客の要望にこたえるだけでない高い提案性をもった品ぞろえと、本当の意味で来店者にとって見やすい、買いやすい、楽しめる環境であることを優先する。そんなことから新・三越モデルは始まっている。

新・三越モデルの構築
※SI:ストア・アイデンティティー


「上質な大人」を追求

 4月、5月に三越が読売新聞朝刊に掲載した新聞広告のテーマは「日本新発見」。4月20日の広告では人間国宝である陶芸家・濱田庄司氏の作品を日常的に使っているアートプロデューサー白州信哉氏のライフスタイルを紹介し、「優れた芸術文化をお客様に楽しんで頂く」という、来年100周年を迎える三越美術部の精神を表現している。
 5月8日の広告は60年の伝統を持つ三越歌舞伎をモチーフにしたものだ。歌舞伎を正面から見ることはあっても舞台側のアングルから見ることは無い。客席との近さ、臨場感がよく表現されている写真が効果的だ。本誌の読者モニターからも「動きのある華やかな舞台に思わず引き込まれてしまった。日本の文化を地道に支えてきた企業姿勢に好感を持った」というコメントが寄せられた。
 「チケットを購入したい」という問い合わせも多く、結果的にチケットの販促広告にもなったという。  
 ターゲットはすでに三越の良さを分かっている人だけではなく、伝統よりも面白さや、個性を重視する30代から40代だ。
 「三越が提案する上質な大人に向けてのライフスタイルは、新聞を読む人に合うと思います。そんな方に向けて、じっくり見てもらいたいと思い、掲載した広告です」
 ライフスタイルといえば、注目されているのがロハス(Lifestyles of health and sustainability)だ。
 5月30日の広告ではロハスをテーマにしている。これも、三越が提案する上質な大人に向けてのライフスタイルと重なる部分が大きい。  
  「越えてある、日常へ。」というキャッチコピーは、日常をこそ大事にする、でも、これまでの単なる日常ではないものを見つけ、いとおしんで暮らしていくことが大切というメッセージだ。
 坂井氏は「新聞広告にはじっくりと対峙して見ることができるという魅力があります。新聞を読む人はある程度の余裕もあり、情報を得たいという好奇心やライフスタイルへのこだわりもおありだと思うのです。そういう意味で弊社が表現したかったことが良い場と出会えたと思っています」と語る。
 CIの今後の推進に向けては、どんな方針があるのだろうか。
 「『上質な大人』とは何かということをもっと掘り下げて考え、『上質な大人』が求める店舗とはどのようなものかを追求していきたい。それはブランディングに通じるものがあります」と坂井氏。

新たなチャレンジ

 新しい三越を象徴する劇的な動きがある。それは、今年の秋、ショッピングセンターに出店するというプランだ。
 百貨店というのは今まで駅前であったり、大通り側であったり路面に店を構えているというのが普通だった。それが、ショッピングセンターの中に進出するというのは非常に新しいチャレンジだ。
 消費者の購買空間は多種多様になってきており、異業種混合の競争時代に入っている。本当に共存共栄できる形で「さすが三越だ」と言われる価値を打ち出さなくてはならない。
 ショッピングセンター内店舗として、東京・武蔵村山店に続き、第2号が仙台郊外に出店することが決まっている。

三越の価値

 ブランドイメージ調査をすると「伝統」という項目が常に評価される三越。
 「うちの社是は、伝統を越える革新性です。越後屋時代から300年の歴史をひもとくと、常に新しいことをやって、それがお客様に評価されて、それが伝統になって次代に受け継がれてということが繰り返されています。今、本当に伝統を越える革新性にどのくらい肉薄できているのかということが問題だと思っています」
 伝統があるからという理由で購入店舗を選ぶ消費者は減り、欲しいものがあるから行く、欲しいサービスが受けられるから行く、心地よい空間だから行く。そういう時代に競合店と伍していくには、伝統という強みと同時にそれを打ち破るような革新性が必要だ。「新・三越モデル」を基盤に三越の挑戦は続く。

4月20日 朝刊 5月8日 朝刊 5月30日 朝刊

(増田)
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