From Overseas - London 2006.5/vol.9-No.2

英語が生み出す利益
 「アジアと南米が売り上げ増加の下支えとなった」というコメントをよく耳にする。
 例えば、メディア・エージェンシーのカラの親会社であるエイジス(英)が3月に発表したプレスリリースによると、2005年におけるグループ全体の収益は16.5%(対前年比)の増加。地域別に見ると、欧州が9.7%増、北中南米が22.6%増、アジア・パシフィックが41.8%増となる。明確な数字は発表されていないが、特に伸びが著しいのは中国、インド、南米諸国であろう。金融市場と同様、これらの地域に東欧を加えた市場は、広告業界でもエマージング・マーケットであり、各広告会社とも投資を進めているようだ。最近では、パブリシスがインドのマーケティング・エージェンシーであるソリューションズ社、中国のPRエージェンシーであるタランチュラ・グループ、フルサービス・エージェンシーであるベターウェイの株式を次々と買収し話題となった。
 さて、これらの市場は新聞社にとっても投資の対象となり始めた。西欧の新聞市場は日本に比べて落ち込みが激しい。世界新聞協会による2000年から2004年までの日刊紙の総部数の変化を見ると、日本の場合はマイナス2.1%。これに対しイギリスは11.4%、フランスは5.8%、ドイツは7.7%といずれも大幅に減少している。このことが、インターネットへの投資や、成長著しい市場への進出を始めた引き金になっていると考えられる。
 新聞社からの投資に限った場合、中国や南米などの成長市場の中で最も注目度が高いのはインドであろう。
 理由のひとつは、インド政府が段階的に国外からのメディア企業への投資を開放していることである。現在は外国企業によるメディアの持ち株比率制限は26%まで。2004年には英「インディペンデント」などを発行するアイルランドのインディペンデント・ニューズ&メディア(以下INM)が、有力ヒンドゥー語紙の株式を可能枠最大まで買い取った。英「フィナンシャル・タイムズ」(FT)も英語ビジネス紙「ビジネス・スタンダード」の株式取得に約7億円を投じている。また、「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」(IHT)はインド国内で印刷を開始、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)も印刷を計画している。
 インドへの投資が進んでいる理由には、もうひとつ大きなものがある。「英語」だ。
 インドの人口は10億2,874万人。うち、流暢な英語を話す人口は5%に満たないと言われているが、それでも5,000万人程度となる。イギリスの人口は約6,000万人なので、これに匹敵する。また、イギリスの国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルの資料によると、英語を「読める」のは35%、「話せる」のは16.5%という調査もあるそうだから、この数字を信じれば、イギリスをはるかに上回る英語市場となる。
 INM、FT、IHT、WSJ。ドイツやフランスでなく、英語圏の企業ばかりが進出しているのは、言語的な背景が大きいようだ。IHTやWSJのように自社の新聞を発行して利益を上げる方法のほか、記事など英語で書かれたコンテンツを提携インド紙に販売するビジネスも考えられるだろう。
 本稿ではインドをとりあげたが、インドのほかにもパキスタン、バングラデシュ、スリランカ、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、シンガポールなど、英語を話す人口が多い国はアジアに多くある。特に前の3か国は地理的にもインドに近く、インドを足掛かりにマーケットを広げることができるかもしれない。また、中国でも英語を話す人口が増えており、近い将来のマーケットとして注目されている。すでに「タイムズ」が中国紙と提携交渉を始めたという報道もある。
 さて、新聞からは離れるが、イギリスが英語教育で手にする金額は年間約2,700億円、周辺産業や目に見えない経済効果まで含めると2兆円にのぼると試算されている。
 英語教育で利益を上げ、学習がもたらす英語人口の増加により、これら新聞社の投資のようにビジネスの場が広がる。地域はアジアだが、英語という言語が大きなアドバンテージとなっているようだ。
(4月10日)
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