特集 2006.4/vol.9-No.1

クロスメディアをどう発想するか
 クロスメディアを明確に定義するのはまだ難しい。しかし、少なくとも広告の世界では「インターネットなどインタラクティブメディアの活用で広告キャンペーンをより効果的にするメディアの使い方」という意味になりつつあるようだ。新聞広告とウェブの新しい連動の試みもあちこちで始まっている。今回の特集は、こうしたクロスメディアについて、新聞広告活用事例、企業サイト、生活者の情報摂取といったさまざまな角度から探った。

ネットキャンペーンに信頼性の背骨を通す新聞広告

koyamasan.jpのキャンペーンサイトのTOPページ
koyamasan.jpのキャンペーンサイトのTOPページ
 旭化成ホームズは今年1月、「koyamasan.jp」というユニークな名前のキャンペーンサイトを立ち上げ、ヘーベルハウス独自の「制震構造(注)」をテーマにしたキャンペーンを展開した。実効性のあるクロスメディアキャンペーンは、どのような経緯で生まれたのか。今回の企画を担当した営業推進部の竹尾哲哉氏に聞いた。

注)従来の耐震構造は強度を増して踏ん張る仕組み。ヘーベルハウスの制震構造は、自動車がショックアブソーバーとバネの働きで路面からの振動を吸収するように、地震時の揺れのエネルギーを吸収し、柱や梁などの骨組みを損傷させず、建物の揺れを最小限に抑える。


――今回は、キャンペーンサイトを中心に展開されたということですが。
 2005年度は「耐震・耐火」をテーマに年間を通して広告を展開しました。今回は、この「耐震・耐火」の総まとめという意味合いがあり、ヘーベルハウス独自の「制震構造」をテーマにしたキャンペーンでした。この制震構造の価値をお客様に伝えるのはかなりむずかしい。新聞広告でも、なかなか伝わらない内容です。それで、専用サイトで、ヘーベルハウスの耐震性の考え方や独自の制震構造について、開発者に直接説明してもらおうと考えたわけです。

――キャンペーンサイトの名前にもなっている「koyamasan」ということですね。
 ええ、制震構造の開発責任者で、基礎技術室の担当部長をしている小山雅人(工学博士)です。社内的にも、社員をメーンにキャンペーンを行ったのは初めてで、始まってから、グループ会社や周囲の人に「小山さんって誰?」と聞かれることがしばしばありました。それで、今回のキャンペーンはうまくいくかな、と思いましたね(笑)。「小山さん」って、身近に必ず何人かいる名前ですよね。それが、覚えやすさにつながると考えました。

――以前から、旭化成ホームズ主催の「地震・防災セミナー」などの講師としては活躍されていた?
 3年前からやっています。キャンペーン期間中は、小山が講師をする「制震講座」を各エリアで開催しました。

koyamasan.jpのキャンペーンサイトのコンテンツ koyamasan.jpのキャンペーンサイトのコンテンツ koyamasan.jpのキャンペーンサイトのコンテンツ
koyamasan.jpのキャンペーンサイトのコンテンツ


新聞広告で盛り上げ、自信表明も

――ネットと新聞広告を使ったねらいは、どこにあったのでしょう。
 実は、「制震構造の年末年始インターネットジャック企画」というのが、もともとの企画名です。インターネットに予算を集中投下することで、キャンペーンサイトに来てもらって制震構造を理解してもらい、DVDの資料請求や展示場への集客を図るというフローを当初は考えていました。
 インターネットで住宅関連の情報を探している人たちは、「すでに顕在化しつつあるお客様」だと思うのです。その能動化しているお客様をキャンペーンサイトに集めることによって、受注に直結させたい。要するに、短期的に結果の出るキャンペーンにしようというねらいがありました。
 しかし、新聞のような信頼性のあるメディアで背骨を一本通しておかないと、キャンペーンとして世の中的にも、社内的にも、盛り上がりに欠ける。それが、新聞広告を使った大きな理由です。

――新聞広告を使ったのは、サイトへの誘因のためではない?
 新聞広告をウェブの入り口にすることや、今現在は住宅に関心がない潜在顧客に対してメッセージを伝えることも当然、目的としてはありました。実際、新聞広告を掲載した直後にサイトへのアクセスは数千件上がっています。また、15段広告を出すことは、お客様に商品に対する旭化成ホームズの自信を表明することにもなります。「ヘーベルハウスは、この商品に自信があるんだ」と思っていただける。しかし、それが新聞を使った大きな理由ではありません。極端な話、サイトのアクセス数を上げるだけなら、新聞広告の予算をすべてポータルのバナー広告に振り向ければ今回以上のアクセスが得られると思います。
 しかし、キャンペーンとして仕立てるには、その背骨になるものが必要だと思うのです。特に住宅の場合は、社内の盛り上がりが重要なんです。

――どういうことですか。
 住宅は、営業で勝負が決まる商品です。営業担当の対応一つで契約できたり、できなかったりします。だから、営業担当のモチベーションをいかに上げるかも広告の重要な役割です。キャンペーンを営業のフォローにも役立てることが当社の場合は求められます。今回のように外向けにお話しするときは、キャンペーンの仕組みやサイトでどんなことをしたかという話に終始してしまうことが多いですが、実際にキャンペーンを考える場合には、内向きの部分が5割を占めています。
 具体的に言うと、今回のキャンペーンでは「制震住宅開発物語」のDVDをつくりましたが、それをつくることによって、営業がお客様のフォローをしやすくなるということです。DVDの申し込みは、すべて担当エリアの営業が管理して、お客様に直接お持ちするか、郵送するわけです。
 そういう意味では、インターネットだけのキャンペーンというのは非常に厳しいんですね。40万アクセスありました、50万アクセスありましたと言っても、「それが実売につながるか」ということが問われる。営業が「なんかウェブでやってるみたいだねぇ」と思う程度では、おそらく住宅は売れない。

――それをつなぐために「制震住宅開発物語」のDVDが必要だった?
 そうです。「制震住宅開発物語」を見た営業が、お客様に「これ、本当にいいから、絶対に見てくださいよ」と心の底から勧められるかどうかなんです。それが販売に大きく影響します。営業のモチベーションを上げるようにキャンペーン企画を組み立てることが非常に重要なんです。

モノづくりの思いを伝える

2006.1.17 朝刊
――新聞広告は、ずいぶん思い切ったデザインでしたが。
 このクリエイティブは、インターネットを使ったキャンペーンだからこうなっているんですね。要するに、今回のキャンペーンのロゴをつくってしまおうという考え方です。バナー広告もすべて同じデザインで通しています。先ほど言いましたが、新聞広告にはウェブの入り口という意味合いもあります。直接URLを打ち込んでもらう場合もあれば、バナー広告を見て新聞広告を想起してもらうことで、クリックを促進するという効果もねらっています。

――このデザインは制震構造をシンボライズしている?
 そうです。筋交いをモチーフにしたものです。デザイン的にもキャンペーンに背骨を一本通したということですね。

――新聞の掲載日ですが、火曜日ですね。通常、展示場への来店を見込むなら週末だと思うのですが。
 1月17日は阪神大震災の起こった日です。掲載日にこだわった理由も「koyamasan.jp」から来ています。開発責任者の小山が制震住宅をつくろうと思ったのは、阪神大震災が起こって、チームの一員として現場を見にいった時だったのです。幸いヘーベルハウスは震災で一棟も全壊・半壊がなかったのですが、震災の惨状を見て、もっと大きい地震が来ても壊れない家の開発をしていかなくてはいけないと小山は思った。そこから制震住宅の開発が始まっています。
 1月17日は、阪神大震災が起こった日として世の中の人たちが注目する日ということもありますが、同時に旭化成ホームズにとっては制震住宅開発スタートの日でもあるのです。それが、ぜひこの日に新聞広告を出したいと思った理由です。
 実は、DVD化した「制震住宅開発物語」は、その1月17日から商品化するまでの苦節7年間の開発の物語です。そういう意味でいうと今回のキャンペーンは、新聞広告の入り口からDVDのフックまで、旭化成ホームズのモノづくりに対する思いを軸にして展開したということです。

――ヘーベルハウスのファンになってもらうことを目的とした?
 実際、DVDを見て「すごく感動した」というのでご契約をいただいたお客様も何人かいらっしゃいます。家という商品は、どうしても機能説明一辺倒になりがちです。例えば耐震性を理解してもらうためだったら、家を何十回揺らしても大丈夫だとか、振動実験を見せたりとか、ベネフィットを直接伝えるやり方が多い。もっとお客様の共感を得ることに今回は比重を置きたいと思いました。
 旭化成ホームズと付き合いたくなってもらえるような情報の発信をしたかったということです。そういう意味でも、「小山さん」という人を通して制震構造の価値を理解してもらう今回のキャンペーンは成功だったと思います。

企画ページで資料請求に差が

Yahoo! JAPANの企画ページ
Yahoo! JAPANの企画ページ
――キャンペーンサイトの集客はバナー広告を中心に考えていた?
 住宅に関する情報を積極的に探している人たち、顕在化したお客様がいるネットで、キャンペーンサイトに人を集めようとしたらバナー広告だろう、という単純な発想です。主だったポータルサイトはほとんど押さえました。また、バナー広告をクリックしてすぐサイトに飛ぶのではなく、原則として、各ポータルに企画ページを提案していただいて、そこからキャンペーンサイトに来る形を取りました。それぞれのポータルの切り口で旭化成ホームズの制震構造をテーマに企画ページをつくってもらったんですね。ですから、震災理解度をクイズ形式にするとか、耐震のためにあなたはリフォーム、建て替えどちらを選ぶかなど、いろいろな切り口の企画ページがありました。

――バナー広告の効果はどうだったのでしょう。
 資料請求の数は、実はポータルサイトによってかなり差がでました。

――サイトへのアクセス数を効果測定の基準にしたのではない?
 もちろん、「koyamasan.jp」を見てもらった数字も見ていますが、バナー広告からのアクセス数はどのサイトもほぼ同じでした。ところが、利用者層が同じようなポータルでも、DVDの請求数に5倍から6倍の差が出ました。どう考えても企画ページの違いとしか考えられないんですね。

――バナー広告から直接キャンペーンサイトに来てもらうより企画ページを挟んだ方が効果がある?
 今回分かったことは、間に挟む企画によって、サイトへのアクセス数ではなく、資料請求数がまったく違うということです。要するに、「koyamasan.jp」に来るまでに、どれだけ耐震に対する気持ちを高められたかということが、最終的な資料請求に影響すると見ています。

展示場の5社に選ばれるために

――今回のキャンペーンの効果を測る一番の基準は、資料請求の数ということですか。

 そうです。本当は展示場への来場者数まで調べたかったのですが、なかなかそこまではつかめません。今回ウェブを中心にしたキャンペーンを考えたのも、最近の住宅のお客様はネットでとことん調べるからです。やはり、ウェブをつくり込むしかないと思っています。

――何割ぐらいがネットで調べて展示場に来るのでしょうか。
 正確なデータはないですが、7、8割はそうだと思いますね。展示場に来るお客様は、既に見るところは5社に絞られていると言われています。お子さんが一緒だったらそれでも見るのは大変です。その5社の物件を見て、営業マンの対応で3社前後から提案を受けるというのが、一般的なパターンだと思います。ですから、展示場に行くまでの5社に残らなければ、検討すらされないわけです。住宅の場合の最終的な広告の目的、特にウェブの役割は、そこにあると思っています。

――先ほど、営業のモチベーションを高めるために新聞広告が必要だったという話がありましたが。
 ウェブで5社に選ばれたとしても、対面力で負けてしまったらおしまいです。そこでモチベーションを上げてお客様にいい提案ができれば、3社に残れる。そのためのDVDというフックであり、新聞広告だったというのが今回のキャンペーンです。
 そこから契約が取れるかどうかは、広告の世界ではないですから、われわれができるところはそこまでなんですね。

今後のキャンペーンの方向性

――キャンペーンの5割は内向きの対策だというのは、そういう事情を聞くと納得できますね。

 住宅は、やはり特殊な商品だと思います。「だから、こういう企画になった」というところが大きいと思います。ソリューションを売っているBtoBのビジネスに、もしかしたら近いかもしれません。それを結局、個人に対してやっているのが住宅だと思うのです。でも、完璧に同じ商品は見あたらないですね。
 高額商品という意味では車と同じですが、車はプロダクトを売っている。住宅という商品もプロダクトではあるのですが、それをどう組み合わせて、お客様の問題解決に結びつけるか。やはりソリューションの要素がかなり入ってきます。個人の営業力がすごく大きい仕事なんですね。

――今後も自社サイトを使ったキャンペーンを続けていく予定ですか?
 それは未定です。ただ、インターネットは充実させていかなければいけないと思っています。さきほど、バナー広告の後に挟み込んだ企画ページの話をしましたが、双方向の部分を、いかにつくり込んでいくかということが重要だと思っています。ただ情報発信しているだけでは、効果は上がらない。確かによく言われていることですが、今回の企画でそれが感覚として経験できました。それが今後の課題だと思います。
 そういう視点から、住宅展示場で見る5社に選んでもらうために、お客様に共感してもらえるコンテンツをインターネットにつくり込んでいなくてはいけないし、それに新聞広告など信頼のあるメディアを使って、キャンペーンに背骨を通していく。そういうキャンペーンの作り方に今後はなっていくと思います。



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