立ち読み広告 2006.4/vol.9-No.1

本は本のスペシャリストに聞け。
 3月1日の夕刊には驚いた。いきなり第一面下3段で「本屋さんへ行こう!」と始まって、18面まで各界の著名人が本について語っている。美容研究家の佐伯チズから演出家のテリー伊藤までと、人選も幅広い。豪華だ。
 しかし、私が心底驚愕したのは8面と16面の「本屋さん100人にオススメ本を聞きました!」という企画である。100人の書店員がひとり一冊ずつ、読売新聞読者にお薦めする本を選び、その内容についてコメントしている。全員の顔写真入りで、所属書店の最寄り駅まで載っているところが素晴らしい!
 この夕刊マルチを見ての興奮を冷まして、ちょっと考えてみると……。
 
すぐれた本屋に目利きの書店員

 これまで書籍の広告といえば、評論家や作家などいわゆる識者かタレントのコメントを使うのが定番だった。ところがここ1、2年、書店員のコメントを使ったものが目立つようになっている。
 理由はいくつかあるだろう。たとえば、コメントした書店員が所属する書店チェーンでは、その本を強くプッシュしてくれるだろう、なんていう下心も、もしかすると。
 でも、最も大きな理由は、出版点数があまりにも増えて、書店員しか出版物を俯瞰(ふかん)することができなくなっているからだと思う。いま年間の新刊発行点数はムックも含めると約8万点。70年代初頭は2万点だったから4倍になった。1日平均220点。ウイークデーだけで計算すると300点を超す新刊が毎日出ている。私たち評論家、書評家なんて、そのうちのほんの氷山の一角しか見ていない。書店員の皆さんは、毎日、この膨大な数の新刊書を一冊一冊手に取って、陳列の仕方や販売方法を考えているのだ。すぐれた本屋には目利きの書店員がいる。

本屋から生まれるベストセラー

 書店員は毎日、お客さんと接している。読者が何を求めているのか、肌で感じている。しかも書店員は、これはと思う本をお客さんに手渡すこともできる。いわば本と読者の出会いをコーディネートするのが書店員であり、その意味で書店はメディアだ。ひとりの読者から見ると、書店員はもっとも身近な本の案内役なのである。
 実際、書店発のベストセラーやロングセラーは多い。全国の書店員が売りたい本を選ぶ「本屋大賞」は、今年やっと3回目になるというのに、はやくも芥川賞・直木賞に次ぐ注目度である。
 昔もカリスマ的な書店員はいた。出版社が新しい企画を立てるとき、助言を与える書店員もいた。しかし彼らは出版業界の中だけで有名人であり、読者にまでその名を知られることは稀だった。黒子的存在だったのである。いまは書店員が表で発言するよう求められている。
 書店員が注目されるのはいいことだ。「オススメの本は?」という問いには、かなり緊張する。この緊張感が個々の書店員のスキルアップにつながるだろう。
 唯一不満なのは、これだけ書店員の仕事の重要性が認識されながらも、彼らの待遇が悪いことだ。大卒初任給でもアルバイトの時給でも、一般に比べると1割以上低い。評価に見合った待遇をしないと、書店の力が先細りになってしまう。お願いです、書店員にもっともっと光を!

3月1日 夕刊 8面 3月1日 夕刊 16面
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