特集 2003.9/vol.6-No.6

食卓は語るー食の実態から見えてくる問題ー

 現在の家庭の食卓をありのままに調べた1冊の本が刊行された。そこに描かれている食卓の変容ぶりは、家庭の食のあり方だけでなく、マーケティングリサーチや産業のあり方、さらには社会のあり方までを私たちに問いかける。現代社会が抱えるあらゆる問題が、そこに凝縮されているように思える。

<食DRIVE>調査がとらえた現実

 『変わる家族 変わる食卓―真実に破壊されるマーケティング常識―』(勁草書房)という本が出版された。著者は、広告会社アサツーディ・ケイで食卓、家族、主婦などをテーマに長年、調査研究に携わっている岩村暢子氏。首都圏に在住する子供を持つ1960年以降に生まれた主婦を対象に、1998年から実施している〈食DRIVE〉という丹念な定性調査から見えてきた現代の食卓の実態をまとめた本だ。
 それは、家族の食卓の激変ぶりを示すこと以上に、これまでのマーケティングが前提としてきたものの変更も迫るものだ。その内容を、著者の話を交え紹介していく。
 
 食の外部化や個食化は、90年代以降、マーケティングの問題としてでなく、社会問題としてもマスコミに取り上げられてきた。簡単な料理の基礎を知らない若い女性や、スナック菓子を食事代わりにする若者などが、話題として人々の興味を引いた。
 しかし、『変わる家族 変わる食卓』の舞台は、子どものいるごく一般的な家庭の食卓だ。その食卓の変化を詳細な定性調査で追ってきたのが、〈食DRIVE〉調査だ。
 〈食DRIVE〉は3つのステップで行われる。第1ステップは、食事作りや食生活、食卓に関する意識や実態などについて質問紙で尋ね、回答を回収する。第2ステップでは、1日3食1週間分連続で、毎日の食卓に載ったものについて、使用食材の入手経路やメニューの決定理由、作り方、食べ方、食べた人、食べた時間などを日記と写真で記録してもらう。第3ステップでは、第1ステップの回答と第2ステップの日記と写真の記録を突き合わせて分析・検討した後、矛盾点や疑問点を中心に背景や理由を細かく問う詳細面接を行う。この第3ステップで、アンケートへの建前的な回答と実態とのギャップ、その真相や背景が明らかにされていく。
 調査は原則として年1回行われているが、1998年から2002年までに計6回、延べ111世帯、2331食卓の調査を実施している。
 〈食DRIVE〉は1960年以降生まれの主婦を対象にしているが、その年代に対象を限定したのは、それまでの「背景研究」から、60年以前生まれと以後生まれとでは、「食」に限らず生活の様々な分野の価値観、感覚、行動に大きな違いのあることが明らかになっているからだという。
 食器を洗うのが面倒だからと広告紙やチラシを皿代わりに食べる朝食、パックのまま出される豆腐やハム、好きなものが食べたいからと会社帰りにコンビニやファストフードに寄る夫、いつもあるものではなくなった味噌汁やご飯などの基本メニュー。家族が食べなければ「無駄」と判断され、食卓に上らなくなる野菜料理。「食べることに興味がないので」と平気で語る主婦も多い。実際の調査から浮かび上がってくる食卓の実態は、かつてのホームドラマに描かれていた家族団らんとはほど遠い。
 こうした食の変化は、「女性の高学歴化」「女性の社会進出」「生活時間の夜型化(深夜化)」などを原因とすることが、ひとつの定説になっていたが、この調査から見えてくる食卓の現実は、そんな原因を語ってみても、ほとんど有効ではないことを示している。同時に、〈食DRIVE〉調査から見えてきたものは、これまでのマーケティングが前提にしてきた「常識」と、実際の家族や食卓の実像との大きな乖離だ。
 本書ではそれらを簡潔な見出しで表現している。本稿でもその見出しを追って、順に事実を紹介していく。


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『変わる家族 変わる食卓』を書き終えて
岩村暢子氏→


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