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ojoトップ  > 特集  > おお、紙よ!:「紙」は知識を定着させるインターフェイス

特集おお、紙よ!

(Wed Oct 05 10:00:00 JST 2016/2016年10・11月号 特集)

「紙」は知識を定着させるインターフェイス

―認知科学から見た紙メディアと電子メディア―

東京大学名誉教授   日本印刷学会元会長   尾鍋史彦 氏

尾鍋史彦 氏

紙メディアや電波メディアなど既存メディアがすべて電子メディアに置き換わることはない、という意見に異を唱える人は少ないだろう。それでは、電子メディアと紙メディアの違いとは何だろうか。紙メディアだからできることは何なのか。それを認知科学の観点から長年探求してきたのが、尾鍋史彦氏だ。

人間の五感との親和性が高い紙

── 先生は、メディアにとって大事なのは「人間の感覚との親和性」だとおっしゃっていますね。

  メディアと人間の五感との関わりで、最も親和性が高いのが「紙」です。紙に触れることによって脳が活性化し、意識を集中させ、紙メディアに載っている情報が生理的な違和感を伴わないで認知され、脳内の長期記憶貯蔵庫に格納されやすくなる。文字を記録するメディアとしては、石や甲骨、粘土板、羊皮紙など歴史上いろいろあったわけですが、紙の人間の感覚との親和性の高さが、太古の昔から現在まで持続的に使われてきた最大の理由だと考えています。
  電子メディアも、表示に液晶や有機ELなどを使ってこうした紙の特性に近づこうとしていますが、まだ“見るだけのメディア”で、五感に訴え、記憶を安定化させるまでには至っていません。スマートフォンやタブレットは、その場で情報を見るというレベルではいいメディアですが、本や新聞など紙メディアで情報を得たときと違って、知識や知恵として自分の血肉になりにくいのです。

── メディアの特性は認知のあり方と深く関わっているということですか。

  メディア理論の考え方と発達心理学の考え方を組み合わせると、人間の情報処理過程を説明する認知科学理論ができると考えています。「認知科学」というのは、心理学の先端分野の一つで、コンピューターによる情報処理過程と人間の脳が行う情報処理過程を比較しながら、人間の情報処理モデルを組み立て、人間の「知」の領域で行われている情報処理の仕組みの解明を目指す学問で、コンピューターの出現と同時期の1950年代に始まっています。特に近年は脳科学との連携で、人間の知覚・学習・記憶などの認知行動の仕組みが明らかになりつつあります。

── 脳科学との連携というのは、どういうことですか。

  脳科学というのは、脳波や脳の血流量、さらには目の動きや身体の動きをそれらと連動させながら、実験データを元に脳がどうなっているか、どういう働きをするかを解明していく学問です。一方、認知科学というのは、さまざまな認知現象を集めて、その中から人間の認知行動をモデル化し、理論体系を作っていく学問です。短期記憶と長期記憶は記憶のメカニズムが違うと言われますが、これも記憶プロセスをモデル化しているわけです。
  もちろん、脳科学と言えども人間の記憶を可視化できるわけではありません。現在の脳科学でわかるのは、脳内のどの部位が活性化しているのか、脳波の形状がどうなのかくらいです。しかし、短期記憶と長期記憶でメカニズムが違うというモデルがあれば、それを元に脳科学が検証のための実験を試みることができるわけです。両者は相補的関係にあるということなんですね。

マーカーを引いたり書き込みをして運動野を働かせながら記憶するのが有効

紙の情報が長期記憶されやすい理由

── 人間の感覚に親和性が高いメディアは情報が認知されやすいというのは、認知科学ではどのように説明できるのでしょうか。

  心理学でモノやコトを評価するとき、「感情価(hedonic value)」という評価尺度があります。その物事が人間に対してどのような感情を引き起こすのかという尺度です。快・不快、興奮・沈静、緊張・弛緩などの感情をどの程度引き起こすか、感情価によって定性的な評価が行われます。一般的に人間は、“快”の感情価の高い物事に対して接近行動を、低い物事に対しては回避行動を起こす習性があります。私は、この「感情価」がメディアの親和性に深く関わっていると考えています。人間にとって紙メディアの感情価は高く、人間は紙メディアと対峙すると、使ったり、読んだり、書いたりしたいという接近行動をしようとする欲求が生まれるのです。

── 紙メディアに載っている情報は脳内の長期記憶貯蔵庫に格納されやすくなるというのは、どうしてなのでしょうか。

  認知科学に短期記憶と長期記憶という二つの貯蔵システムを想定する「記憶の二重貯蔵モデル」があります(図1)。視覚情報はまず感覚登録器に一時的に保持され、そこで注意の喚起などで選択された情報が海馬の短期貯蔵庫に入力され、一定期間保持される。さらに、そこで反復されたり、強く印象づけられた情報は大脳皮質の長期貯蔵庫へ転送され、永続的に貯蔵されるという記憶モデルです。人間の感覚に馴染んだメディアでないと、海馬から短期記憶を経て、長期記憶に移行されるということは起こりにくいのです。
  例えば、本を読んでいて大事なところに線を引くことがありますね。線を引くことによって、ただ読んでいるのではなく、指の触覚が繰り返し刺激される。そうすると脳の運動野が働くのです。視覚野と運動野が総動員して情報を何度も大脳皮質に刻み込む。それが、紙に線を引きながら読むと“納得できる”ということにつながるわけです。

── 紙の書籍は、何がどのへんに書いてあったかという記憶は特に意識しなくても残りますが、電子書籍の場合は……。

  電子書籍は物質的な“厚み”がないですから、何ページ目という位置の記憶がありません。それで最近問題になっているのが、旅客機の操縦席に置いてある緊急時マニュアルです。昔は分厚い紙のファイルだったので、ページをめくってすぐ必要な箇所が見つけられた。それが最近はタブレットですから、全体の中の位置がわかりづらい。緊急のときにかえって危ないと言われているんですね。

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