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ojoトップ  > 特集  > おお、紙よ!:紙の代替財を狙う電子ペーパーの野望

特集おお、紙よ!

(Wed Oct 05 10:03:00 JST 2016/2016年10・11月号 特集)

紙の代替財を狙う電子ペーパーの野望

産業技術総合研究所   フレキシブルエレクトロニクス研究センター長  筑波大学大学院数理物質科学研究科 教授   鎌田俊英 氏

鎌田俊英 氏

「電子ペーパー」とは、世界中の企業や研究機関が熾烈な開発競争を繰り広げている次世代ディスプレーのこと。そのトップを走っているのが産業技術総合研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センターだ。電子ペーパーの開発はどこまで進んでいるのか。タブレット端末とは何がどう違うのか。開発の中心になって活躍する鎌田俊英センター長に、素朴な疑問からぶつけてみた。

紙はまだ電子化されていない

── 鎌田先生が研究されているフレキシブルデバイスとは、どういうものですか。電子ペーパーと同じと考えていいのでしょうか。

  電子ペーパーは、フレキシブルデバイスの一つのカテゴリーです。軽い、薄い、落としても壊れない、形状の自由度が高いという特徴を備えたものがフレキシブルデバイスで、電子ペーパーのようなディスプレーだけでなく、フィルムのように自由に変形するセンサーやメモリーといったデバイスの研究開発も我々のテーマです。

── 最初に確認しておきたいのは、電子ペーパーとiPadやKindleなどタブレット端末との違いです。

  確かに、タブレットが普及したことによって、電子ペーパーとの違いがよくわからなくなっているところがあります。電子ペーパーというのは、本来、「紙の代替」を目指したものです。一方、iPadやKindleというのは「コンピューターの進化版」、電子機器です。コンピューターを使いやすくしたものがタブレットです。
  電子ペーパーの特徴は、次の3つに大きくまとめられると思います。
   ①何度でも書き換えできる
 ②書き換え時以外は電気がいらない
 ③所有感がない

フレキシブルディスプレーの実現には、プラスチックフィルム上に薄膜トランジスタ(TFT)を用いた集積回路を製作する必要がある。この開発は、産業技術の事業化を支援する国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援で行われた

── 最初の「何度でも書き換えできる」から、具体的に説明してもらえますか。

  電子ペーパーが元々目指していたのは、「再生型電子紙」でした。つまり、何度でも書き換えできる“捨てなくていい紙”が電子ペーパーの概念でした。
  数年前に、あるメーカーが、文字が消せるトナーとコピー機を発売しましたよね。同じコピー用紙を何度も消して使える。そのためには、特殊なトナーとコピー機が必要でした。本来の電子ペーパーというのは、そのトナーとコピー機なしに、電子的に文字や図を書き換えられるようにするという概念だったと思います。
  タブレットは、電子ペーパーの概念からすると機能が付き過ぎなんです。動画が見られる、写真が撮れる、ウェブが閲覧できる、音楽が聴ける。いろいろ便利な機能を詰め込み過ぎている。タブレットが先に普及したことによって、紙が持っている便利さを忘れて、すべてタブレットで済むと錯覚している人が多いと思いますね。

── タブレットにはない便利さがあるということですね。

  多機能であることよりも使いやすさを重視しているということです。みんな、今でも紙をたくさん使っていますよね。だから実際は、本当の紙がまだ電子化されていないということなのです。

書き換え時以外は電気がいらない

── 二番目の「書き換え時以外は電気がいらない」というのは?

  紙は、何か書けばその状態が保持されます。電子ペーパーも同じです。書き換える時には電気が必要ですが、一度書き換えれば、その状態が保持されます。タブレットは液晶である以上、常に電気を流していないと動きません。紙である電子ペーパーと電子機器であるタブレットの一番の違いがそこです。

── Kindleには液晶ではなくE Ink(イーインク)が使われています。「E Ink=電子ペーパー」というイメージを持っている人も多いと思うのですが。

  E Inkというのは表示方式の一つです。一度書き換えたら電源を切っても表示される方式で、タブレットに使うことも、やろうと思えば我々が開発している電子ペーパーに使うこともできます。Kindleはそれをタブレットの表示方式に採用しているだけで、Kindle全体としては電気がなければ動かない電子機器であることに変わりありません。

── 確かにKindleはバッテリーがなければ動きませんね。

  バッテリーが必要という時点で、紙ではないのです。「電源を持たない」というのが、電子ペーパーの基本です。最低限の機能しかないほうが、結局は使いやすいのです。
  想定される電子ペーパーは紙と同じ程度の重量、厚さで、折り曲げも自由。手書きにも対応していて、電源のある場所の上で電子ペーパーに字を書けば、その場で電子化され、あとは紙のように電源なしでどこへでも持っていけるというものです。また、手書きで書いた情報は、同時にクラウドに送ることもできます。紙を電子化してネットワークにつなげることで、文字どおり情報機器になるわけです。

E Inkは表示方式

E Inkは、画面に白と黒の粒子が入ったマイクロカプセルを敷き詰め、これらの粒子を電界によって移動させることで文字や画像を描画する表示方式で、電子ペーパーにもタブレットにも使える。E Ink=電子ペーパーではない

── いろいろな使い方ができそうですね。

  よく言われている例は、電車やバスの時刻表です。年に1〜2回だけ替えるのに、今までは全部印刷し直していた。この手間と費用はばかになりません。では、電子ディスプレーにすればいいかというと、設置費用も電気代もかかる。だから、電子ペーパーなのです。

── 掲示板にも良さそうですね。

  今までの紙のように電子ペーパーを掲示板に貼ってもいいし、電子ペーパーを貼ったまま、データの入ったコントローラーを接触させることで内容を書き換えるようにもできます。1週間も経てば捨てる情報ですから、常時ネットワークにつないでおく必要もありません。そういう情報は、たくさんあると思いますね。

── 駅や街中の広告は、デジタルサイネージに変わってきていますが。

  電車のドアの上や駅のポスターは、電子ディスプレーに変えたほうが広告的にも効果的かもしれませんが、車内吊り広告がすべて動画になったらかえって見にくい。今は係りの人が電車内を脚立を持って歩いて差し替えていますが、電子ペーパーならリモコン一つで簡単に内容を差し替えられるようになる。要は、電子ディスプレー、電子ペーパー、それぞれの良さを生かす使い方が大事だと思いますね。電子ペーパーはいろいろな使い方ができると思いますが、やはり紙の持つ便利さや使い勝手から学ぶことが大事で、電子機器の都合に人間の生活を合わせる必要はないということですね。

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